第663話、ウィリディス航空艦隊、出航す
キャスリング基地では、アリエス上陸作戦の準備が進められた。
アンバル級巡洋艦『アンバル』と重巡洋艦『シュテルケ』を突っ込ませる。より防御力のある巡洋戦艦『ディアマンテ』は、ウィリディスでも貴重な戦艦級。こちらはいざという時のために温存する。
手順としては、防御力の高い『シュテルケ』が盾役を務め、距離を稼いだのち、『アンバル』で島へ強行突入するのだ。
ポータルポッドも準備が進められている。
航行する敵クルーザーなどを空で襲撃し乗り込む場合、問題になるのは、対空防御をかいくぐり、敵艦に接舷することだ。
実際のところ、敵と定める大帝国の空中艦艇は、下方への攻撃手段が豊富な反面、対空砲は数が少ない。その性能も高速の小型機に追尾できる代物ではない。
しかし同じく浮遊艦艇を接舷させるとなると、この少ない砲といえど厄介だ。
そこで考えたのがミサイルを敵艦にぶつけるように、ポータルを乗せたポッドを撃ち込むというものだ。実際に人を乗せてやると、中の人間が大変なことになるのだが、ポータルを乗せただけなら、目標にぶつけた時の衝撃もさほど気にすることはない。
大きさにもよるが、通常のポッドは乗せられる人数に制限がつくが、ポータルではそれがないのもメリットだ。たった一個のポッドから百人以上の兵を送ることも可能なのだ。
途中で撃墜されて、白兵要員も一緒にやられる、ということもない。
ということで開発された揚陸ポッドは、短時間ながらロケットにより飛行が可能。先頭部にシールド発生装置を搭載して敵の迎撃を防ぎつつ、目標に体当たりする……。
そしてこの突撃型揚陸ポッドは、先日、就役した強襲揚陸巡洋艦の艦首ブロックにて輸送。アリエスの防空圏近くまで艦で運び、そこから発進することになった。
この改アンバル級強襲揚陸巡洋艦は『ペガサス』と命名した。
古代機械文明の輸送艦とアンバル級巡洋艦の船体を組み合わせた『ペガサス』は、艦の前方が輸送ブロック、後ろは軽巡のキメラである。上から見れば、艦首ブロックがハンマーで、巡洋艦の船体が柄のように見える。
武装は、後部に15.2センチ連装プラズマカノンを一基。ほか、多連装ミサイルランチャー四基、対空光線機銃二四基と、対艦戦闘能力より、対空防御に武装が割かれている。
強襲揚陸艦という名前から誤解しないでほしいが、あくまで「強襲揚陸部隊」を運ぶ艦艇であって、自ら敵弾を弾きながら突撃する艦艇ではない。
……まあ、そういう敵陣に荒々しく突撃して上陸するような、海賊船みたいな揚陸艦も面白そうではあるけどね。この『ペガサス』もそういう魔改造してみたいなー、なんて思うこともある。
さて、突撃型揚陸ポッドの『ペガサス』への積み込みが完了したのを確認し、ウィリディス航空艦隊はキャスリング基地から出航した。
天井空洞を抜けて、浮上する全長185メートルの細長い艦体。『シュテルケ』を先頭に、軽巡洋艦『アンバル』、巡洋戦艦『ディアマンテ』が続き、最後尾が『ペガサス』となる。
そして俺たちウィリディス軍の主要メンバーは、艦隊旗艦である『ディアマンテ』に乗っている。
その艦橋で、俺はキャプテンシートに座り、ディアマンテとシェイプシフター兵が操艦している様子を見守る。
「やることは単純だ。巡洋艦にしろ、揚陸ポッドにしろ、アリエスめがけて突進。それだけだ」
艦長席のコンソールで最終確認をする俺に、傍らに立つアーリィーが口を開いた。
「前衛の『シュテルケ』が、どこまで攻撃に耐えられるか、だね」
敵防空圏内の、こちら想定しているラインを越える前にシールド消耗するようなら、『シュテルケ』から引き継いで前に出た『アンバル』が、島に辿り着く前にシールドを失い、撃沈されてしまうだろう。
「もたないようなら、揚陸ポッド部隊が本命となって突っ込むしかないな」
二段構え。どちらが片方が囮になり、もう片方が上陸に成功すれば、それでいい。
「まあ、こっちも黙って撃たれてやる道理はないけどね。向こうが撃ってくるなら、こちらも攻撃する」
アリエスの防空砲台が多いとはいえ、無限にあるわけではない。機械文明時代、アンバンサーとの戦いに備えて設置された武装だ。数で攻めれば、ある程度のゴリ押しもできる。
「上陸前もだが、上陸した後も、すんなりいかないだろうね」
アリエスが何者かの手にあるなら、その戦力がこちらに牙を剥いてくるだろうし、仮にシステムの暴走が原因なら、ゴーレムなどがこちらをお出迎えだろう。面倒この上ない。
「上陸後の目標は、アリエスの中央制御司令部を制圧する」
敵対勢力がいればそれを排除。それで今回の騒動は決着だ。我がトキトモ領の安全は確保される。めでたしめでたし。
「そうなればいいんだけど」
アーリィーが瞳を曇らせる。不安はわかる。得体の知れないものが相手だからな。
「決着がついたら、浮遊拠点の探索だな。金銀財宝はないだろうが、テラ・フィデリティアの遺産が手に入るかもしれない。カプリコーン浮遊島の時みたいに、なにか艦艇とかあるかもな」
「ふふ、宝探しだね」
お姫様が笑ったその時、通信席のSS兵が振り返った。
『閣下、先頭の『シュテルケ』より入電。「ワレ、目標ヲ魔力れーだーニテ捕捉セリ」』
先導の『シュテルケ』にはダスカ氏が乗り込み、指揮を執っている。
「うん、では作戦通りに行動を開始。『シュテルケ』『アンバル』は本艦より先行だ」
俺の指示が伝達され、『ディアマンテ』の前の二隻は増速した。エンジンの噴射炎を引きながら二隻の巡洋艦が視界の中で小さくなっていく。
「揚陸ポッド部隊にも出撃準備。こちらも敵防空圏の手前まで直進しろ」
『ディアマンテ』『ペガサス』もエンジンの出力を上げる。速度的には快速の巡洋艦とさほど変わらないはずなのだが、いちいち挙動がゆっくりに感じられる。
そして突撃位置につく『シュテルケ』より、再度入電。
『まもなく、敵防空圏に突入。露払い後、突入す』
そうそう、露払い。アリエス防空網に風穴を開けてもらわないとね。さっそく、『シュテルケ』に搭載した新兵装の出番である。
・ ・ ・
重巡洋艦『シュテルケ』。その艦橋にいるダスカは命令を発した。
「魔導放射砲、発射用意!」
『魔導放射砲、発射用意』
シェイプシフター砲術長が復唱する。
『艦右舷1番、艦左舷2番、発射位置へ展開』
艦首両舷に備え付けられた球体とそれを支える支柱が伸びる。元の艦には搭載されていなかった新装備だ。
「目標、アリエスを囲む浮遊防御島A。拡散モード」
『拡散モード、了解。発射準備、よし!』
砲術長の報告を受け、ダスカは頷いた。
「撃てぇー!!」
その瞬間、『シュテルケ』の両舷の球体――Aクラス魔石が、その蓄えている魔力をすべて解放した。
光が弾け、掃射魔法もかくやの青白い光の束が放たれた。雲を吹き飛ばし、巨大浮遊拠点アリエスの、盾のように存在する浮遊島のひとつを飲み込むように光が殺到した。
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