第633話、アウダークス級航宙揚陸母艦『443』号
『こちらワスプ・リーダー、了解。目標クレーターまで、三分でデリバリーします』
TH-1ワスプ・汎用戦闘ヘリコプター中隊が、その腹にSS兵を乗せた兵員輸送コンテナを抱えて、戦場に入り込んだ。
すでにアンバンサー・スパイダーが沈黙した今、敵に脅威となる対空攻撃能力はない。だが念をいれて地上の戦闘を迂回する。ヘリコプター部隊が運ぶのは、各一〇名のシェイプシフター兵。総勢一二〇名、一個歩兵中隊。彼らSS歩兵部隊は、王国軍の先駆けとして、アンバンサー拠点へ乗り込むことにある。
さらにそのワスプ・ヘリを、レイジング・ブル大隊の第二中隊、空戦対応パワードスーツ『シルフィード』が護衛する。戦闘ヘリコプターのスピードに劣らない機動力を持つシルフィードは、推進ブレードによる風魔法の補助を受けて
・ ・ ・
アンバンサー・アウダークス級航宙揚陸母艦『443』号。
それが旧キャスリング領地下に眠っていたアンバンサー母艦の名前だった。
惑星テラ攻略遠征軍に所属し、テラ・フィデリティア航空軍と交戦。その戦闘の最中に起きた大災厄によって母艦は損傷し、墜落し行動不能となる。
以後、災厄の嵐と呼ばれる現象が惑星を襲い、敵はおろか友軍との連絡さえ取れない状況が続いた。乗員はやむなく艦の自動修復システムによる回復を待ちつつ、コールドスリープ装置にて永き眠りについた。
友軍の反応を感知したら目覚めるようにセットされた冷凍睡眠装置だったが、緊急システムが発動し、乗員たちは眠りから覚まされることになる。
例のキャスリング領に落下した隕石である。世界はあれから万を超える年月が経過していた。アンバンサーたちは、再び活動を開始する。
災厄の嵐は消え、母艦も自動修理が済んでいた。しかし稼働燃料がほぼ限界を迎えていた。……仮に隕石が落ちなくても、あと数年で冷凍睡眠装置の稼働エネルギーがなくなり、強制的に覚醒させられていただろう。
現状確認とエネルギーの確保は急務であった。調査の結果、この惑星に人間は存在し続けていた。
だが技術は退化し、アンバンサーからすれば原始人程度にまで衰えていた。母星に連絡をとろうにも友軍の反応もなく通信もできない。
かくて、443号の乗員は、エネルギー確保と防衛戦力の強化に乗り出した。
アンバンサー機械のエネルギーとは、太陽光を利用するものと、生命体の生命エネルギーを利用するものの二種類が存在する。
特に後者は、アンバンサーにとって敵対種族である人類も対象に入っているため、彼らは当然のごとく、人間を狩った。
それが、今回のクレニエール、トレーム、フレッサーの三領を襲った災厄の真相である。
始めは、人間の抵抗の脆さに、443号の戦力だけで惑星を制圧できてしまうのではないかとさえ思えたが、そう簡単にはいかなかった。
テラ・フィデリティアの兵器に近い戦闘機や戦車などが現れたのだ。
443号は空母であるが、主任務は地上部隊を輸送する揚陸艦である。だが頼みの強襲機甲部隊の大半が撃破されてしまった。多くはないが、搭載した航空機も投入したが、こちらも壊滅しつつある。
やはり人間を甘く見るべきではなかった――443号艦長、ラブラ・99は思った。
ドクロ頭。アンバンサーを構成する改造種族のひとつである彼は、無感動な目を正面モニターに映る戦闘に向けていた。
『
ラブラ・99を呼ぶのは副長のボゥ・154。こちらもドクロ頭のアンバンサーなのだが、その顔の色は茶色である。
『敵に新たな動きが見られます』
モニターに飛翔体の群れの反応。それが母艦上方、クレーターに接近しつつある。この動きが何を意味するのか。テラ・フィデリティアとの戦いを経験しているラブラ・99は理解した。
『対空砲、用意。敵は乗り込んでくるぞ!』
・ ・ ・
クレーターに到着したワスプ汎用戦闘ヘリ部隊は、その開いた穴から地底へと降下を行った。
アンバンサー空母は通れない穴ではあるが、その艦載機が飛び立つには十分な広さはあり、ワスプが数機単位で同時に降りることも余裕だった。
俺は、クレーターそばで
中は無人。ゴーレム・コア制御機である。俺はマントをストレージに放り込んでから、パワードスーツに乗り込んだ。頭部カバーが閉じる前に、俺はディーシーを見やる。
「お前はどうする?」
「むろん、ついていくさ、主」
ダンジョンコアの少女の足下に、魔法陣が浮かんだ。
「我が底に魔法陣を作るが先か、主が着くが先か、勝負だな」
「うわ、勝てねぇだろ、それ」
ダンジョン・テリトリーを伸ばして、転移魔法陣を設置するつもりらしい。もはや隠密行動する意味はないので、魔力反応も気にする必要はないというのだろう。
頭部カバーが下りて、俺の全身はパワードスーツの中。身につけているライトスーツがパワードスーツ用スーツと共有できるようになっているので、すぐさま俺の動きたいように機体がトレースした。……そういえば、実戦でパワードスーツは初めてだったか。
少々圧迫感を感じているが、全身を装甲で守られているという安心感も同時に味わう。
俺が操るシルフィードは、浮遊石の効果でふわりと浮かび上がる。この辺りの感覚は浮遊魔法で浮かぶのと変わらない。そのままクレーターへ進む。半球状にえぐられた大地、その底の部分にさらに大きな穴が開いている。アンバンサー拠点のある空洞へ、いざ! 俺の操るシルフィードは飛び込んだ。
腹に歩兵を抱えたワスプがメインローターを激しく回転させながら降りていく。真っ暗な、しかし底のほうに浮かぶ淡い緑光が目的地を指し示す。浮遊石に降下を命じつつ、機体各所のブースターを軽く吹かして調整。
さて、敵さんも当然、こちらの動きを捉えているはずだ。
その対応も深く考えるまでもなく、迎撃シフト。残っている兵を動員するのはもちろん、空母が装備している対空砲が狙ってくるだろう。
垂直降下中のヘリなど、格好の的だ。
『だが対応がわかってるなら、対処だってしているんだぜ……!』
空洞の奥深くで、いくつもの光点が瞬いた。
・ ・ ・
アウダークス級航宙揚陸母艦『443』号――
その艦橋にいたラブラ・99は、振動を受けて思わず席を立った。
『何事だ!? ダメージレポート!』
艦長が怒鳴れば、手元のコンソールをいじっていた副長のボゥ・154が答えた。
『上部対空砲が破壊されました! 迎撃不能っ!』
『なんだと!?』
上から降ってくる人間どもの揚陸艇を迎え撃つはずだった砲が破壊されたと言う。
『艦の周囲に魔力反応! 突然、現れました!』
『伏兵か――!?』
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