第652話、アンバンサーの遺産 その2
アンバンサーの車両などが装備していた多銃身砲――あの五連弾を発射するガトリング砲のような外観の武器だ。
タイミングをズラして五発のエネルギー光弾を撃つこの武器は、弾速が速く、回避しづらい。さらに連続して命中するため、エネルギー防御装置に初弾は防がれても、立て続けに当たる弾で貫通することもあった。
マッドが、その兵器のことを持ち出したので、俺は腕を組んで考えるポーズ。
「クレニエール侯爵からも同じような提案を受けている。拠点に据え付ける防御兵器ならいざ知らず、戦車や兵器に搭載は無理だ」
「威力は充分だ。それに、あの砲自体は、さほど大きくなかったから車両に積めると思うが……?」
「あぁ、クレニエール侯爵も、アレに自分のところの砦や拠点を潰されているからな。利用できれば頼もしいと思ったんだろう」
利用できれば。
「もったいぶった言い方だ」
「数発ぶっ放しておしまい、でいいなら使えなくはない。問題は、あれを連続して使うためのエネルギータンクだな」
「消費が大きすぎる?」
「そういうこと」
連続して使用すると、光弾のエネルギーがあっという間になくなってしまう。
「砲台として城や砦に置くのはいい。ただ車載兵器となると、エネルギータンクが載せられない」
「だが、アンバンサーの多脚戦車は載せていた」
マッドは指摘した。
「それを利用することは?」
「あの戦車などの砲に使うエネルギータンク、というか装置はあったんだ。魔石みたいなエネルギーコア。ただ、それを作れない」
だって――
「アンバンサーが人間の生命力と魔力を吸収していた装置があっただろう? そのエネルギーコアを作るためには、生きた人間を多数素材にしないと作れない」
マッドは目を見開き、すぐに視線をそらした。
「外道の兵器か」
「あの吸収装置は破壊したし、回収したとしても再生させるつもりもない。……仮に、そういうのがあったと言うと、権力者は作れと言うだろうしね」
「……言うか?」
「人間素材だからな。魔石資源が不足しているところなら、それも――なんて考えたりするかもしれない」
古来より、生け贄なんて儀式もあるんだ。それと同じと思えば、やってやれなくはない。
「人道主義者は黙っていないだろうな」
「この世界に、どれだけの人道主義者がいるものか。いたとしても、権力者の前では無力なもんさ」
嫌だ嫌だ、まったく。
「人道とは言うが、例えば素材を重犯罪者――つまり死刑にする凶悪犯にしたら、案外支持する人もいるんじゃないかな」
「どうせ、殺すなら有意義に殺しましょ、ってか? 反吐が出るな」
「同意。こういうのは権力者にとって都合の悪いヤツを消す手段にも用いられるだろうし、冤罪で素材にされてしまう人も出てくるだろうな。……だからな、マッド」
俺は、友人である傭兵を見た。
「今の話はここだけにしておく。他の者には他言しないでくれ」
「あぁ、もう忘れた」
マッドは表情を崩さず、ただ腕を組んでアンバンサー戦車の残骸を睨んだ。
「……そうなると、あの砲をまともな方法で使うとしたら、バカでかいエネルギータンクが必要になるってことでいいんだな?」
「試算だと、戦車二両分の大きさになる。そうまでして使う意味が見いだせない。他の兵器を載せたほうが効率的だ」
「だな」
一応、エネルギータンクの小型化とか、他の方法がないか考えてはみるけどね。
「まあ、あれの作りを利用して魔弾型のガトリング砲を制作するのはありかもしれない」
エネルギー消費がでかいなら、小さいのを作ればいい、というやつ。
「なるほどね。……他に利用できそうなものは?」
「アンバンサー・スパイダー。あの多脚戦車の足回りを参考に、ウィリディスでも多脚型を作ってみようかと思っている」
四脚、六脚、八脚型と見本があるわけだから、前々から漠然と思っていたものも作れると思う。あとは何に使うか、どう使うかを見出して、それに合わせた設計と開発を行えばいい。……さすがに用途もなく作るのはどうかと思うんだ。
「そういえば、八脚型は戦場で見かけなかったな……」
思い出したようにマッドが言う。俺たちが戦った敵部隊の戦車は四脚と六脚型ばかりだった。
「八脚型は、燃料補給や輸送用のキャリアだったからな。いつも後方にいて、前線にはいなかった」
「そういうことか」
マッドは納得した。ちら、と視線が奥に鎮座しているアンバンサー戦闘機に向く。
「航空機は?」
「あの推進装置の形と、大気中の魔力を取り込んで燃焼させるエネルギーの変換効率は、応用できるかもしれない」
テラ・フィデリティアの航空機エンジンも負けてはいないけどね。
「いい機会だから、新型の戦闘機を作ろうと思ってる」
「その意図は?」
「今回のアンバンサー戦役で、ウィリディス軍が戦闘機を使うことを世に知らしめてしまった」
王都軍、ケーニゲン軍、クレニエール軍に、傭兵たち。上層部では末端まで箝口令を敷いたが、おそらく完全に封殺は不可能だろう。
貴族に通知された俺が侯爵になったことが、情報通の王都商業ギルドにも伝わっていたくらいだからな。
これはまあ、特に口止め命令が出ていたわけではないとはいえ、ウィリディス軍の活躍がそれなりに世に伝わっていることには違いない。
「王国に戦闘機などを導入してカモフラージュするとはいえ、ウィリディスの戦闘機の形が違うことはいずれバレる。そうなると、だ。大帝国戦が始まった時、正体不明の航空機の仕業に見せたかったのに、黙っていてもウィリディス軍だと露見してしまう可能性が高くなった」
あの武器を持っているのはアイツらしかいないから、今回の襲撃はアイツの仕業だ――
「そうなると、この国が必要以上に目をつけられてしまう。できればそれは避けたい」
大帝国以外の国からも注目されるのも困る。
「連合国や、その他の場所で大帝国と交戦する際、ウィリディス軍の戦闘機とは、別の機種を使えば、ヴェリラルド王国が悪目立ちしなくなるかな、と思ってね」
「それは戦後の話も含まれているな?」
マッドは難しい顔をした。
「気が早いと思うかい?」
「末端の兵士には及びもつかないことだが……。戦争を始めようという人間には、その終わりやそれ以後のことも考えてもらわないと、困るといえば困る」
「本来は政治家の、いや、この国のトップであるエマン王が考えることではあるんだけどね」
俺は自嘲する。
「国王陛下は、対大帝国戦に関して、俺に一任するそうだ。今回のアンバンサー戦は、それを決断するだけの判断材料をあの人に与えた」
「何せこの世界の古代機械文明時代の敵さえ退けた英雄だからな、あんたは」
皮肉げにマッドは言った。俺は肩をすくめる。
「俺が、俺の手元の材料で、王国に大きな負担をかけず、そして勝ち続けることが、一任の条件ではある」
「王様がそう言ったのか?」
「言わなくても、そういうものさ」
勝ってる間はどうということはないが、負けだすと途端に責任がかかり、最悪死刑だ。恐ろしい恐ろしい……。
「ま、勝ってみせるよ。そのために準備しているんだからね」
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