第682話、影の艦隊構想


 キャスリング基地の兵器工場。俺はドワーフのノークと、兵器の話を進めていた。

 とりあえず、戦車砲を搭載した多脚戦車の話までは終了。


「ヴェリラルド王国以外の場所で、大帝国と戦うために、表向きウィリディス軍とは別の軍隊組織が必要だ」


 他国の軍隊が勝手に土地に入れば、その国や領主たちにとっては不法侵入に等しい。いくら大帝国を倒すためとはいえ、事前交渉もなく勝手にヴェリラルド王国の紋章をつけた部隊が他国で戦争を始めるわけにはいかない。


「ウィリディス軍はヴェリラルド王国に所属している。ウィリディスの兵器と共にそれが他国に伝われば、いらない戦火を呼ぶ」


 外交問題。王国が宣戦布告される口実にもなりかねない。


「はい、それは先日のミーティングで聞きやした」


 ノークは頷いた。俺は多脚型のコーナーから、航空機工場へと足を向ける。


「そこで俺の構想だ。大帝国に抵抗する反乱組織を作り、それで他国で戦争をする」


 国ではなく、民間有志による抵抗組織の体で戦う。……裏で糸を引いているのが俺、つまりウィリディス軍だとバレれば、結局王国は当事国の恨みは買うがね。

 少なくとも、王国側は、知らないと白を切ることはできる。信じる信じないは別として。


「どこの組織かぼかすためにも、できれば大帝国内の現政権への反抗勢力に見せたい。そのために、大帝国の空中艦を数隻、手に入れて主力とする」


 オペレーション・スティールの対象に敵空中艦があるのも、そのためだ。強襲突撃揚陸ポッドなんて作ってるのも、その一環である。

 シャドウ・フリート構想。……まあ仮の名前だから、何か『色』で名前を決めたいと思っている。


「大帝国のふねで、大帝国と戦うんですかい?」


 ノークが口もとをニヤつかせた。


「面白い話です。しかし、クルーはどうします? 確か、大帝国の艦にゃ、浮遊石はあれど、シップコアはないと聞いてますが」

「人手はシェイプシフターやゴーレムコアを使う。これまでと同じさ」


 俺は考えを口にした。


「シップコアも改造すれば載せられるだろう。たとえば自動化していい場所はゴーレムコアに管理させ、それをシップコアと繋げれば、艦の操艦程度は問題ないだろう」


 機関部とか、人の管理が必要な部分はシェイプシフター兵で補う。


「この方法なら、最低限で済む」


 クルーザーやコルベットを3~5隻程度。補給の輸送船を含めても、10隻以下になるだろう。


「できれば艦載機を運用できる空母も欲しいが、大帝国にはそもそも航空ポッドができたばかりで、戦闘機の類いがないからな。当然、彼らは空母を保有していない」


 持っていないものは奪えない。


「こっちはアウローラや、再生中の改装空母を引っ張ってくるしかない。が、最悪、ポータルを使って、陸上航空基地と艦艇を繋ぎ、それを空母代わりに使う手もある」


 それなら航空機の航続距離を含めて、艦隊の航空機問題は解決する。


「これらの鹵獲ろかく艦中心の艦隊で、大帝国の軍隊、軍事施設などを攻撃する。大規模な戦闘は避けて、ゲリラらしく奇襲と一撃離脱で、敵の戦闘力を削ぐ。……色を考えないとな」

「色、ですか?」


 怪訝に眉をひそめるノーク。俺は相好を崩した。


「ウィリディス・カラーとは別のものにしないとね。色の印象が違えば、案外見方も変わってくるものさ」

「そういうことですかい。そりゃTF-4の外装を付け足したのも合点がいきまさぁ」


 ノークが一人納得する中、俺たちは航空機製造工場へ。


 大帝国戦における主力機となる予定のTF-4戦闘攻撃機が鎮座している。


 初めは、元の世界で米国が使っていたF-15戦闘機をSFチックにした外見だった。

 だが、それではあまりにウィリディス軍機に類似している気がしたので、アンバンサー戦闘機の要素を入れることで、スタイルに手を加えた。


 エンジンノズルを両側から挟むようにテールコーンを設置。これは緊急時のブースターとして使用可能。


 さらに機体下面に可動式の垂直翼を一枚追加。これにもブースターが内蔵されていて、展開することで上昇旋回や垂直移動能力を強化。しかしこの細長いブレード状の翼によって、宇宙人の戦闘機というか、未来的なシルエットになっている。


 もっとも、それがこの外観の狙いではあるのだが。見ようによっては、一本足で立つ航空機にも見えて、ウィリディス軍機とは似て非なる印象を与える。


「これにさっき言った色を変えれば、ウィリディス機とはベツモノだって素人にもわかるでしょうな。……色は、何がいいですか?」


 ノークは専用の携帯パッドに何やら打ち込む。テラ・フィデリティア製のデータパッドである。

 画面を見れば、TF-4戦闘機が表示されていて、カラーバリエーションを試しているようだった。


「黒は……違うな。ある程度目立たせたいところがあるから、暗めの色だけど、わかりやすいのがいい」

「紫とか青、ですかね……?」

「緑は避けろ。ウィリディス軍のシンボルカラーが緑だから、連想されたらかなわん」

「了解です」


 さて、TF-4戦闘攻撃機は、機首に1門、主翼に1門ずつ、計3門のサンダーキャノンを搭載。また機首にはもう1門、20ミリ航空機関砲を備える。


 ミサイル系兵装は主翼下面にハードポイントを2つ、両翼で計4つに搭載する。可動翼を胴体下に装備している都合上、ミサイルの設置場所が少なくなるのは仕方ない。


 その代わり、ハードポイントに搭載するのは、複数のマイクロミサイルを積んだポッドにすることで、ミサイルの装備数をカバーする。威力については、ミサイルの弾頭に封入する魔法式で補う。

 かくてTF-4は、ウィリディス機と遜色のない攻撃性能を誇る。


「ノーク、試験運用のほうはどうなっている?」


 一応、報告書は上がっているのだが、やはり直接触っている人間に聞きたい。


「まだ人は乗せてはいないですが――」


 そうドワーフは前置きした。


「性能は申し分なし、今は解消すべきトラブルもありやせん。テストにシェイプシフターパイロットとコピーコアでやりましたが、こいつらは優秀ですからな。細かな異常もすぐに見つけやがる」


 とんだじゃじゃ馬でさぁ――とノークはしたり顔。


「わしは、パイロットじゃないので実感がないのですが、他のウィリディス機と動きがまるで違います。急旋回や急加速。それにかかるGも凄まじいってんで、機体の強度計算やり直しやした」

「うん、一度バラバラになりかけたってな。報告書を読んだよ」


 おかげで、低魔力で量産するつもりで設計したTF-4は、そこそこ製造魔力の消費が大きくなってしまった。


「トンデモ機動で、ふつうにやったら中の人間は簡単にくたばる、と」

「加速補正機を積んでますから、有人でも操縦ができるようになってますが、なかったら酷い死に方をするでしょうな」


 ゾッとする、と肩をすくめるノーク。


「アンバンサーの連中は、パイロットを戦闘機に繋いで、部品にしてやがりましたからね。そうでもしないと、普通じゃ操縦できなかったんでしょうなぁ」


 回収したアンバンサー戦闘機のコクピットを思い出し、自然と眉をひそめる。

 アンバンサーのパイロットは頭と体以外を切り落として戦闘機と融合していた。ああいうのを、実際に目にすると、やはり気分のいいものではない。


「問題ないなら、量産を開始してくれ。TF-4は早めに実戦配備したい」

「大帝国との開戦は、まだですよね?」

「シャドウ・フリートは、ヴェリラルド王国と帝国の本格衝突の前から仕掛ける」


 SS諜報部の活動次第では、3の月中には作戦を開始するからね。

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