第611話、全軍突撃せよ


 パワードスーツ部隊、通称レイジング・ブル――荒れ狂う雄牛は、今回、ジャルジーの魔法甲冑部隊との混成となっていた。


 本来は第一中隊が量産型パワードスーツのヴィジランティ。第二中隊が空中対応型のシルフィード。第三中隊が、編成されたばかりの重装甲型のノームが中心である。


 だが今回、機動力に劣る第三中隊は予備として待機。第一と第二中隊、そしてジャルジー部隊が、突入を担った。


 BVシステムのAブロックこと、フライングボード、合計18台を使って高速移動をしたのは、第一中隊のヴィジランティと、ジャルジーに貸したヴィジランティ重装型、魔法甲冑シュタールである。シルフィードはブースターで超低空を、他の部隊と同じ速度で随伴した。


 計30機の人型兵器が、炎に巻かれ、混乱のるつぼと化している敵前衛部隊に騎兵の如く、突撃した。


 ゴーレムコア制御のフライングボードに乗りながら、ヴィジランティが魔法銃の拡大版であるマギアライフルを撃ち、シュタールやジャルジー機は、近接用長剣を振り回し、ドクロ頭やツギハギ顔の兵士をすれ違いざまに切り裂いていく。


 航空攻撃によって敵の戦列を崩したところを肉薄して踏み潰す。今のところは絵に描いたようにうまくいっていた。


 ジャルジーやシュタール操者たちは、フライングボードは初めてということで、一回だけ練習はさせたのだが、案外うまく扱っている。一部慣れてないせいで鈍くさいヤツもいるようだが……。


 単に、ゴーレムコアのサポートのおかげかもしれないな。魔法甲冑シュタールにも、機体制御のCPUとして、ウィリディス製ゴーレムコアを搭載しているから。


「楽しそうだな、ジャル公は」


 塹壕ざんごうから戦場を眺めるベルさん。ドンパチが遠いのでヒマそうである。


「オレ様も、専用のパワードスーツが欲しくなってきた」

「存在自体が、パワードスーツ以上のベルさんが何を言うんだ?」


 戦闘強化服などなくても十分強い魔王様である。


「格好いい装備があれば、身につけたいと思うだろう?」

「ベルさんは、今でも十分カッコいいぞ」

「あんがとよ」


 そんな軽口を叩きながらも、視線は戦いから外さない。


 敵のドクロ頭もツギハギ顔も人型としては大柄だが、パワードスーツと比べれば小さい。力比べなら単純にパワードスーツのほうが上だ。


 しかし、快進撃もここまでだった。

 敵の第二陣が前衛に追いついたのだ。


 新手のアンバンサー・スパイダーが砲口を向け、オレンジの光弾を五連射。雪上を疾走するフライングボードや、シルフィードがそれを躱す。


 上昇に転じたシルフィードは上方から20ミリロングライフルを叩き込む。かと思えば下から回り込んだヴィジランティがお留守になった敵の背後にボンバーナックルを叩きつけ敵を倒した。


 連携攻撃。だが次の瞬間、ゆっくりと前進する六脚型の五連弾がヴィジランティに吸い込まれ、その四肢をバラバラに分断してしまった。


 ルプス戦車が、六脚型に76ミリ砲を撃ち込む。しかし徹甲弾は命中したが、カンと音を立てて弾かれてしまう。


「この距離では『六本足』の装甲は抜けないか……」


 単に大きいだけではないということだ。


 そんな六脚型に対し、トロヴァオン戦闘攻撃機が二機、上空から攻撃を仕掛けようと機首を向けた。六脚型をはじめ、付近の四脚型が上部砲を振り向け、対空射撃を開始する。


 連続して放たれるオレンジ色の光。単発より命中率が高そうな攻撃は、接近するトロヴァオンの至近を通過する。


 だが不幸な一機の魔法障壁防御シールドに光弾がヒット! 四発まではシールドが耐えたが、最後の一弾が貫通。トロヴァオンの右翼を付け根からもぎ取った。機体は被弾の衝撃でバランスを崩したのか、錐揉きりもみとなって墜落した。


「くそっ……」


 思わず声に出た。

 浮遊石が無事なら翼がなくなってもトロヴァオンは飛べる。被弾したことのショックと回転する機体に焦って、操縦を誤ったか。冷静になれば防げたかもしれない墜落に、心の中がささくれ立つ。


『ソーサラーより、トロヴァオン、ホーネット各中隊へ。敵のビーム兵器は魔法障壁シールドで防ぎきれない。相互に援護できるように時間差攻撃を仕掛けろ。敵に砲を撃たせるな!』

『了解、ソーサラー!』

『了解しました』


 アーリィーと、ワスプⅡのシェイプシフター中隊長が魔力通信で応じた。

 攻撃を仕掛けようとする機体が宣言をすると、すぐさま別機が援護を宣言。突入機が攻撃して離脱する際、それを狙おうとする敵に向けて援護機が攻撃する。

 狙われた機体は回避行動をとって敵を引きつけている間に、別の味方機が仕掛けることを徹底。敵に攻撃させる機会を潰しつつ、撃破していった。


 一方の敵兵とパワードスーツ部隊の交戦は、数でこちらが負けているものの、敵の屍を量産させていた。

 近接武器を持った敵兵はヴィジランティやシュタールのパワーに圧倒されている。近づくだけ無駄なのだが、それでも諦めずに突っ込んできて返り討ちに遭っていた。


 だが光弾銃を持った敵兵の射撃により、パワードスーツも被弾機が相次いだ。当たり所が悪いと、装甲をまとった機体といえど倒されてしまう。

 すでに、シュタールの何機かは動かなくなっていたし、ヴィジランティにも片腕を失いながらもライフルを撃ち続けている機体もあった。


 ジャルジーの重装型は健在。何気に、うちのパワードスーツ隊が戦う公爵を守りながらうまくやっている。

 こちらの戦車隊の援護射撃も敵の注意を分散させているようだ。ルプス戦車の76ミリ砲がリズムよく砲声を響かせ、敵兵を吹き飛ばす。味方が数で押し切られていないのもこの援護があればこそだった。


 現在の戦況は、損害は出ているが我が方が優勢である。


 俺は、上空の大型偵察機ポイニクスを呼び出し、敵の戦力を報告させる。それによると、これ以上、戦場に駆けつけられる敵部隊の存在はなし。


 よしよし、それでは仕上げに掛かろう。歩兵戦闘車エクウス中隊に、迎えにくるよう告げると、連絡係であるシャルールを見た。


「最後の攻撃に移る。クレニエール侯爵に伝えてくれ。全軍突撃と」

「は、はい!」


 クレニエールの一等魔術師は魔力念話で、侯爵軍に俺からの突撃命令を伝達する。

 無線はないが、魔術師の魔力念話で部隊間の連絡をとることについて、クレニエール侯爵はかなり重要視していた。

 連絡係として魔術師を俺のもとに送ったこともそうだが、各拠点や中隊以上の部隊に念話の使える魔術師を配備しているのは、かなりの先見性と言える。


「さて、ベルさん」


 エクウス9両が塹壕ざんごうそばまで戻ってくる。


「俺たちもそろそろ介入しようじゃないか」

「おう、腕がなるぜ!」


 こちらに兵員輸送室を向けて停止するエクウス。塹壕に伏せていたシェイプシフター兵が分隊ごとに車両に乗り込む。


「俺たちは一足先に戦場に突入だ。……『エクウス・リーダー、戦場南側から回り込んで敵の側面を突くぞ』」

『はい、閣下』


 定員を収容した歩兵戦闘車は浮遊推進で再び戦地へと疾走する。地上を進む車両として最速に近いエクウスは、砲塔を敵に向け、二〇ミリ機関砲やマギアカノーネを撃ちまくる。


 文字通り弾をばらまいて敵兵を撃ち倒して、その抵抗力を弱めたところで、敵部隊のそばで停車。運んできた俺たちを下ろした。

 なおも砲塔が撃ち続ける中、俺、ベルさん、そしてSS兵らが武器を手に斬り込んだ。

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