第651話、アンバンサーの遺産
王都商業ギルド、というよりパルツィ氏からの全面的なサポートを受けられる形となった。
とりあえず彼にマジックペンを渡したら、とても喜んでいた。冒険者ギルドで、ラスィアさんがさらさらとマジックペンを使っているのを大変羨ましく見ていたらしい。
パルツィ氏に時間を作ってもらい……いや、彼は俺の希望を優先して、すぐ時間を作った。サブマスだからそのあたりは融通できるんですよ、と笑っていた。
むろん、俺に付き合うことで飯の種、お金になるだろう、という確信があるからだ。もちろん、それは間違っていない。俺は彼と商売の話をしているのだ。
今さら感もあるので、パルツィ氏にポータルを出して見せ、さらにノイ・アーベントに招待した。現地視察である。
ノイ・アーベントには俺の館と住民たちの家しかないが、旅人向けの商業区画を作る予定なので、その予定地を実際に歩く。パルツィ氏は、持ってきた店舗見取り図サンプル書と現場を見比べながら、あれこれ助言をしてくれた。
「しかし、これは大事業になりますよね?」
パルツィ氏は、いまは何もない荒野同然の平地を眺める。地平線が見える。
「雇用が生まれ、それに付随して人やお金が動く――」
「まあ、そうなんだけど、残念なことに、人やモノを必要としているのはうちだけじゃない。そういうリソースを奪い合って、遅々として事業が進まないと、領地経営もままならない」
収益を得る前に赤字倒産しても仕方ないのだ。
「そこで、うちは独自の工法で町を作り、街道を作る。それも移動が活発になる春までに」
雇用については、入れ物ができてから、ということになるだろう。一から作るほうの雇用は、他領に譲る。
「……そのようなことが可能なのでしょうか、トキトモ閣下」
「ふつうの方法では無理だな。魔法使いのやり方なら、可能だ」
ただし、これは超機密だからね。方法を教えたとしても、余所には絶対漏らさないでくれよ――
ダンジョンコアと、その量産コピーであるコピーコア。コピーの能力は限定的ではあるが使う範囲が限られているなら、それで十分だ。
それに、コピーコアでの工事作業のノウハウは、戦争での陣地構築や道路整備などにも役立つから、大帝国との戦争を前にいい経験稼ぎになるだろう。……なんでも戦いに絡めて考えてしまうな。くそっ、大帝国め!
でも、あまりコピーコア工法を広めたくはないな。ノイ・アーベントの発展のためとはいえ。
この技術を欲しがるやつは世界中にいるだろうからな。
・ ・ ・
ノイ・アーベントの開発は計画を詰めるとして、トキトモ領に巡らす街道についても考えなくてはならない。
旧キャスリング領にも街道はあったが、王都方面とクレニエール領行きのが、それっぽく存在したが、それ以外はお世辞にも整備された道とは言い難い代物だった。
出張中のポイニクスに代わり、ドラゴンアイ偵察機によるトキトモ領全体の精巧な地図作成を行っている。その結果を見た上で、どうルートを作るか検討する。
さて、俺はキャスリング基地へと足を運ぶ。
その地下工場には、アンバンサー戦役の遺産が回収されていた。
アウダークス級航宙揚陸母艦の残骸――全部はさすがに無理なので、比較的無事だった装甲板や対艦、対空火器など。
破壊したアンバンサー戦闘機や多脚戦車なども、こちらに集められている。
エマン王からの宿題こと、アンバンサー兵器で有用なものを、俺たちとジャルジーと王都軍で山分けにしろ、というやつだ。
工場につくと、シェイプシフター整備員たちがいて、エルフのガエア、ドワーフのノーク、そして傭兵のマッドハンターがいた。
「マッド」
「やあ、侯爵殿」
マッドハンターは、彼にしては珍しくからかうような調子で返してきた。
「忙しそうだな」
「人手不足でね」
「異星人のお宝があるのに、あのユナって娘がいないからな」
「あの娘は、魔法にしか興味がない。機械についてはあまり」
俺は苦笑する。
「今日はどうしたんだ?」
「いまは仕事がなくてね。機体のメンテも兼ねて、こっちで休養をと思って」
「暇人か」
「冬はキャラバンもほとんどないからな。パワードスーツを引っ張るような護衛もない」
「傭兵も大変だな。ま、春にでもなれば、このあたりの領を行き来する人が増えるだろうから、護衛依頼に困ることはないだろう」
道中の盗賊や魔獣の襲撃に対応して、冒険者や傭兵を雇う隊商も少なくない。
「それで、ジン。異星人の兵器で何か面白いものはあったか?」
リアナに次ぐ軍事顧問であるマッドが、さっそく仕事の顔になった。ひょっとして、暇人と言われて、気に障ったかな……?
「面白いもの、というのがどういうものを指すかわからないが、王国軍にとってはそれなりに収穫はあったよ」
アンバンサーの機械については、ディアマンテという専門家がいるからね。戦車や母艦に用いられた装甲板を加工して盾や、アンバンサー兵が使っていた携帯武器に若干手を加えて王国軍に納入した。
「鹵獲品のリサイクルだな」
「一から作るのに比べると、消費する魔力資材が節約できるのはありがたい」
それでなくても、こっちは作るものが多いからね。
「盾は魔法金属並に頑丈で、同レベルのものを調達すると、他の兵器調達資金をかなり圧迫するくらいなんだそうだ。それがほぼタダで手に入ったんだ。国王陛下もジャルジーも喜んでいたよ」
斧槍も、鋼よりも堅い材質でできていて、さらに鋭い切れ味とあって、これまた配下の騎士や兵士に、上級装備として与えられた。
賠償金で武器を買った、と解釈するなら、アンバンサー戦役の赤字をかなり埋められたんじゃないかな。
「そうそう、あと魔人機も、どさくさに紛れて出したよ」
王国側から、大帝国に備えて開発を命じられていた魔人機。すでにそれを手に入れ、独自に作っていた俺たちウィリディス軍。いつ披露しようかと機会を窺っていたんだけど、色々提出するのに混ぜて出した。当然、喜ばれた。
「後は……アンバンサーが使っていたエネルギー銃な」
人間の生命力や魔力をエネルギーとして利用して使う光弾銃。
「通常の魔力で撃つ形式にエネルギーパック部分を改造した。エマン王はさっそく王都に銃兵部隊を創設したよ」
銃をメインにした戦闘部隊。うちのシェイプシフター兵が魔法銃をメインに使っているから、参考にされたんだろう。
なおエネルギーパックは、魔術師や魔力を持つ人間が魔力を注げば、何度でも使える仕様。生命力を使わないだけ、かなりマシな武器になっている。
「そのあたりは、元の仕様と変わらないんだな」
マッドはそう表現した。
「魔術師が酷使される未来が見える」
「エネルギーパックだけは腐るほど与えたから、平時にちまちま魔力チャージさせておけばそんなことにはならないさ」
俺は小さく首を横に振った。ふうん、と頷いたマッドは、視線を寄越した。
「そういえば、奴らの戦車が装備していた砲はどうだ? あれは利用できそうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます