第664話、魔導放射砲、そして突撃
その光は、俺の光の掃射魔法だった。
もちろん、俺自身は『ディアマンテ』の艦橋にいて、『シュテルケ』が撃ったそれは、俺とはまったく関係がない。
魔導放射砲――ウィリディスで追加装備させた新武装である。
Aクラスの魔石を触媒に、その内蔵魔力の全てを一発に集約して放つ……。超強力マギアカノーネ、いや、端的に言おう。
ルプトゥラの杖、その上級魔石使用版である。
使い捨てという欠点はあるが、一発に賭けたその威力は凄まじい。
発射のためにチャージする必要がなく、狙いさえつければ即撃つことができ、また艦艇自体のエネルギーをまったく使わずに使えるというメリットがある。他の武装やシールドを併用しながら使用できるのは心強い。
さて、肝心の効果のほうだが――
浮遊島のひとつ、Aと呼称した防御用の島の外側表面を魔導放射砲は焼いた。外側に向けて多数配置された防空砲台の、半分以上がその効果範囲にあり、破壊したようだった。
「さすがに、島を貫通はしなかったか」
正直、安堵している俺である。大威力の魔力をもってしても、魔減率の関係上、直撃からの崩壊はないだろうとは予想していたが……それとも範囲重視の拡散モードで撃ったから貫かなかっただけで、収束モードで撃った場合、A島を破砕していた可能性も……。
まあいい。威力検証については後でもできる。今は、アリエスの防空網に穴が開いた隙を突こう。
「よし、『ペガサス』に指令。艦首ハッチ開放、突撃ポッド部隊を発進させろ!」
はい、閣下――シェイプシフター兵が俺の命令を伝達する。
『ペガサス』の艦首、カーゴブロックの前方ハッチが上下に開く。艦載機や車両などを運ぶ格納ブロックは二層になっているが、今回はポータルを展開した突撃ポッドが六機ずつ、計十二機が搭載されていた。
格納庫ではSS整備員らが突撃ポッドを誘導。そして振り上げた腕を、雲が広がる空へと向けた。
魔力ロケットを点火させ、突撃ポッドが次々に格納庫を飛び出す。さながら砲弾だ。
突撃型揚陸ポッドは、中央に直径三メートルの標準型ポータルを乗せている。目標に突撃、突き刺さるための鋭角的に尖った先端部と、ポッドを飛ばす後部ロケットエンジンからなっている。
制御は、
機首には簡易ながら防御シールド発生装置を積み、対空砲からの被弾をある程度防ぐようになっている。
「あとは、どれだけのポッドがアリエスに上陸できるか、だな」
偵察機から転送された映像をモニターに確認しながら、俺はじっと見守る。
SS観測兵が報告した。
『「シュテルケ」、「アンバル」、突撃を開始しました!』
二隻の巡洋艦が加速、アリエスへ進撃を開始した。それらが敵の防空圏に入り込んだせいだろう。A島の対空砲などが一斉に火を噴く。
しかし――
「ディアマンテとアグアマリナが示した予想砲火を下回る火線だ」
露払いの魔導放射砲は、確かにアリエス防空網に損害を与えた。これならば突撃部隊への被害をさらに抑えられる。
「でも、それでも中々の防御砲火だよ」
アーリィーがごくりと唾を飲み込んだ。
「確かに、ここまでの対空砲火を撃ってくる敵もそうそういないな」
しかも敵弾がほぼ真っ直ぐ飛んでくるから命中精度もいい。実弾系だと風や引力の影響で弾道が曲がるんだけどね……。
『シュテルケ』の防御シールドは、アリエスからの迎撃をよく防いでいた。ただ撃たれるだけでなく、艦首のミサイル発射管から反撃を行い、敵の対空防御を忙しくさせたり、砲自体を破壊したりした。
突撃型揚陸ポッド部隊が『シュテルケ』、『アンバル』からやや離れた空を突っ切り、ミサイルよろしく突進する。
大型艦に気をとられていただろうアリエス浮遊島だが、素早く火力を分散させ、ポッドへの迎撃を開始した。
『ポッド3番、爆発!』
SS観測兵の報告。艦橋からも、小さく炎の塊が見えた。敵弾幕に絡め取られたのだ。
『続いて7番……10番、撃墜されました!』
シールドは付いているはずなんだが、案外もろいな。俺は手を組み、突撃ポッド群の動きを注視する。
『ポッド4番、爆発!』
『「シュテルケ」、シールド半減。「アンバル」と交代』
巡洋艦二隻のほうでも動きがあったようだ。まるでロードレースにおける先頭交代を見るが如く、弾よけの『シュテルケ』が進路を開け、『アンバル』が追い越していく。
『突撃ポッド損害、50パーセント』
アリエスの対空砲を半減させてこれか。こりゃ、ポッド部隊全滅もあるかもしれない。トルネード航空団の戦闘機隊を強行突入させていたら、ほとんど撃墜されてしまうのではないか?
じりじりと、心臓を締め付けてくる重圧。突撃ポッドが無人でよかった。
アリエスのA島に達したポッドは、残り三機となっていた。上陸地点は中央のアリエス本島なので、A島は通過点。
『12番ポッド、墜落』
残り二機。そして『アンバル』もA島の脇を通過した。そして――
突撃型揚陸ポッドがアリエス本島、その拠点近くの平原に落下、突き刺さった。マジ砲弾だこれ。
『アンバル』もまた、滑走路を備えた空港じみた拠点のそばにドリフトするように滑り込み、その主砲を向けた。
上陸した!
俺はそれを確認し、キャプテンシートから立ち上がった。
「よし、これよりアリエス制圧作戦を開始する。上陸部隊は、揚陸ポッド1番、11番のポータル、ならびにアンバル・ポータルより突入、制圧行動を開始せよ!」
・ ・ ・
突撃型揚陸ポッドは、先端の鋭角で地面を
まず先頭きって出たのは重装甲型パワードスーツのノームだ。上陸地点における敵部隊の待ち伏せを警戒するが、幸いなことにアリエスに敵らしき姿はなかった。
ノームがポッド周囲の守りを固めると、続いてヴィジランティ、シルフィードといったパワードスーツ部隊が展開。さらにシェイプシフター兵が武器を手に広がっていく。
俺とアーリィーは、一度『アンバル』へとポータルで移動。その艦橋に上がり、アリエス本島の様子を見る。
すでにベルさんやリーレらは上陸を果たしているが――
『ジンよ。今のところ、敵らしい姿はどこにもねえぞ』
シェイプシフター部隊も同様だ。
「あれだけ派手に迎撃してきておいて、歓迎委員会がいないのは妙だな」
防空圏に侵入者がいないせいか、対空砲設備も沈黙している。施設の暴走……だとしたら、ゴーレムめいたガードメカとかが襲いかかってきてもおかしくないのだが。
アーリィーが口を開いた。
「ここには、ゴーレムとかいない?」
「一応、テラ・フィデリティアの基地だったんだ。一機も配備されていないなんてありえないだろう」
しかし、アリエスは不気味に沈黙を保っている。
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