第681話、化け物戦車


 キャスリング基地、地下工場。


 ドワーフの武器職人だったノークは、すっかり工場長らしくなっていた。エルフの職人ガエアと組んで、魔法甲冑に携わり、その後揃って俺に弟子入り志願。気づけば、弟子の範疇を超えて、ウィリディスの兵器工場の現場主任に収まっている。


「まあ、部下は全員シェイプシフターで、ドワーフはひとりもいませんがね……」

「すっかり巻き込んでしまったな、君は」

「いいえ。ここじゃ、他では経験できない代物に触れて、作れるんですから、この機会を逃したくはねえですね」


 お気になさらずに、と、俺より年配だろうドワーフは言うのである。


「ぶっちゃけると、賢者様の考えるものに携われるってのが、それ自体ご褒美でさぁ」

「兵器ばかり作らせて悪いな」

「わしは、元々武器作りが専門でしたから」


 こりゃ一本とられた。俺が笑うと、ノークも笑った。デカい声だった。

 まずはハイウェイ・パトロール用の可変型パワードスーツ……いやゴーレム。


「ガエアから聞きました。変形するやつ、設計変更になったらしいですな。面白いアイデアだったのですが」

「人が入った状態での変形となると、動かせる部分が限定的になってしまうからね」


 当初の案は、バイクのような車輪走行型とパワードスーツへ変形できるものを考えた。走行形態では人間は足を伸ばした状態で座る格好になり、変形といってもそこまで大掛かりなものではなかった。


「前輪のついた足ががっちり固定されますからなぁ。中に乗ってる者は相当窮屈になるってんで、パワードスーツはなしになった……」

「机上の空論だったわけだ。俺だってパイロット経験あるのに、搭乗者のことに考えが及ばなかった」


 反省である。結果的に、ハイウェイ・パトロール機は、バトルゴーレムにする流れとなった。


「ニンゲンを入れずに済む分、スペースに余裕ができましたし、走行形態の安定性とスピードも上げられるよう変形機構も手を加えられましたがね」


 ノークはニカッと笑った。

 人間が座った状態での走行は、上半身にかかる風の抵抗が大きくなっていたから、実は人間を乗せなかったほうがよかったというね。その分、構造が若干複雑化したけど。


「浮遊バイク2台と、このバトルゴーレム2機で1グループを編成する」


 俺は構想を口にした。


「これを複数グループ作って、街道を巡回させるつもりだ」


 これらパトロール部隊は、領境から街道、そして主要集落――今はノイ・アーベントだけだが、やがては砦や他の集落ができた時には、そちらも見回る。

 盗賊や徘徊する魔獣から、街道とそこを通行する旅人や商人を守り、また必要なら救助作業なども行う。


「……そうなると街道途中に休憩所とかも必要だよなぁ」


 俺が何の気なしに呟けば、ノークが同意する。


「そうでしょうな。とくに、いまトキトモ領は道はあっても、集落がほとんどありませんから。適当に休める場所はあったほうがいいですな」

「ついでに、パトロール隊の補給拠点とか」

「修理できる拠点が街道近くにあれば、こことかに戻らなくても応急修理できますな」


 ドワーフの武器職人はもっさりしたあご髭を撫でる。俺は、ふと思いつきを口にする。


「移動拠点なんてどうだろう? 街道近くを移動して、前線の司令部になったり補給や修理、怪我人などの救護所に使えるような」

「移動、拠点ですと!?」


 ノークが目を点にした。


「いやいや、それって工房を動かそうってことですよね!?」

「……そうなるな」


 でもほら、航空艦艇――例えば強襲揚陸艦の『ペガサス』だって、移動する補給・輸送艦でもあるから、その地上移動版を作ろうってだけだぞ。


「アンバンサーから多脚兵器を回収しただろう。あれを利用して、移動する拠点を制作するというのはどうだろうか?」

「あの複数足の上に工房兼補給所を乗せるってんですな……」


 ふふ、とドワーフは笑った。


「やっぱり賢者様は、考えることが面白いですなぁ! 図案はあります? わしのほうでも考えてみますが」

「適当にいくつかイメージを出しておこう」


 今すぐどうこうではないが、ハイウェイ・パトロール隊が用意できる頃には、ある程度、形にしておきたいね。


「ちなみにですが、何故、多脚型なんです?」


 浮遊推進とか、車輪式もあるのに――とノークは聞いてきた。


「遠くから見えるように、多少背が高いほうがいいかなって思って」


 軍事的に見れば、視認しづらいほうがいいのだが、目的が警戒とパトロール部隊の支援だからな。賊などから見たら、鋼鉄のバケモノが迫ってきてびびるのではないか。


 そう説明しながら、俺とノークは工場を移動する。

 ついた先は、先ほど話していた多脚型車両、その脚と接続部分がひとまとめに置かれていた。四脚型と六脚型が、ひっくり返ったカニのような格好をさらしている。


「……形はそれっぽくなってるな」

「そりゃ、見本がありますからなぁ」


 アンバンサーの多脚型車両を参考に、ウィリディス製の部品で再現、作り上げた多脚型である。


「連中のパーツはもう手に入らんのですが、個々の部品をうちらのパーツに置き換えてあります。仕組みや動きがわかるなら、ウィリディス流に落とし込むだけですから」

「ウィリディス軍にも多脚型戦車か」


 SF兵器だよな。アンバンサー戦役で実際に目にしているとはいえ、改めて自分たちで作れば、それはそれでロマンのひとつの形である。


「アグアマリナ様々でさぁ。人工コアってのは大したもんだ」


 ノークが絶賛する。ノイ・アーベントの集落作りや街道の建造同様、キャスリング基地の工場では、アグアマリナ・コアやその代理コピーによる、魔力生成で部品を製造している。

 ウィリディスでのディアマンテやサフィロ・コアと同じく、ここで戦闘機や戦車、その他兵器が生み出されているのだ。


 ドワーフの武器職人は俺を見た。


「原案では、BVシステム搭載戦車の余剰パーツをこの多脚と組み合わせるって話でしたが――」

「うん。Bパーツ……砲塔ブロックが余ってるんだよね」


 ルプス主力戦車、エクウス歩兵戦闘車――その違いは搭載されているメインウェポンだ。戦車が必要なら長砲身76ミリ砲、歩兵を運ぶならマギアカノーネと機関砲砲塔で使いわけられるのがブロック・ヴィークル・システム車両の特徴ではある。


 だが他のブロックパーツが流用できるのに対し、砲塔パーツはどちらかしか載せられないので、出番がないほうが放置されてしまう。それはちょっとともったいない。


 それならば、いずれ作る予定だった多脚型戦車の砲塔に流用してやれ、となったのである。


「しかしまた、何故、アンバンサーと同じタイプの戦車なんですかねぇ……?」


 ノークは首を傾げる。


「ふつうにBVSの他ブロックを作るってのは駄目なんですか?」

「TF-4と同じだよ」


 俺は即答した。


「他所でドンパチやる時に、周囲の目を引きつける存在が必要だ」


 その点、怪物じみた多脚型は目立つと共に、敵対者に恐怖心を抱かせるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る