第705話、黒鉄
スール研究所に隣接する空中艦係留所に、『キアルヴァル』は到達した。艦を降ろし、運んできたシェイプシフター強襲兵と、ダークエルフの戦士団を吐き出す。
「かかれ! 我らの里と同胞たちの仇を討てぃ!」
ルカーが声を張り上げれば、アコニトで家族や友人を失ったダークエルフの戦士たち――男も女もなく、鬨の声をあげながら、帝国兵に突撃した。
先陣を切るSS強襲兵も早いが、森を素早く駆けることに長けたダークエルフたちも負けじと吶喊する。
一方、出迎えのための集合から、謎の光による攻撃と、被害を受けた味方への救助で混乱の極みにあった守備兵は、この襲撃にまったく対応できなかった。
シェイプシフター強襲兵のタックルじみた低姿勢からの刺突。ダークエルフの投射魔法からの流れるような近接武器での斬撃や突きに、大帝国兵は次々に血祭りにあげられる。
大帝国魔術師が魔法で反撃を試みるが――
「魔法なんて使わせねえよ……!」
リーレが眼帯をはずし、黄金眼で魔術師を見据え、その魔法を無効化する。
勢いは完全にダークエルフ、SS強襲兵にあって、周囲の敵兵は倒されていく。だが研究所守備隊も黙ってやられているわけではない。
「ガンダーフト殿は!? どうされたのだ!」
施設警備担当の中隊長が怒鳴る。係留所から戻った兵が大声で報告した。
「わかりません! 空からの光に飲み込まれてから、どこにいるかわかりません!」
「中尉殿、表に出た第一中隊はほぼ壊滅。敵はこちらにも向かってきます!」
正面を警戒する小隊からきた兵士が報告に割り込んだ。警備担当の中隊長は歯噛みした。
「おのれ……! 敵から施設を守るのだ! 兵を集めろ! ゴーレムを出せ!」
研究所の警備は、発着場に乗り込んだ『キアルヴァル』へ集中していた。
SS強襲兵とダークエルフの侵入を阻止すべく、正面入り口の防備を固めつつ、戦闘用ゴーレム『黒鉄』を差し向ける。
高さ3メートル。全身鉄で覆われた重厚な人工巨人は、その体に不釣り合いなほど太い腕を振り上げ、ゆっくりと前進してくる。その数10体!
ダークエルフたちは、鋼鉄の巨人の行進に目を剥く。弓や投射魔法を浴びせるが、その装甲の厚さを打ち抜けない。SS強襲兵もライトニングバレットを撃つがやはり通用しない。
魔人機ほどではないが、さすがゴーレム、頑丈だ。だが――
「任せろ!」
ヴォードが大剣を手に、先頭のゴーレムに向かう。巨漢である彼もゴーレムから見れば子供のようだ。しかしSランク冒険者は怯まない。
「自分より大きな
振るわれるゴーレムの豪腕。喰らえば粉砕死は免れない脅威の一撃をかわし、ドラゴンブレイカーを横なぎに一閃。
「ぬぉおおおおおっ!」
鋼鉄が真っ二つだった。上下に分断されたゴーレムが大地に倒れる。その重量たるや、激突音が激しく響いた。
傍らを抜けるリーレが思わず口笛を吹いた。
「やるじゃん、ヴォードさんよ」
「ふん、竜の鱗は、もっと硬いからな!」
次――ヴォードが迫るゴーレムに向かう中、リーレもまた別のゴーレムへ挑む。
「あたしも、力技でやれるっちゃあ、やれるんだけどなぁ……!」
素早くゴーレムの足下を抜け、背後に回り込む。
「それってスマートじゃねえんだよなっ!」
グローダイトソードを、ゴーレムの膝関節に一撃。右、左とテンポよく、破壊すると飛び上がって、そのゴーレムを蹴り倒して、反動で次の敵へ。
そうこうしているうちにSS強襲兵も、ゴーレム退治に加わった。不運なSS兵が吹っ飛ばされる中、数人がかりで黒鉄に飛びついたり、回り込んだりで関節を狙い、破壊し打ち倒していく。
それを見ていたルカー族長は息を呑む。
「なんと勇敢な戦士たちだ……。あの巨体に怯みもしないとは。我々もかかるぞ!」
ダークエルフたちも前へと突き進む。
一方、施設を囲むように立つ防壁の上を、銃を装備した大帝国銃兵が駆けていた。高い防壁の上から、狙い撃とうという魂胆だ。
しかし、彼らは、狙撃地点までたどり着けなかった。何故なら、防壁の通路を塞ぐように周囲の景色に擬態していたパワードスーツがいたからだ。
TPS-4ウンディーネ。カモフラージュ・コートによる軽度の光学迷彩で潜伏していた濃緑色のパワードスーツは、保持するマギアカービンライフルを立て続けに撃ち込んだ。中型魔獣をも一撃で仕留める電撃弾は、数名の大帝国銃兵をまとめて倒す。
『……セイバー1、防壁上の敵兵を排除』
ウンディーネを操るリアナは、事務的な報告を入れる。彼女のほか、SS特殊兵が操縦するウンディーネが、施設外の監視と味方の援護を行っている。そのうちの一機は、対装甲狙撃銃で敵ゴーレムを狙い撃ちにしていた。
・ ・ ・
表で派手にやっている。
俺と潜入部隊は、研究所の裏手より侵入。途中出くわした運のない敵兵を倒しつつ、地下へと降りる。
「まったく、これじゃ遠足だな」
ベルさんが思わずぼやいた。意気込んできたものの、まだ自慢の剣をふるう機会がないせいだ。敵が発着場に気をとられている分、こちらは浸透するSS強襲兵だけで事足りてしまったのだ。
「亜人たちを助けたら、表の援護に回ればいいさ」
適当な慰めをかけつつ、俺たちはさらに奥へ。石造りの薄汚れた通路。なるほど古い時代のダンジョンを利用したというのも頷ける。
しかし、とても獣臭い。亜人たちの他に、魔獣でも飼っているのかもしれない。
『正面、ゲートにて封鎖』
先遣のSS強襲兵が、追いついてきた俺に報告した。
『魔法を用いたものらしく、鍵穴や開閉装置の類いが見当たりません』
穴がないんじゃ、変幻自在のシェイプシフターたちにもお手上げだろう。そのゲートとやらに行くと、確かに真っ黒な黒曜石のような扉のような壁が進路上に立ち塞がっていた。
「魔法が鍵になってるやつかな?」
「単に行き止まりじゃねえの?」
ベルさんが冗談めかす。ユナが興味深そうにゲートを見つめた。
「どういう仕組みなんでしょうか……?」
「大方、何か対応した魔法を当てるとか、呪文で開けるんじゃないかな」
よく見もせず適当に言う俺。……正直、こんな扉に構っているほど暇でもない。
「ベルさん、やっとくれ」
「どうせ喰うなら、肉がいいんだがな!」
グラトニーハンド――肥大化した悪食の腕が、ゲートをごっそりと喰らい、ちぎった。通路の向こうがお目見え。……まったく魔王様はチートだよな。
侵入。通路の奥は開けていて、そこには番兵代わりの鋼鉄ゴーレムが二体。
「これだけか……?」
人間の警備は影も形もなし。深部は監房区画になっているようだが、収容者の見張りはいないのか? SS強襲兵がライトニングバレットを撃ったが、ゴーレムにはまるで歯がたたない。
あの量産型ゴーレムの装甲を抜ける携帯武器が必要だな。そんなことを考えつつ、俺は暗黒騎士に視線をやる。
「ほら、ベルさん、お望みの敵だぞ」
「ゴーレムは飽きた」
「選り好みするのかよ。贅沢だなぁ……」
まあいいや。俺はすぐそばに控えているディーシーを見た。
「ディーシー。やってくれ」
「よしきた、
ディーシーは悪戯っ子のような笑みを浮かべると、両手を前に突き出し、呪文を唱えるようなポーズをとった。
「大砲」
一言だった。その瞬間、ダンジョンコアの少女の前に、75ミリ野砲がドンと現れたのだった。
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