第672話、浮遊島の視察


 さて、大帝国の脅威を煽ったところで、本題に話を戻そう。


「アリエスの制御コアは残念ながらロストしましたが、収穫もありました。テラ・フィデリティア航空軍の航空艦艇を複数確保しました。現在、制御下にあります」

「おお、それは朗報だ!」


 ジャルジーが声を張り上げた。


「大帝国の脅威が迫っている今、王国を守る盾、いや剣として、異星人の兵器をも退ける機械文明の兵器は頼もしい」


 うむ、とエマン王も期待の眼差しを向けた。だがすぐに首を捻る。


「しかし、ジンよ。その割には表情が暗いな。何かあるのか?」

「ええ、今回の回収に当たって、航空艦艇を制御するために、一定の決まり事があることが判明いたしまして」

「決まり事?」

「契約、のようなものですね。兵器の製造主である、古代機械文明の掟に従わないと力を発揮できないことが判明しました」


 俺は虚実交えて説明を行う。

 交戦規定というものがあり、それを破るような戦い方をすると、テラ・フィデリティアの兵器は力を失ってしまう。その掟のひとつに、非武装の人間を襲わないという項目があり、防衛に本領を発揮するが、侵略には役に立たない……等々。


 はい、誇張しています。


「諸刃の剣、ということか……」


 瞑目するエマン王。俺は同意した。


「はい。ただし、使いどころを見誤らない程度でしたら、この上ない戦力かと」

「では、浮遊島ならびに古代機械文明の兵器の管理を、トキトモ候に一任する。責任をもって管理せよ」

「承知しました」


 まずは、俺の手元に置くということになった。ジャルジーがとても恨めしそう目を向けてくる。

 そうそう――


「それで、もしお時間がありましたら、浮遊島をご覧になられますか? 現在、ウィリディス軍により、安全を確保してありますが」

「うむ」


 エマン王が首肯すると、ジャルジーも席を立った。


「それを待ってた! 早くその島を見たいぞ、兄貴!」


 もうすぐ晩ご飯のお時間ですよ、というのは野暮というものだろう。


 その後、俺は、エマン王とジャルジー、彼らの護衛と共に、浮遊島アリエスに移動。万が一の敵残党の捜索と警戒をウィリディス軍が行う中、アリエス基地内を案内した。


 中は相当傷んでいる箇所があり、遺跡じみた雰囲気をまとう。一方でドックや格納庫など、未来チックな姿を保ったままの場所もあって、とてもミスマッチだった。エマン王とジャルジーは、終始驚いていた。


「ジン。この浮遊島――アリエスを正式にお前に預ける」


 視察中、じっと考え込んでいたエマン王は、最後にそのように決めた。


「よろしいのですか?」


 確認した俺に、王は答えた。


「お前にしか扱いこなせぬだろう。他の者には宝の持ち腐れだ」


 正直、浮遊島の扱いについては、もっと揉めると思っていた。制御できるものとなれば欲しがり、その所有権について長々と話し合いがもたれるのではないか、と。


「あと、この島の事は他言無用だ。……知れば、諸侯もうるさいだろうしな」

「確かに」


 ジャルジーは同意した。


「気を悪くしないでほしいが兄貴。つい先日、侯爵になっただけでもかなりの異例。ここで浮遊島の話が出たら、絶対に兄貴に持たせるのは危険だと言って、取り上げようとする貴族どもが出てくるだろう」

「……お前は欲しくないのか? ジャルジー」

「オレの手に負えん。親父殿の言うとおり、兄貴しか扱えない。……まあ、時々遊びにくるくらいは許してくれ」


 と、未来の王様は笑った。

 俺がこの島を使って、王国に牙を剥いたら、とか考えないのだろうか? 正直気にはなったが、やぶ蛇になりそうなので黙っていた。


 彼らだってそこまで能天気ではない。考えないはずはないのだ。俺はそのことをベルさんに相談したら、黒猫魔王はあっさりと答えた。


『そりゃお前が反乱したら、浮遊島あるなしに関係なくこの国も終わりだとわかってるからだろ?』


 ウィリディス軍は、アンバンサーをも退けた。浮遊島なしで、ということだ。

 そうかもしれない。どこか釈然としないながらも、浮遊島は俺が正式にいただくことになった。



  ・  ・  ・



 かくてアリエスは現在、高度1万にあって、トキトモ領上空にあった。


 土台ともいうべき岩盤の中に含まれた浮遊石の力で、あの巨大な島は空に浮かんでいる。ちなみに、それらの浮遊石は原石らしく、それらを加工することによって艦艇や空飛ぶ乗り物用の浮遊石にできるとのことだ。まあ、普通に魔力で浮遊石は生成できるんだけどね。


 うっすらと雲状の偽装装置が働くことによって、アリエスの姿は地上からでは見えなかった。城のような雲だ、と思っても、そこに本当に城があるなどと思う者はいない。


 アリエスの機能復活は、島にある魔力収集装置によって集めた魔力を再生に変換することによって行う。一応、独自に回復させる方法があるというわけだ。余所から魔力を引っ張ってきて回復をブーストさせるまでもない。


 それでなくても、魔力の使い道が非常に多いからな。これで戦争が始まったら、さらに消費が加速するのが目に見えている。

 カプリコーン側にはプチ世界樹があるとはいえ、慎重に使っていきたい。まだ大丈夫と思っていると、いざという時になって困るのだ。だから節制する癖はつけておく。


 さて、魔力による再生といえば、アリエスドックの艦艇群だ。これらも補修、整備して使えるようにしなければならない。

 施設からの魔力供給も行いつつ、ゆっくりとやっていく。正直に言えば、シップコアとシェイプシフター兵がいれば、開戦直前に艦が就役したとしても充分戦力化が間に合うと思う。


 なお、テラ・フィデリティアの戦闘機も複数回収してあるが、幸い、大帝国の航空戦力に関しては、ウィリディス軍の機体で間に合っているから、テラ・フィデリティア機の解析は、ぼちぼちやっていこうと考えている。


 もし、大帝国が、こちらに先んじて高度な航空技術を得たなら、SS諜報部を使って、奪えばいいのである。

 ……そうだ、その諜報部だ。


 大帝国をはじめ、連合国やその他の国にもSS諜報員を送り、勢力を伸ばしているが、俺はさらに諜報部の強化に乗り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る