第634話、押し寄せる王国軍
そう、それはまさしく伏兵だった。
潜入作戦で民間人を救出したあと、俺はリアナのリーパー中隊の一個小隊を再派遣していた。
決戦時における友軍の誘導、破壊工作を命じられたリーパー中隊は、味方SS兵部隊がクレーターからヘリ降下してくる際に障害となる、アンバンサーの対空砲に細工をしていたのである。
対空砲を破壊したら、次は降りてくる味方のための降下地点の確保である。
透明マントを被せてカモフラージュしていたTPS-4ウンディーネが六機と、SS特殊兵が拠点周りにいるアンバンサー兵に牙を剥いた。
曲面が多用された細身のパワードスーツは、その暗めのグリーンの色と相まって地下では非常に見難い。マギアカービンライフルが連続して電撃弾を撃つ。または跳ねるように駆けて、肉薄したアンバンサー兵やツギハギ兵を近接用のクローで切り裂く。
空母から出て、ウィリディス軍を迎え撃とうとした敵兵が、逆に待ち伏せを受けて撃ち倒されていく。
やるもんだ。さすがリアナとそれに率いられた特殊部隊だ。数の差もものともしない。
俺はシルフィードから眼下の景色を見やる。降下しているので、空洞の底である地面がみるみる近づく。
リーパー中隊のSS兵らが敵兵を近づけまいと、TM-1C2カービンを撃ちまくっている。
俺もシルフィードが右手に保持している二〇ミリロングライフルで狙撃を試みる。目についたアンバンサー兵が、二〇ミリ弾で身体を真っ二つにされていくさまを見定めながら、俺のシルフィードは地面にふわりと着地した。
『ワスプ1、ランディング』
『ワスプ2、ランディング』
兵員輸送コンテナを地面に接触させてワスプ・ヘリが次々に着地地点へと到達した。
『GO!』
コンテナの開かれたハッチから、増援のシェイプシフター兵が数秒で全員飛び出し、すぐにリーパー中隊と合流して戦列に加わる。
途端に火力が数倍に跳ね上がり、敵兵の射撃が下火になった。こちらの弾幕で敵の反撃を制圧しつつあるのだ。よしよし――
『ソーサラーより、ディーシー。こっちは底についた。……そっちは?』
『主よ。我はとうに着いて控えている』
ディーシーの声が魔力念話で返ってくる。
『魔法陣は設置した。いつでもよいぞ』
『了解。……ソーサラーより、ガードリーダー、門は開かれた! 繰り返す、門は開かれた!』
俺が呼びかけると、ガードリーダーこと、近衛隊のオリビア隊長が威勢よく応じた。
『ガードリーダー、了解っ! 総員、突撃開始! 我ら近衛が先導するっ! つづけー!』
次の瞬間、空洞奥のほうで無数の光の瞬きが起きた。
近衛仕様のヴィジランティ改が光と共に現れる。ディーシーの用意した転送魔法陣を通過してやってきたのだ。
そして近衛隊に続き、王国軍の騎士、兵士たちが相次いで飛び出した。地表で戦っている王国軍の第二陣ともいえる兵力が、アンバンサー拠点に雪崩れ込む。
最初はワスプ・ヘリを使って、地表と空洞を往復。ピストン輸送で兵を送り込もうと思っていた。
だが空を飛ぶ感覚のわからない一般兵をヘリに乗せるのは、精神的な負担が大きいと思った。ただでさえ戦闘の前で緊張しているところにさらに不安を煽っては、戦えるものも戦えなくなるかもしれない。
それならば転移魔法陣で移動を速やかに終わらせ、そのまま突入させたほうが速い。魔法陣を潰されないために、先んじてウィリディス軍が先行して確保させたが、敵もヘリを見てこちらが上から攻めてくると思い込んでくれただろうか。
ウィリディス軍の援護のもと、王国軍の兵たちが、アンバンサー兵に立ち向かう。剣や槍を突き立て、敵兵を突き刺す。
腹を貫かれ、ぬっとした悪臭とともに血を垂れ流すアンバンサー兵。ツギハギ兵の斧が振り下ろされ、槍ごと引き裂かれる王国兵。ヴィジランティが長剣を振るい、ツギハギ兵の胴体を両断する。
近接戦の応酬。怒号、悲鳴が無秩序に響き、血と鉄、肉の焦げる臭いが大気に充満していく。
魔法陣を通り、押し寄せる王国軍。
――さあ、侵略者どもに引導を渡してやろう。
・ ・ ・
地表での戦いは王国軍優勢で進んでいた。
もっとも、端からみれば優勢に感じられるのであって、実際に銃火に身をさらし、武器を振るっている者たちにそこまでの余裕はない。
ケーニゲン、クレニエール両軍は、多脚戦車のいないアンバンサー部隊に兵を突撃させた。
「進めェ! 化け物どもを血祭りにあげよ!」
ジャルジーが、声を張り上げる。
氷のゴーレム部隊が盾から強烈な冷気を放出しながら前進する。アンバンサー兵のエネルギー銃を無効化しつつ、接近するツギハギ兵を次々に凍らせていく。ゴーレムの壁が前線を押し上げ、王国軍の側面を守りながら、騎士、兵士らが走る。敵味方の鮮血が雪原を赤黒く染めていく。
王国軍を迎え撃つべく、クレーターの南北の部隊がケーニゲン・クレニエール軍と衝突。
一方、一番遠くに位置していた東部隊は、シズネ艇の攻撃とワスプⅡ攻撃機によってあらかたアンバンサー・スパイダーを破壊されていた。
そこへウィリディス軍の戦車大隊こと、アイゼン・レーヴェが攻撃を仕掛けた。
ルプス戦車が長砲身76ミリ砲によるアウトレンジ射撃を繰り返して、敵兵を
敵部隊が半壊したところで、マッドハンターのパワードスーツ『バーバリアン』に率いられたヴィジランティ第一中隊が突撃した。
バーバリアンは二〇ミリロングライフルを二丁持ちで、アンバンサー兵を的確にミンチへと変えていく。
『異星人といっても、歩兵ではこの程度か……』
浮遊高速機動による肉薄。バーバリアンはまるで舞うように敵弾をかわし、反撃を叩き込む。
アンバンサー部隊も、何とかパワードスーツ部隊を阻止しようと、かろうじて残っている指揮系統が反撃を指示するが、もはや彼らに勝機などなかった。
一撃離脱した
「目標、正面の敵!」
一号車の第一分隊と共に搭乗していたサキリスが声を張り上げる。
「機械化歩兵、突撃ィ!」
メイドバトルドレスをまとうサキリスの号令のもと、機械化歩兵(装甲兵員輸送車に搭乗する歩兵のこと。機械の兵士ではない)たちがライトニングバレットを手に突撃した。
「サキリス、あまり無茶は――」
同行していたユナは声をかけるが、その時にはすでにSS兵に混じりサキリスは突撃した後だった。
「仕方ないですね。……エクウス隊は歩兵の援護。味方には当てないように」
『了解』
もはや、アンバンサー東部隊は、袋のねずみだった。
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