第506話、魔法甲冑、演習す その2


 演習場の上空をコアカメラを搭載した鳥型シェイプシフターが飛ぶ。眼下の光景は、観測席のモニターに届く。


 森の中の道を進撃する三号魔法甲冑『シュタール』全12機。どうやら三機ずつで小隊を形成、四個小隊で行動するようだ。


 編成は二機が前衛型、一機が支援型という組み合わせである。前衛と後衛で、きっちり役割分担しているようだ。


 そのあたりはさすが王都の精鋭騎士団だけのことはある。それとも、傭兵であるマッドハンターの指導の結果かな?


 森を抜け、起伏にとんだ岩地へと侵入する。すると、さっそく仮想敵である岩のゴーレムが姿を現す。

 数は五体。適度にばらけているので、相互の連携はとれない位置取りである。接待だからね。まずはお手並み拝見である。


 複数飛んでいるシェイプシフター偵察鳥の映像が、それぞれのモニターに映る。果たしてどれを見るか――なんて、特に迷うことなく、指揮官であるルイン機とその小隊の動きに注目が集まる。


 ミリタリー的には目立つのは御法度なのだが、中世然としたこの世界では指揮官がどこにいるかは重要な要素である。それ故か、ルインのシュタールは銀の縁取りと角飾りがあって、遠目からでも識別できた。


 ゴーレム一体に対し、三機で当たる構えのシュタール。

 ルイン機は盾を前に、僚機と共にホバーダッシュでロックゴーレムに踏み込む。スティールソードを構え、動きのトロいゴーレムよりいち早く必殺の一撃を打ち付ける。


 ロックゴーレムの頭が砕ける。魔法甲冑のパワーが炸裂。まるで鉄球が岩を砕くかのような一発だった。


「お見事!」


 ジャルジーが声を上げ、エマン王も満足げに笑みを浮かべた。ルインの一撃も鮮やかだったが、何気に僚機が指揮官機が仕留め損なった時に、第二撃を叩き込めるように動いていたような。


 こういう動きは、機体が魔人機に変わったとしても有効なんだ。いいね、悪くない。


 結局、他の小隊も危なげなく最前衛のゴーレムを破壊し、進撃を続けた。


 斜面を登るが徒歩で行くと、4、5メートルほどの崖が壁のようになっている地形のせいで若干遠回りを強いられる。


 と、シュタールは背部に装備したジャンプブースターを使って、その壁となっている地形を飛び越えた。


 ふむふむ、偉いなこいつら――俺はすっかり上から目線である。

 騎士たちの頭に、崖をブースターで飛び越えるって発想がちゃんとあったことに感心した。マッドの教育か、はたまたブースターの効果についての説明を理解し、きちんと戦術に取り入れたか。


 第二陣のロックゴーレムは、第一陣の倍である一〇体。うち四体は、うちで採用しているガードゴーレムと同型であり、魔法弾を放ってくるタイプだ。


 先ほどと同じように、前衛が突進する。盾を構えながら前衛ゴーレムを相手しようとシュタールが踏み込んだところに、ガードゴーレムが電撃弾を放った。


 威力は弱に落としてあり、直撃したところでシュタールの装甲に傷はつかない。だが突然の投射攻撃を盾に喰らい、足を止めてしまったのが三体ほど。


 支援型シュタールがマジックロッドでファイアボールを生成し、ガードゴーレムを攻撃する。しかし足の止まってしまった前衛のシュタールは、ロックゴーレムのハンマーパンチにさらされることになる。


 一体は僚機のカバーが間に合ったが、二体がゴーレムのパンチを盾に受けて、よろめく。


 じれったいなぁ。外野席から見ていると、そう感じてしまう。実際に戦っている方はそんな余裕もないんだろうけど、何だかな。


 ここでも指揮官であるルインがうまく立ち回り、ゴーレムの前衛を突き崩す。初撃こそバタバタしたものの、僚機のカバーや数の優位を活かして、シュタール部隊は第二陣のゴーレムも全滅させた。


 その後、第三陣こと斜面の向こうの陣地を視認するシュタール部隊。守備隊のゴーレム部隊に対し、支援型機の全力射撃を仕掛けて数を減らしながら、前衛が陣地に一気に突入して、目標を達成した。


 ゴーレムの対応が激甘だったこともあり、シュタール隊に脱落はなし。脱落0の撃墜30と数字だけ見れば大戦果をあげて、演習初陣は終わった。


 相好を崩すエマン王とジャルジーだったが、俺は淡々と軍事顧問に振り返った。


「どう思う?」

「初見の相手なら十分と言ったところでしょうか」


 おや意外に甘い判定。そのわりには、無表情のくせに顔が怖く感じるぜ?


「では経験者としての意見は?」

「まったくお話になりません」


 うん、すっぱり切り捨てた。国王と公爵は笑みを引っ込める。


「ヴィジランティをお貸しいただけるなら、単機でシュタール全機を撃破して見せます」

「……だよなぁ」


 リアナなら、本当に一人で全機撃墜できるだろうな。

 彼女は元の世界にいた頃からロボット兵器を専門としている強化人間である。そのときの実力のほどは俺もすべてを見たわけではないが、少なくとも、こんな素人集団に負けることはないだろう。


「あー、ジンよ」


 エマン王が遠慮がちに口を開いた。


「シュタールはそれほど悪かったのだろうか? 私の目にはそれなりの働きを見せたと思うのだが」

「彼女も言いましたが、初見相手には圧倒できると思います」


 俺はリアナを擁護しつつ、エマン王に向き直った。


「お義父とうさん、今年の武術大会で、マッドハンターの試合を観ていますね? もし彼が魔法甲冑で、今のシュタール隊を相手にしたらどうなると思います?」

「それは……」


 王は押し黙る。代わりに、ジャルジーが口を開いた。


「善戦したとしても半分がマッド一人にやられるだろうな。最悪は、彼ひとりに全滅させられるかもしれない」


 マッドハンターを引き合いに出せば、ジャルジーも両者を比べた結果がどうなるか想像がついたらしい。


「だがそこは経験と機体の差だろう?」

「そう、まだ初陣だからね。これから経験を重ねていけばいいけど」


 俺はリアナへと視線を戻す。


「問題点と改善できる点、レポートにできるか?」

「承知しました」


 リアナは敬礼すると観測席から離れた。俺は小さく笑みを浮かべた。


「まあ、今日は接待日ですから。戦技向上と経験稼ぎを残り二日でみっちりやれば問題ありません」


 そのための演習である。俺の言葉に、エマン王はホッとしたように表情を緩めた。ジャルジーは考え深げにモニターの映像を見つめていた。



  ・  ・  ・



「なんだこれは!?」


 シュタールを操った騎士たちは、演習地そばの仮設食堂でランチをとっていた。ウィリディス側で提供したのはパンとステーキにスープと、騎士様方なら、これといって珍しいものではない。……ないのだが


「この肉、柔らかいのに美味すぎる! 美味いッ! このタレはなんだ、最高か!」

「パンがフカフカ過ぎる! 貴族用じゃないのかこれ!?」


 などと、野外で食べる食事とは思えないという声が騎士たちから上がった。


「遠征だから、こんなレベルの高い食事を用意してもらえたのか?」

「賢者様に感謝だな」


 騎士たちが話していると、エマン王の護衛を務める近衛のひとりが一言。


「ここじゃ普通だよ」

「え……?」


 騎士たちが黙る中、近衛騎士は口もとを歪めた。


「機会があるなら、ここの食堂に来るといい。異国の最高級料理が安く食べられるぞ」

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