第704話、研究所強襲
ガンダーフトは、『キアルヴァル』が
無理もない。魔法軍特殊開発団において、アマタス将軍は、その所在が中々掴めないという評判が立つ人物である。
何せ、昨年の西方諸国侵攻作戦において、第二軍の指揮官に任命され遠征したはずが、いつの間にか本国に戻っていたくらいだ。
ちなみに、魔獣21万の第二軍はおろか、ガルネード将軍の第一軍もヴェリラルド王国国境付近で全滅。だが、この件でアマタスが何らかの処罰を受けたという話はない。大帝国軍内において七不思議を上げるなら、この件を入れてもいいかもしれない。
とにかくアマタス将軍は精力的に活動しているといえば聞こえはいいが、組織内部においても、彼女が何をしているのか、何をしたいのかよくわからない。
魔獣関係の研究の第一人者ではあるが、天才にみられがちな凡人には理解しがたい思考や言動が度々見られる。
魔法軍特殊開発団のトップにいるものの、名目の上では、であり、実際に開発団を動かしているのは各部門の幹部たちであったりする。……最近は、その幹部のひとりに成り上がった馬東サイエンのもとにいることが多いとされてはいるが。
「さすがのアマタス将軍も、
大帝国軍の索敵が変わる、つまりは歴史の一ページに刻まれる出来事である。名目上とはいえ、魔法軍特殊開発団の最高責任者である彼女も、顔を出さずにはいられなかったのだろう。ガンダーフトは思った。
深夜の警戒シフトだった研究所だったが、眠っていた兵も叩き起こされた。急いで歓迎のための準備、そして整列をさせる。
空中艦係留所まわりの投光器が点され、夜間にも関わらず、煌々と明かりを灯した。いくら空中艦といえど、山に激突しては無事には済まない。安全な発着場所への誘導装備は整えられている。……整えられてはいるのだが。
「何も、このような深夜に来なくてもいいものを……」
兵たちも同じように思っているだろう。非常呼集など迷惑この上ない。昼間に来れば安全の度合いも、と思ったが、この時期、明け方は割と霧が発生しやすいため、実は大して変わらなかったりする。
さて、あの変わり者の将軍が来たら、どのような顔をすればいいのか――ガンダーフトは、アマタス将軍の出迎えについて考えを巡らせながら、屋外に出た。
すでに兵たちが部署ごとに整列していた。ガンダーフトが右へと視線を向ければ、投光器によって浮かび上がった新鋭高速クルーザーが近づいてきているのが見えた。
キアルヴァル……だよな?
ガンダーフトは違和感を覚える。明るい昼間ならともかく、夜間で、しかも部分的に浮かぶ艦のシルエットに眉をひそめる。
艦体色はあんな色だったか……? いや、かく言うガンダーフトとて、研究所にこもっての研究漬けの毎日だから、空中艦の塗装の変化など一々確認していないし覚えていない。だが奇異に感じることはあるのだ。
その時、光がガンダーフトの視界を突如覆った。研究所前の係留所に整列していた兵士たちの一団が光に包まれる、次の瞬間、封じ込まれていた膨大な熱エネルギーが解放されると同時に、彼らを蒸発させた。
・ ・ ・
高度1万メートル。航空巡洋戦艦ディアマンテの艦橋で、アーリィーはその光景を見ていた。
旗艦制御コアである銀髪の女軍人――ディアマンテは、淡々と報告する。
「四番、五番砲塔、異常なし。アーリィー殿下、第二射、撃てます」
「攻撃続行。敵の目を、発着場に向けさせて」
司令官席に座るアーリィー。その組まれた手は自然と力がこもった。
『ディアマンテ』の14インチプラズマカノンの光。その光が地上に着弾した時、そこにいた帝国兵十数人が一瞬で消滅した。
――ボクの指示で。ボクの命令で、人があんな簡単に。
自然と顔が強ばった。ジンが光の掃射魔法を使うところを、アーリィーは間近で見た。それに比べたら、たかたが十数人。それなのに、どうして胸の奥が圧迫されるような苦しさを感じるのか。
――ボクだって、魔獣を殺してきた。青肌エルフがエルフの里を襲った時だって、トロヴァオンを操縦して、グリフォンライダーを撃墜した。こういうの、まったく初めてじゃないのに……。
今は安全な高高度から、戦場を見下ろしている。自分が直接手を下したから? オークやアンバンサー相手では苦しさは感じなかったのに。
――ジンは……ずっとこんな気持ちを味わいながら、戦場に立ち続けたのかな……。
ジン・アミウール。連合国の英雄魔術師。光の掃射魔法で多くの大帝国兵を葬ってきた男。
『ディアマンテ』の下部前方の主砲2基が、再び光の束を放った。それが研究所前の発着場に滑り込みつつある『キアルヴァル』を出迎えのために出てきた大帝国兵を吹き飛ばす。
彼らは、こちらからの光について、右往左往している。まるで蟻のよう……。天に住まう神は、地上にいる人間たちをこのように見下ろしているのだろうか。
「殿下、キアルヴァルが目標の発着場に到着します」
ディアマンテの声に、アーリィーは頷く。
地上の敵は混乱している。そこに『キアルヴァル』――シェイプシフター強襲兵とダークエルフの戦士団が雪崩れ込んできたらどうなるか。
――まだ少し、慌ててもらうよ。
アーリィーは心の中で呟いた。ジンたちが目的を果たすまでは。
・ ・ ・
巡洋戦艦からの砲撃が始まった。
研究所潜入部隊――俺とベルさん、ディーシー、ユナ、エリサとラスィアさん、SS強襲兵の二個分隊は、発着場の反対側の防壁を突破していた。
「おうおう、派手にやってるようだな」
暗黒騎士なベルさんがデスブリンガー片手に笑う。
天からの光が飛来するたびに、研究所の職員や警備の兵たちが命を散らしているだろう。研究所を守る守備兵たちは、発着場での騒動に動転し、周囲への警戒が疎かになっていた。
さらにトドメとして、高速クルーザー『キアルヴァル』が乗り込み、その艦底部から飛び出したリーレやサキリス、ヴィスタ、ヴォード氏とシェイプシフター強襲兵。さらにルカー氏率いるダークエルフの戦士団が混沌の場に突入する。
その間に、俺たち潜入部隊が捕らわれている亜人を救出するのだ。ラスィアさんは俺たちと亜人たちの橋渡し役。エリサは衰弱している亜人がいれば手当を担当する。
「あ……!」
研究所の裏手に差し掛かった時に、大帝国兵が現れ、俺たちに気づいた。通報すべく、
二発が帝国兵の兜ごと脳天を貫いた。同時に二人のシェイプシフター兵が撃ったが見事に命中である。
裏手に取り付き、その出入り口を俺たちは取り囲む。
「さあ、侵入だ」
・ ・ ・
その頃、研究所の周辺の山々に配置された5つの監視所にも、ウィリディス軍の攻撃の手が伸びていた。
TF-4ゴースト戦闘攻撃機。
下面に搭載した可動尾翼を真下に伸ばし、さながら一本足で立っているような戦闘機は、研究所への攻撃が行われた直後から、それぞれ潜んでいた山陰を飛び出した。
可動尾翼を後方へ動かし、高速形態となったゴーストは、帝国監視所――石造りの三階建てほどの高さの塔へ急接近。翼下に懸架してきた対装甲貫通
空対地ミサイルは、塔の一階に命中、その石の壁を貫くと、内部で爆発。監視所を根元からバラバラに吹き飛ばした。
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