第670話、謎の交信


 大帝国の巡洋艦は新型らしい。俺は寄せられた報告に、いささかの驚きを受けた。これはSS諜報部に問い合わせてみる必要があるな。


 敵艦の処理は航空隊に任せ、俺たちは、すでに出現してしまった敵四足魔獣の掃討を行った。


 供給元を絶たれ、もはや増えないとなれば、潰していくだけだ。

 平地に出てきたところをレプス戦車隊が戦車砲のつるべ打ちを喰らわせ、ユナが複数同時のエクスプロージョン爆撃を敢行して、敵を焼き払った。……また新技を編み出してたな、この巨乳先生。


 平地では、魔術師の大魔法は重砲支援の火力に勝るとも劣らない。ただし射程は大きく劣る。


 大方、処理が終わった頃、航空隊からも報告が入った。


 敵巡洋艦は大破。飛び立つ前に後部のエンジン部分を攻撃し破壊。行動不能になれば拿捕もできると思ったようだが、敵艦は自爆を行い、機関部や艦橋、砲を爆破したとのことだった。


 逃げ切れない。だが機密は渡さない、ということだろう。浮遊島に来ていたくらいだから、もしかすると敵は特殊部隊だったのかもしれないな。


 シェイプシフター中隊、バイカースカウト、パワードスーツ隊には、残敵を捜索させる。ベルさん、リーレ、リアナ、ヴィスタは、例の逃げた異形のこともあり捜索に加わる。またディーシーにも管制塔周りを引き続き目を光らせてもらった。


 それを除けば、アリエス浮遊島上陸作戦は終了である。


 ではでは、攻略後のお楽しみ、探索タイムである。古代機械文明時代の浮遊島である。何らかの発見はあるだろう。


 ディアマンテに艦から降りてもらい、管制塔の制御コア端末にアクセス。現在の状況確認と、設備の最低限の電力供給などを行わせた。

 アリエス浮遊島軍港は、地上にあるカプリコーン浮遊島と類似していて、構造こそ違えど、キャスリング基地のような主な軍事関係施設が一通り揃っていた。


 ウィリディスでは魔力を変換して、物を作るのだが、アリエスでもカプリコーンと同様の生成装置が見つかった。つまり、再生も流用も全然問題なくできるということだ。


 整備工場、実験場、倉庫に格納庫、艦船用ドック、レーダーに防空砲台などなど。居住区もあるが、カプリコーンほどではないにしろ、施設の復旧作業がまず優先されるだろう。錆とか汚れを落としてメンテしないと動かないよってやつだ。

 このアリエス浮遊島も、かつてはアンバンサーとの大戦を経験したんだなぁ……。


 時代の経過から劣化が激しいが、防空砲台関連の施設が、最近、というか昨日、再生処理がされて新しくなっていたのがわかった。

 どうやら、大帝国の調査隊が、アリエス・コアを使って施設再生をやってみたようだ。……まったく、再生するなら砲台以外のところにしてくれれば、もう少し楽に島に辿り着けたのだが。

 偵察機1機と、ポッド10機の喪失分を返せ、と言いたい。


 おかげで、基地内の魔力残量がほぼなくなっており、魔力の充電回復を行わないと、新たに施設の再生処置ができなくなっていた。本当、連中はいい仕事をしていったよ。

 とりあえず制御室――正式にはアリエス基地司令部というらしい――に、魔力再生を施して、司令部内だけでも綺麗にして稼働状態にした。


 すると、ここで思いがけない事態が発生した。


 テラ・フィデリティア航空軍のIFF、つまり敵味方識別装置による問答が、司令部のディアマンテに対して行われたのだ。


「閣下。ドック内に、テラ・フィデリティアコードを発する艦がありました。アンバル113――こちらの所属と問うておりますが、返答してもよろしいですか?」


 ディアマンテが確認してきた。俺は頷いた。


「もちろんだ」


 アンバル113――アンバル級クルーザー第113番艦なのだそうだ。機械文明時代のアンバンサーとの大戦では、無人化が進められたアンバル級が量産され、戦ったのだと聞いている。


「こちら、第二艦隊旗艦コア『ディアマンテ』――」


 ディアマンテが自分の所属と艦名を、アリエスドック内のクルーザーとやりとりする。俺やアーリィー、ユナはそれをじっと見守る。


「シップコアだけかな?」

「機械文明時代の人は……さすがに生きてはいないですよね」


 アーリィーとユナがヒソヒソと話している。うーん、テラ・フィデリティアの生き残りか……。さすがに大昔過ぎて、その生き残りがいるとは思えないけど。せいぜい、ディアマンテの時のようにシップコアが残っていたくらいじゃないかな。


「アリエス一番ドックに停泊中の艦艇と交信。閣下、どうやら数隻の戦闘艦艇が残っているようです」

「それは朗報だ」


 大帝国との戦いを前に戦力を増強できる。しかも機械文明時代の兵器ならば、敵を上回る性能を持っている。……つくづく、奴らにこの島が制圧されなくてよかった。


「艦種はわかるか?」

「クルーザー級ばかりのようです」


 ディアマンテがそう告げ、さらに確認を進める。ディアマンテ級巡洋戦艦と同級かそれに匹敵する戦艦はないか。残念!

 アーリィーも眉を下げ、ユナは、相変わらずの無表情で言った。


 確認作業を進めるディアマンテの話では、これらの残存艦も再生処理を施さないと使えないものがあるらしい。

 アリエス基地には、他にテラ・フィデリティア航空軍の戦闘機やその他航空機が数機、基地守備のガードメカらが残っていたが、これらも整備しないと使えないという。

 稼働状態のガードゴーレムは、大帝国の調査隊と交戦し破壊された。


「収穫といえば収穫だろう」


 何せ実際に空を飛んでいる島を確保できたんだからね。人の目を気にすることなく航空艦隊が運用できる基地があるのは好ましいことだ。


「とりあえず、ドックの様子を見てくるか」

「行くのですか?」


 ユナの問いに、俺は「もちろん」と答える。これからウィリディス軍に編入する戦力だからね。


「ボクも行く!」

「そう言うと思っていた!」


 古代文明に関心のあるアーリィーが、この手の探索に手を挙げないはずがなかった。

 構造自体は、カプリコーンに似ているそうだけど、やはり初めて訪れる場所ってのは、それなりにワクワクするものだ。

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