第595話、EQランス


 ベルさんとエマン王の独楽こま遊びは、周囲を巻き込んで、独楽ブームを生んだ。


 唐突に始まったウィリディス独楽大会は、ジャルジーやフィレイユ姫はもちろん、気づけば主な面々が全員、独楽で遊ぶという光景を生み出した。

 テレビゲームやソシャゲもない、娯楽も限られている世界だから、手軽な遊びは歓迎されるのだ。


 俺はもっぱら独楽作りばかりしていたけどな。

 何せ独楽の数が足りない。木から削り出してたら全然間に合わないので、形だけぶちこんで魔力生成で製作。遊びながら形を変えたり改造したりと、オーダーばかり受けてたけど。


 ……しかし、ユナが魔法で独楽を強化したり、ディーシーがスフェラに作らせたシェイプシフター独楽を使ったりと若干レギュレーション違反、つまりインチキも見られたが、最後はちゃんと楽しんでいたのでよしとする。


 翌、一の月の二日。日本では正月三が日はゆっくり過ごすとか言われているが、ここでは二日目から働いている人も普通にいるらしい。……まあ、その日本だって、三が日どころか年末年始も仕事している人も多いんだけどね。


 我がウィリディスにおいても同様だ。警備の人間は相変わらず仕事をしていたし、食堂も、残留組が「何か料理していないと落ち着かない」と言って料理していた。


 クロハやサキリスには、SSメイドがいるので休んでいいと言ったのだが、家事をいつもどおりやっていた。


 リアナやマルカスは自主トレーニングを欠かさず、アーリィーも、最近パイロット訓練を始めた近衛の何人かを指導しつつ、自身もトロヴァオンを駆って空中戦技を磨いていた。


 近衛といえば、オリビア隊長がパイロット訓練に励みつつ、戦車やパワードスーツの扱い方を必死に学んでいた。


 正直に言って、身体が頑丈なことが取り柄な彼女ではあるが、操縦に関してはかなり悪戦苦闘していた。

 はっきり言えば、ゴーレムコアのアシストがなければ、諦めろというレベルだ。適性が高いのはパワードスーツで、戦闘機に関しては一緒に飛ぶのが不安と言ったところである。


 俺はといえば屋敷にこもっていた。


 諜報部の敵情、パラサイト作戦実行部隊からの報告を処理して、兵器開発。そういえばエルフ側から浮遊艇の操縦に関しての人員選抜が終わったと知らせがきていたな。実機である浮遊艇と共に、後日、ウィリディスへやってくる予定だ。


 それはそれとして、TPS-4――ウンディーネと名付けた水陸両用パワードスーツが完成した。


 ウィリディス製水属性金属の特徴である緑色のカラーリング。突起物の少ない細身の機体は、中身がTPS-2バーバリアンを元にしているので、TPS-1ヴィジランティより優れた運動性を発揮する。


 装甲は水圧に耐え、火属性攻撃に対する高い耐久性を持つ。また表面に魔力を流すことでカモフラージュ・コートと呼ばれる軽度な光学式迷彩機能を有する。

 これは水属性と相性がよく、完全に姿を隠すのは静止していないと無理だが、動いている最中でも距離感を狂わせたり、視認しづらくする効果があった。


 背部のバックパックのハイドロブレードは水中での航行を可能とし、武器としても応用可能。

 主な武装は、パワードスーツ用マギアライフルの銃身を短くしたマギアカービンライフル。爪にもなるバイブレーションナイフが二本。腕にはバックラー型の盾にパイルバンカーユニットを仕込んである。胴体肩の付け根部分には、小型の拡散型マギアカノーネを一基ずつ装備。


 特殊部隊構想を発案したリアナさんも、非常に満足していただける性能を持っていた。

 そのリアナに、さっそく試作一号機を試してもらい、問題点や改良点の洗い出しを行う。


 並行して、TPS-5の開発を行う。


 採用するのは、土属性魔法金属。その特徴は、まず他の魔法金属に比べて強度がある。要するに硬い。次に、魔力の吸収効率がよい。つまり魔力の自己回復力が高い。――以上!


 強固さと自己回復力――この特徴を見れば、おのずとTPS-5は装甲を活かした重装型に落ち着く。


 運用法は、その1、閉所などにおける前衛。すなわち戦闘もできる盾役として先導。回避スペースが十分にない場所で、敵の攻撃を装甲で弾きつつ、後ろの味方を守る。

 その2、武器を一杯搭載しての荷物持ち。

 その3、その積載量を利用して、車両の入れない場所での火力支援係。


 ……まあ、前衛と後衛に置くかで、装備も変わるだろうが以上のような使い方を考えている。


 さて、機体構造については、ヴィジランティともバーバリアンとも違う新型を計画。これは主に両肩部分にサブアームを搭載する都合と、重量に耐えられる強度強化による。TPS-5は浮遊石を載せないから、しっかり強化しておかないといけない。


 サブアームについては、TPS-5の場合は盾を持たせようと思っている。取り回しを考えると盾は、手に持たせるのが一番だが、それで片腕を塞ぐのももったいないからね。


 武装は、ダンジョンや建物などの閉所での戦闘を想定し、近接戦装備をメインとする。火力支援任務の際は、背中にロケット弾ポッドなどを積めばよかろう。


 TPS-5の独自装備として、地震槍ことアースクエイク・ランスを企画。


 最初はTPS-4ウンディーネに持たせた振動ナイフのような振動武器にするつもりだったのだが、超高速振動による振動武器は、主に切断に用いられるため、それなら剣や斧のほうがいいのでは、と思い、考えた当初はやめたのだ。


 アースクエイク・ランスは実にシンプルな武器だ。火の玉を出すとか雷をまとうとか、よくある魔法武器の考えを応用し、先端で目標を刺す、ないし叩きつけると、地震魔法アースクエイクを発動するというものだ。


 地面を掘ったりするための工具をあれこれ考え、その仕組みに頭を働かせてみたものの、もっと手軽な方法があるなら、さっさとそれを利用すればいい。これは、俺がこの世界にきてベルさんから学んだことだ。


 小難しい理屈はいらない。それができるのであれば何でもいい――と、かつてベルさんは言ったことがある。

 人間は難しく考えすぎるんだ、とも。これについては、この世界の人間の使う魔法と、その教育を見てきた俺も同感だった。


 そのアースクエイク・ランス、略称『EQランス』は騎兵槍型の近接武器だ。

 城壁や障害物に突き当て、地震魔法で粉砕する工兵装備じみた使い方はもちろん、通常の槍として突くことが可能だ。打撃でよけれな横薙ぎに殴るということもできるが、ここで軍事顧問先生であるリアナが提案してきた。


『穂先部分を回転させてドリルにはできますか?』


 ドリル、ね……。元々EQランスは長物だし、中に回転機構と動力を仕込むことは可能だ。例の振動装備も応用できるのでは、と言われ、振動ドリルなる存在を思い出したことで、それも採用となった。


 エグい武器ができてしまったな。こいつなら、ドラゴンの装甲だって穴が開くんじゃないか。


 EQランスの試作品を製作後、早速テストを行う。俺のそばにいることが多いディーシーが、魔力を使って仮想の物理壁を形成。ヴィジランティに持たせたEQランスを壁に打ち込み、破砕!


 岩で構成された壁は容易く破壊された。

 鉄壁に関しては思ったほどの効果はなかったが、例の振動ドリルのおかげで、貫通はした。


 一般的な城壁破壊には十分であり、近接武器としても分厚い外皮を持つ大型魔獣にも対応可、と言ったところだな。


 なお、新型武装を見にきた傭兵のマッドが、EQランスについて。


「面白い武器だけど、バーバリアンには乗せられないな……」


 長物ゆえ、装備できる余裕がないというコメントだった。……ふむ、使い捨てでよければアースクエイク機能付き武器は小型化できるぞ。


 ということで、携帯性を追求した小型のEQナックルを開発。またパイルバンカー系武器も、振動ドリル型に改良された。

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