第578話、クリスマス・パーティー
アーリィーたちが帰ってきた。お土産は、七面鳥ではなく、ドラゴンの肉だった。
「……ずいぶんとデカい七面鳥だな」
俺が皮肉ると、みな笑顔で返した。その表情だけで、それなりの成果があったのは見て取れる。
死傷者なしの遠征に安堵しつつ、アーリィーが冒険話をしてくれると期待していたのだが、何か用事があるからと、サキリスと
ちょっと残念だったが、ダスカ氏とマルカスから遠征の詳細を聞いた。
さすがに地下68階層だけあって、モンスターは比較的手強かったと言う。ヘマをしたら、死者が出てもおかしくなかったとも。……アーリィーが、自分の都合で周りの人間を危険にさらしたことに胸を痛めたことを聞かされた。
橿原が『周りが止めなかった』とか言ったらしいが……。確かにそうだが、子細を聞いた後だと、マルカスや近衛たちを差し向けたのは俺だから、志願したのとはちょっと違う。
だが、アーリィーが気に病むことがないのは至極当然だ。何か足を引っ張ったのならともかく、マルカスたちの話では、彼女は上手く立ち回り仲間の危機も救った。責められることは何もない。
実際、近衛たちは、アーリィーの身を守るのが仕事だ。彼女が危険な場所に行くことがあるなら、その身を挺して守るのが近衛の仕事である。そこで働いてくれなければ、無駄飯喰らいもいいところだ。
まあ、責任問題というのであれば、最終的には俺に行く着くわけだけど。
さて、明日のパーティーの準備のためのラストスパート。やることをちゃっちゃと終わらせよう。
・ ・ ・
12の月、24日。ヴェリラルド王国では単なる平日であるが、俺のいた世界の西暦に当てはめるなら、クリスマス・イブということになる。
そして、前々から準備していた通り、クリスマス・パーティーを開催する。
今回はウィリディスにいる人間を中心にしたモノなので、外部から客は招いていない。強いて言えば王族の方々がゲスト扱いということになるのかな。
あくまで、ウィリディス屋敷に住む仲間たちと、王族の面々でのパーティーだ。……そういうとジャルジーが弾かれるようだが、あれも半分こっちに住んでいるようなものなので、身内扱いだ。
というか、参加してもらわないと俺が困る。色々準備してるからな。
白亜屋敷の食堂兼パーティーホールが会場となり、SSメイドや王族の従者たちの手で準備万端。日が沈む頃には、仕事を片付けてきたジャルジーとその護衛が到着。室内のミニ針葉樹――飾り付けられたクリスマスツリーを見て驚いていた。
昨日の準備の段階で、ツリーに飾り付けられた星やリボン、ベルなどを見ていたフィレイユ姫は、もうわくわくが止まらず目をキラキラさせていた。
「それでは
俺は、アーリィーやダスカ氏、エマン王や人型姿のベルさん、仲間たちの前に立った。給仕担当のメイドたちが、皆にスパークリングワインの入ったグラスを渡して回る。
アルコールダメな人は……って、この世界では基本いないのよね、お酒が飲めない人って。飲料水代わりに葡萄酒とか飲むことも普通な世界だから。
だが異世界召喚組である
「クリスマスという異国の祝い事を、本日開くに至り、お集まりいただき、誠にありがとうございます。……そんなよくわからないだろう祝いの行事を開くことをお許しいただいたエマン国王陛下に感謝の言葉を」
「別に私は、許可した覚えはないぞ」
エマン王が棒読みっぽく言えば、周囲から笑いが起きた。ベルさんはもちろん、ダスカ氏やマルカスも。サーレ姫が朗らかに笑みを浮かべれば、リーレやエリサもそれに倣った。……さすが、陛下も役者だな。
「正直に言うと、私もあまりクリスマスに詳しくはありません。聞いたところによると家族でゆっくりする日だとか、お祈りをする日だとか言われております。その昔は、皆で集まって馬鹿騒ぎする日だったとか」
日本じゃ、恋人たちのなんちゃらなんて言われて、リア充のお祭りになっていたけどね。聖夜ならぬ性夜に、シングルズの
「まあ、少なくとも家族で集まったり、仲間内で集まっての楽しみなら、十分クリスマスパーティーと言っても差し支えないでしょう。酒も食べ物も用意したので、今日は楽しんでもらいたい」
それでは――俺はグラスを掲げる。
「乾杯!」
『乾杯!』
会場にいる一同が倣ってグラスを掲げた後、ワインに口をつけた。甘い香りに、爽やかな口当たり。いいね。
「この透き通った色合いが美しい!」
ジャルジーがそんなことを言った。
「何杯でもいけそうだが……肝心の料理のほうが、ないようだが……」
周りにテーブルと食器が並んでいるが、料理はまだ置いていない。すでに料理人たちが腕によりを掛けて準備をしたものがあるが、まずは順序というものがあるのだ。
「料理の前に、ちょっとした見世物があってね。皆、ちょっと寒いけど、外に出てくれるかな?」
白亜屋敷の食堂には庭に面したバルコニーがあり、その扉をくぐると外へと出られる。ひんやりとした冬の空気。外に出ることも織り込み済みで、気温調整をしておいたのだが、周りの木々や地面に積もっている雪が感覚的な寒さを誘う。
食堂の明かりがわずかに伸びるが、外は日が沈んで真っ暗だった。フィレイユ姫が、ほうと息を吐く。
「お星さまの鑑賞会ですか?」
「いえいえ……。正面の林にご注目」
俺が合図した次の瞬間、ぱっと複数の針葉樹にささやかながら、無数の光が灯った。
わぁ、とお姫様が声をあげた。周りの一同も目の前に現れた光源に目を奪われ、感嘆の息をついた。ひとり、エルフであるヴィスタのみ、驚きの方向が驚愕のようだったが。
「森が!?」
「木が、木が光っていますわ!」
赤、青、白、緑の小さな光が点滅を繰り返し、針葉樹を鮮やかに浮かび上がらせる。
「何で? どうしてですの!?」
「妖精……いや精霊か?」
「クリスマス・イルミネーション。……というやつです」
俺は説明したが、皆、イルミネーションの作り出す幻想的な光景に釘付けだった。
「小さすぎて使い道のない魔石の欠片や、魔水晶を加工して作ってあります」
「何と! あれは魔石なのか!?」
ジャルジーが俺の方を見たので、頷いてやる。
「魔力伝達線で繋いで、魔力を流したものだ。一定のパターンで光るように細工した」
一見ランダムに点滅しているようだが、よくよく見続けていれば、光っている順番の法則がわかってくるはずだ。
「綺麗だね」
アーリィーが俺の隣で、イルミネーションを見つめる。その横顔を見て、『君の方が……』なんて言ったらキザ過ぎるかな、と思った。ヒスイ色の目を輝かせている彼女の気分を壊さないように、「そうだね」と同意しておく。
俺自身、クリスマスのイルミネーションなんて久しぶりで、とても懐かしい気持ちになった。日本にいた頃は、特に飾り付けをすることもなかったんだけどな……。見て楽しいから、適当にイルミネーションを見に散策したことはあるが。
「風情があっていいな」
ジャルジーが言えば、ふと思いついたような顔をする。
「これは作ったモノということは、他の場所でも仕掛ければできるのか?」
「ああ、できるよ。異国の話だが、大きなモミの木を公園か何かにおいて、そこにいっぱい飾り付けをしたのをクリスマス・シーズンにやってたりするからな」
まあ、魔石じゃなくて、普通に電飾なんだけどね。
俺はちら、と振り返る。皆がイルミネーションを楽しんでいる間に、食堂では料理が並べられている。料理人のひとりが俺に合図を送ってきたのを確認。
「では、皆さん。名残惜しいですが、食事の準備が整いましたので、戻りましょう。食べながらでも、ツリーは見えますから」
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