第671話、浮遊島、発見報告


 ウィリディス軍は、ディアマンテ級巡洋戦艦1、シュテルケ級重巡洋艦1、アンバル級軽巡2、ディフェンダー級航空巡洋艦1、大帝国鹵獲巡洋艦1、アンバル級改装強襲揚陸巡洋艦1、中型高速空母1、小型空母2、シズネ級ミサイル艇3を保有している。


 これらは一部を除いてテラ・フィデリティア航空軍に所属した兵器であり、目下、カプリコーン浮遊島軍港で、さらなる増産に向けて動き出している。

 さらに今回、アリエス浮遊島軍港を入手したことで、アンバル級3、試験型巡洋艦1と、複数の輸送船を手に入れた。まあ、こちらは修理、整備が必要だけれど。


 さて、ディアマンテに、アリエス浮遊島軍港の戦力化を任せつつ、俺はウィリディスへと飛んだ。

 今回の浮遊島の件をエマン王に報告するためだ。


 テラ・フィデリティアの兵器が絡んでいるから、できれば秘密にしておきたかったのだが、最近、近衛にも王の手の者がいるかもしれないという話もある。隠そうとするのは、俺の身を危うくする。

 先のアンバンサー戦役で、飛行する艦艇の姿を王国軍に披露しているから、余計に隠し立てはなしだ。


 ポータルでウィリディス屋敷につくと、ちょうど、ジャルジーと出くわした。

 彼は忠臣であるフレック騎士長を連れていた。


「兄貴! そちらで戦車兵の砲術訓練をやっている時間だと思って、視察に行こうと思っていたところだ。ちょうどよかった、一緒に行かないか?」


 公爵閣下の顔には、ピクニックに行く子供のような期待感がにじみ出ていた。

 確かに、VT-1戦車の配備に向け、ケーニゲンの兵士たちに野砲の操作と運用、戦車操縦の訓練を、トキトモ領で行っている。


 なにせ、いまトキトモ領には人がノイ・アーベント以外にほぼいない。

 派手な軍事演習をしても、よそ者に見られるとか騒ぎになることは基本的にはない。戦車だけでなく、戦闘機の訓練にも打って付けの環境である。


 だが、タイミングが悪かったな。俺はこれでも急用なんだ。すっと視線を、ジャルジーの後ろに控える騎士長へと向ける。


「フレック、耳を塞げ」

「ハッ!」


 騎士長は、何の疑いもなく素早く俺の指示を実行、自身の両耳を塞いだ。俺がこれから聞かれたくない話を彼の主人とするのを察したのだろう。


「……お前、オレが言うより反応が早くないか……うおっ!?」


 腹心の部下に呆れるジャルジーの首に俺は腕をまわし、ホールド。そのまま彼を引きずるように移動する。


「な、あ、兄貴! いったい何だ――!?」

「いいか、ジャルジー。俺は今からエマン王陛下に重要案件をご報告に行く。お前も興味あるだろう話だから、一緒に来い!」

「兄貴? 何があったというのだ? 重要案件?」

「聞いて驚け。伝説の浮遊島を発見したぞ!」

「なっ、ん、だと……?」


 ジャルジーは面食らった。その間抜けな顔は、写真にとって残してやりたいと思った。



  ・  ・  ・



 エマン王は王城の執務を終え、ウィリディスの白亜屋敷にきていた。


 ジャルジーを連れ、人払いをした会議室にて、俺は、浮遊島アリエスと、それに関する出来事を説明した。


 伝説の浮遊島というワードは、ヴェリラルド王国の人間にとってなじみ深いが、あくまでおとぎ話として、だ。実際に空に浮かぶ島など見たことはなかったから、エマン王にしろ、ジャルジーにしろビックリしていた。


「兄貴はずるい! 何故、行く前に誘ってくれなかったのだ!」

「話を聞いてなかったのか? 強力な対空砲火にさらされての強硬上陸だ。俺だって危険だから、無人機に突っ込ませたくらいだ」

「……」

「そんなぐぬぬって顔をしても、もう終わった話だからな」


 俺は、ジャルジーを適当になだめ、エマン王に向き直る。


「残念ながら、ロマンチックな代物ではなく、浮遊島は古代機械文明時代の航空基地でした。伝説にあるような金銀財宝は確認できませんでした」


 そして悪い知らせといえば――


「大帝国の空中艦が、我々より先に上陸していたこと。島を離れる前に撃沈したので、本土にこちらの存在が伝わることはないと思いますが……」

「大帝国は、我がヴェリラルド王国の空に侵入を果たした、そういうことだな?」


 エマン王は何かに耐えるような目をしていた。敵がすでに侵入してきたことに、少々の怒りを感じている様子だ。


「由々しき事態だ」

「まさに」


 俺は頷いた。


「ケーニゲン領をはじめ、北方には警戒網を敷いていました。これは昨年の飛竜の飛来に対抗するために張られたものですが――」

「敵は東から来た」

「はい、陛下。といっても、今回の侵入は、浮遊島が王国に流れてきたので、そのまま越境してしまったものだと思われます。おそらく彼らは、侵入の意図はなかったでしょう」


 ただ――


「北方以外にも、目を光らせる必要はあると思います。現状の大帝国のヴェリラルド王国侵攻作戦は、北部侵攻案で決定していますが、警戒は必要です」

「王国の国境線を治める各伯爵、貴族たちに通達しておこう。他国からの不審な動きに警戒せよと」


 エマン王の決定に、俺とジャルジーは首肯した。


「それと大帝国に関して、ひとつ報告が。――敵は新型の魔獣を運用しています」


 物理攻撃も魔法もほぼ効かなかった漆黒の異形生物。そして無数に湧いた、四足魔獣の大群。


「これらが大挙攻めてくることがあれば、野戦においては苦戦は必至。新たに配備した75ミリ野砲や、VT-1戦車を集団運用したとしても、防ぎきれないかもしれません」

「なんと! そんなに敵の魔獣は強いのか!?」


 ジャルジーが驚愕した。


「四足魔獣に関しては、強い、というより数で攻めてくる。流れてくる水を手で押し止められるか? そういうことだ」

「むぅ……」

「ジンよ、対抗策はあるか?」


 エマン王は深刻な口調で問うた。当然だ。現状の軍備で阻止できない手段を敵が用いてくるならば、戦う前から負けが決まっているようなものだ。


「掃射魔法や、大規模爆弾……とにかく、面で掃討できる魔法や武器が必要でしょう」

「兄貴は、ズィーゲン平原で二〇万を超える敵の亜人を一掃した」


 ジャルジーは腕を組んだ。


「そういう魔法か武器が必要、ということだな」

「そうなるな」

「準備はできそうか?」

「できなければ、私が出張るしかないでしょうな。まあ、用意はしておきます」


 エクスプロード爆弾の強化版……燃料気化爆弾とか、ルプトゥラの杖とかな。

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