第505話、魔法甲冑、演習す
王都の魔法甲冑製造工房にて、正式量産型の魔法甲冑が完成した。
三号魔法甲冑こと『シュタール』と名付けられたその機体は、モデルとなったヴィジランティをより簡素にしたような外観を持つ。
全高は2.6メートルとほぼ変わらず。搭載している魔石動力はCランク。そのためブーストジャンプの性能はヴィジランティには及ばず、また稼働時間も短くなっている。
だが人型という利点があるので、様々な武装を装備することが可能だ。設計したエルフのガエアが、ウィリディス製パワードスーツと手の規格を同じにしたので、こちらで作った武器も使用が可能になっている。
基本装備は、スティールブレードとタワーシールド。剣には火属性魔石を仕込んでいるのでヒート剣として使用できる。魔法甲冑用魔法銃をサブウェポンとして携帯している。
前衛型が剣と盾を装備する一方、それを援護する支援型があって、そちらはマジックロッドと呼ばれる大型魔法杖をメインに、肩にサンダーキャノンを1門ずつ装備する。
このサンダーキャノンはウィリディス製の同武装をデチューンしたものだ。搭載魔石のランクが低いために、稼働時間に影響する魔力消費を抑える意味でわざと落としてあるのだ。
まず王都騎士団に初期生産分である12機が配備された。
一号甲冑で魔法甲冑の感覚を慣らした操縦者たちが、さっそく三号甲冑を使った訓練を開始した。
彼らへの訓練は、傭兵であるマッドハンターの指導による。一部の者しか知らない秘密であるが、マッドは異世界からの転移者である。
ロボット兵器に関して精通しているマッドに鍛えられた彼らの上達は、目覚ましいものがあった。
魔法甲冑シュタールの話を聞かされた俺は、王城へ足を運んだ。エルフのガエアから、性能については聞いていたが、果たしてどんなものか。
王都騎士団の聖騎士ルインが俺を出迎え、案内してくれた。
「三号甲冑はいいものですよ」
涼やかながら真面目なルインは言った。違和感をおぼえた俺だが、すぐに答えに行き当たる。
「なぜ敬語なんですか?」
前回会ったときは、先輩騎士らしい調子だったのに。聖騎士と称され、人気も実力も兼ね備えたルインは微笑した。
「それはあなたが、この国でも珍しい賢者殿だからですよ」
「賢者?」
俺、いつの間に賢者になったんだ? 驚いていると、ルインが首を傾けた。
「ここではもっぱら、あなたのことは賢者となっていますよ。技師のガエアも、フィレイユ姫殿下も、あなたのことをそう呼んでいる」
「……」
たぶん、あのお姫様だろうな、賢者とか言い出したのは。
「シュタールの基本設計も、あなたが作ったとか」
「設計はガエア。俺が作ったのは彼女が参考にしたヴィジランティですよ」
「そうなのですか」
ルインは頷いた。
通路の先から機械音と足音が聞こえた。王城の中庭に出る。
そこでは白と灰色で塗装された魔法甲冑が、僚機と軽く大剣で打ち合っていた。
「だいぶ動きに慣れてきたところです」
聖騎士殿は、俺を見た。
「そろそろ本格的な戦闘訓練をしたいところです。なにぶんシュタールはパワーがありますから、本気で殴り合えば相手を壊してしまいかねません」
「冒険者ギルドに、演習場の件を相談していたとか」
「その通りです。ただ、いきなり実戦というのも怖い。魔獣が徘徊する場所に行っても、望みの相手がいるとも限りませんし」
「確かに」
「今回、ジン殿が演習地と演習相手を提供してくださると聞いております」
「王国軍にとっては重要ですよね。将来を見据えれば」
エマン王とジャルジーは、さらに上の魔人機の配備を考えている。ただ、この国の、いやこの世界の人間は、機械兵器というのに全然慣れていない。魔法甲冑の配備も、実は扱う操縦者ではなく、それを整備する人間が機械を理解し、扱えるようにするため、という面が強かったりする。
魔人機があれば、戦争に勝てるってものでもない。それを使えるようにするための設備や人員が必要だ。
まあ、それはそれとして――
「有意義な戦闘合宿になるでしょうね」
「はい」
「……そういえば、ルイン殿はポータルを通過するのは初めてですね?」
「はい。陛下が利用されている話は存じていますが、私自身は初めてです」
「そうですか。部下の方々も含めて、機密なので他言はしないでくださいね」
「もちろんです、ジン殿。誓約書も書きました。騎士として誓いは破りません」
大変結構。正直どこまで信用できるかわからないが、気休めにはなる。
「では、今回の演習に参加する部下の方々を集めてください。我が領地にご招待しましょう」
・ ・ ・
領地といっても、要するにウィリディスである。
ポータルを通過した先は自然広がる土地。すでに冬も近く、肌寒いのは王都と同じだ。
ルインら王都騎士団の魔法甲冑部隊は、ウィリディスという名前は知っていても、ポータル経由なので場所がどこにあるのかわからない。……まあ、ウェントゥス地下基地とカプリコーン浮遊島軍港は、内緒のままなんだけどね。
今回はウィリディスの東側の演習場を用いる。森があって、その先に岩地がある、起伏の多い場所だ。戦闘ヘリや戦闘機の対地攻撃演習の的を置いてあったりする。
演習の主役である王都騎士団はシュタール12機全機を投入する。指揮官機にはルイン自らが乗る。指導教官として雇われていたマッドは不参加だ。
演習期間は三日間。
俺はルインと演習内容の確認を行う。手順、仮想敵の扱いなどなど。
打ち合わせが終了した頃、エマン王とジャルジー公爵が王国初の魔法甲冑部隊の演習を視察にやってきた。聖騎士ルインは、部下たちに演習の目的やルールについて説明する。
「我々に課せられた任務は、敵陣地へ乗り込み、その護衛を排除することにある!」
少々演説がかった調子で、ルインは声を張り上げた。
「敵はゴーレムだが、その形は様々だという。人型ゴーレムもいるが、本気で潰してしまっても問題ないので、遠慮は無用とのことだ。実戦だと思ってかかってもらいたい」
演習だからと、相手に手加減する必要はないことは強調してもらう。
「今回、エマン国王陛下、ジャルジー公爵閣下が観覧なされる。無様なところは見せるなよ!」
部下たちに活を入れる聖騎士殿。一通りの説明が終わり、騎士たちはそれぞれの魔法甲冑へ乗り込む。
俺はその様子を眺め、エマン王とジャルジーと共にテントを使った簡易的な観測席へと向かった。
今回の演習は、我がウィリディス勢も地上観測や、王都騎士団の部隊運用を記録し管制モデルを作るという裏の演習も兼ねている。せっかくの機会なのでこっちの都合で利用するのだ。
俺は複数のテラ・フィデリティア製モニターが置かれた観測席につく。エマン王やジャルジーは、大きな観戦モニターを使う。映し出すと同時に記録もとっている。
「初日は接待です」
実戦形式の本格的な戦闘をするのは初めてだから、いきなりラスボスぶつけて自信を喪失されても困る。うちの実戦経験豊富なバトルゴーレムや、例えばリアナさんとかリーレさんとか……。
「仮想敵となっているゴーレムは、動きも鈍く、一撃を与えても追撃はかけないように設定してあります」
うむ、とエマン王は頷いた。俺はちら、と控えているリアナを見た。
「軍事顧問殿、採点を頼むよ」
「はい、団長」
無表情を絵に描いたような少女軍曹は、そのマリンブルーの瞳をモニターへと向けるのだった。
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