第665話、浮遊航空拠点、探索


 浮遊島本島に上陸した俺たちウィリディス軍。乗り込むまでが大変だったが、肝心の島には動きがまったくなかった。


 とりあえず、アリエスを管理する中央島の拠点にある制御室を目指し、これを制圧する。


 ディアマンテの資料によると、中央島拠点は、航空艦艇用の軍港と航空基地を併せ持った施設である。

 長大な滑走路が幾つもあって、同時発艦や収容も可能。中央塔はまるで空母を何隻か連結させたり、重ねたりしたようなシルエットである。ここだけ未来的。


 改めて作ったポータルで、アイゼンレーヴェの戦車大隊を運び込む。ルプス主力戦車二個小隊、エクウス歩兵戦闘車一個小隊。俺たちはそれに乗って、大きな滑走路を横断する。

 そのまわりには、ウルペース浮遊バイクに跨がったバイカースカウト部隊のSS兵が固めている。


「……なんだ、ありゃあ」


 歩兵戦闘車の兵員輸送ブロックの上に乗っていたベルさんが呟いた。


「ゴーレムか?」

「……みたいだな」


 同じくそれを視界におさめた俺は頷いた。ぬんと、俺の肩にディーシーが顎を乗せる。


「スクラップみたいだな」

「ついさっきまで動いていたみたいに見える」


 壊れたゴーレム――テラ・フィデリティアの戦闘ゴーレムらしきものが、いくつか見える。中には、うっすらと煙を吐いているものもあった。


「戦闘があった、か?」

「あれはここのガードだろうな。……んで、それを壊したヤローがいると」


 ベルさんが言えば、ひょっこりとリーレが顔を出した。


「そいつがあたしらの敵ってわけか?」

「何者かは知らないけどな」


 俺は天蓋てんがいから席に戻る。


「対空砲でこちらを阻んできたのは、そいつらの仕業かね」

「だとすると」


 アーリィーが深刻そうに眉をひそめる。


「アリエスは、その敵に制圧されているってことかな?」

「少なくとも、ガードゴーレムを破壊できるだけの力はある。油断は禁物だ」


 だが警戒をよそに、特に障害もなく、俺たちは管制司令部入り口へと到着した。……入り口が破壊されている。


「明らかに、何者かが押し入った後だな」


 俺はエクウスを降りると、さっそくディーシーに声をかける。


「テリトリースキャンを開始。範囲は、この建物とその周辺だけでいい」

「任された」


 ダンジョンコアの少女は、さっそく魔力を操り、テリトリー化を始める。アリエスが人工ダンジョンコアみたく稼働しているなら、阻害される可能性もあるが、その有無を確認する意味でもやる価値はある。


 ディーシーがマップ作成をやっている間に、俺は制圧隊の面々を見やる。


 先ほど話をしていたアーリィー、暗黒騎士姿のベルさん、リーレの他、リアナ、サキリス、ユナ、ヴィスタのほか、オリビア近衛隊長と、その部下たち二個分隊。そして今回、バトルゴーレムの青藍せいらん深紅しんくを久々に連れてきた。


 パワードスーツが配備されてから出番がなかった二機だがら、実戦も本当に久しぶり。とはいえ、パワードスーツに搭載されたゴーレムコアの戦闘データは移植されているので、最新の戦闘行動にもついていける。


あるじよ、テリトリー化完了だ」

「どんな様子だ?」


 ディーシーが、いつものホログラフ状のマップを表示。仲間たちの視線が自然と集まる。……なお、その周りはシェイプシフター兵やパワードスーツが守りを固めている。


「生命反応は、およそ十五。いずれも人間だ。だが、それとは別に三つほど、未知の個体がある」


 施設でもっとも高い場所にある艦橋状の管制塔に、赤い光点が集中しているが、その中で、ディーシーが『未知の』と表現したものが、サイズアップする。


「未知の、とは?」

「魔獣か、とにかくよくわからん奴だ」

「悪魔のたぐいか?」


 ベルさんが問う。直接見えるか、と俺が聞けば、ディーシーが額に手をあて、何やら集中。

 するとホログラフから、映像表示に切り替わる。テリトリー内では、ダンジョンコアは自由に場所や物体を見ることができる。その目からの情報だろう。


「人……にしちゃ、デカいな」


 パワードスーツくらいの大きさはあるようだった。全身真っ黒なその身体は、筋肉質であり、背中にマントのようなものをつけていた。

 顔は……まるでのっぺらぼうのように、目、鼻、口などが見当たらず、のっぺりしている。


「異形か、化け物みてぇーだな」


 リーレの目つきが険しくなった。アーリィーが指さした。


「それより、周りにいる人! マントとか肩の紋章――」


 その声に、ディーシーの提供する映像が動いて、近くにいた人間を拡大した。三つ首の漆黒竜の紋章――ディグラートル大帝国。


「大帝国!」

「連中が、こんなところで何してるんだ!?」


 驚きが広がる。オリビア隊長ほか、近衛騎士たちも動揺する。俺も無意識のうちに表情を歪めていた。


「まさか、こんなところで大帝国と遭遇するとはね……」


 奴らは空中艦艇を持っている。それでこのアリエス浮遊島に辿り着いたのだろう。

 俺たちが、春に向けて大帝国でコソコソやっているように、敵さんもまた、機械文明時代の浮遊島でコソコソやっていたわけだ。


「相手によっては話し合いも、と考えていたが、方針変更だ」


 全員を見回しながら、俺は宣言した。


「アリエスから大帝国戦力を排除する。無抵抗な者は捕虜、抵抗する者は倒せ」


 俺は部隊を分ける。シェイプシフター部隊を二つに分け、ひとつは管制塔制圧部隊とは別に、施設内の捜索と制圧。もうひとつは浮遊島周辺の捜索を行い、大帝国の艦艇が停泊している場所を突き止める。


 まだ施設の防空網は生きているだろうから、『ディアマンテ』以下、航空部隊の増援は見込めない。すでに上陸している軽巡『アンバル』には、敵艦が現れた時に備えさせる。


 バイカースカウト隊と、エクウス歩兵戦闘車にはそれらの捜索支援。ルプス主力戦車は、施設外を守らせよう。


 行動開始。シェイプシフター部隊がそれぞれ移動する中、俺たち管制塔制圧部隊は施設内へ入る。体育館くらいの広さがあるフロアがまずお出迎え。ここでもガードゴーレムの残骸があった。電源が生きているのか、照明がついていて明るかった。


 するとディーシーが「むっ?」と声をあげた。


「主、例の化け物三体が動き出したぞ!」

「敵も、こちらの動きに気づいているってことだろうな」


 テリトリースキャンを察知されたか。あるいは、島に上陸されたところから見ていたかもしれない。


「いや、それどころではないぞ、この化け物どもの動きが変だ!」

「変……?」


 いったい何が変だというのか。ディーシーが、珍しく慌てる。


「こやつら、床や壁を突き抜けてきておるぞ!? と、うち一体が、もうすぐそこの天井に――」


 その瞬間、皆が顔を上げた。リアナはその場で銃を天井に向けていた。

 ぐにょり、と天井の一角が歪んだかと思うと、水滴が落ちるように黒い塊が姿を現した。

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