第457話、事後処理
青肌のダークエルフによる再度の攻撃はなかった。
エルフの偵察兵のほか、俺のほうでもシェイプシフターによる偵察を行ったが、古代樹の森に、敵勢力の姿は発見できなかった。
エルフの里の復興について、すでに滅びてしまったカラン他、三つの集落は犠牲者の埋葬だけを済ませて、それ以上のことは後回しにされることになった。
戦闘のあったヴィルヤの救助作業が優先されたのだ。彼、彼女らは今、生きているのだから。
破壊された建物、修復や建て直しの問題は、エルフたちが自力で何とかすると言う。まあ、よそ者の手を借りることに抵抗があるエルフの、プライドというものだろう。
また食糧については、精霊宮の備蓄や残っている集落からの支援で、こちらも解決の目処がついた。
一番の問題があるとすれば、やはり失われた結界水晶である。
俺は、カレン女王との会談で、今回の結界崩壊の経緯を聞いた。
「ダークエルフは、エルフの人質の家族を使って、結界水晶を破壊するように命じていたようです」
結界を内部から破壊するよう強制された人たち。同胞を裏切ることを強いられてしまった犠牲者。――それが明るみになったのは、結界水晶を破壊しようとして失敗、取り押さえられたエルフ避難民からの証言からである。
なお、人質となっていたエルフの家族は、敵の手によってすでに処刑されていたことが、壊滅集落の調査の結果判明した。ダークエルフは、はじめから約束を守るつもりはなかったのだ。
「彼らはどうしてそこまで……?」
「古き時代より争い、闇の底へと追いやられた恨みを忘れなかったのでしょう。親から子へ、恨みや憎しみは積み重なっていった……。おそらく闇の森での生活は過酷だったのでしょう。辛さを恨みに変えることで、生きる糧とした――悲しいことですけれど」
それで子孫に恨みをぶつけられるというのも、たまったものではない。
「話がそれてしまいましたね。復興も大事ですが、ヴィルヤの防備も急務。新たな結界水晶を設置しなくてはなりません。ですが、その材料として、上質の大魔石を複数手に入れなくてはいけません」
「大魔石」
つまり、ドラゴンが保有しているような大きく、力の強い魔石が必要ということだ。
だが、そういう魔石は普通に手に入れるのは至難の業と言える。何せ、その規模で発掘されるのは、それこそ上位ドラゴンと遭遇するレベルの確率しかない。また魔獣から手に入れるとしても、討伐困難な相手ばかりときている。
「ですが、必要な数を調達する目処が立ちません。果たしてどれほどの時間と労力がかかるか……。ジン殿、何か大魔石の手がかりになるような情報はございませんでしょうか?」
「大魔石ですか……。材料と言いましたが、結界水晶は作るものなのですか?」
「ええ。古くから伝わるエルフの秘術です。水晶とは言っていますが、実際のところは魔石の塊ですから」
「なるほど。えっと、ヴィルヤの結界水晶が8つで、破壊されたのは5つでしたね? 大魔石はいくつ必要ですか?」
「最低10個。理想を言えば15個です」
カレン女王は俯いた。大魔石15個。上位ドラゴンかそれに匹敵する魔獣を15体ほど。ワイバーンはあの図体で、そこまでのレベルの魔石を持っていないから、いかに集めるのが大変かわかる。
が、それは普通なら、の話である。ウィリディスの古いにしえダンジョンに貯蔵している魔石ならば代用できるだろう。
「それくらいなら、すぐにお渡しできると思います。お譲りしましょう」
「はい!?」
女王陛下がビクリと肩を震わせて驚いた。……あー、そうね。確かに大魔石を即決で渡せるって、ちょっとした国家レベルの申し出かもしれない。
数百年の間に積もった塵、もとい魔力で出来た大量の魔石――俺は使わせてもらっている立場であるが、いにしえの魔術師としたら、身を守るための使い方ならばむしろ許してくれるのではないだろうか?
「何から何まで……。ジン殿、いえ、ジン様のご助成、エルフの民を代表してお礼申し上げます」
深々と頭を下げられてしまった。何故か『様』呼びになっているし。
美しきエルフ女王にそうまでされてしまうと、こちらが恐縮してしまう。久しぶりにこっ恥ずかしい。お礼なら、いにしえの魔術師に、なのだが、説明がややこしくなるので省略。
「このご恩は必ず。皆さんの働きに見合う報酬と代価をお渡しすることを約束します」
「あー、ええ。里の財政が傾かない程度でしたら」
どうせ断っても、カレン様の性格では無駄だろう。それにエルフのプライド上、素直に受け取るのが失礼がない。
あ、それよりも――これがいいな。
「陛下、魔石を提供する代わりと言ってはなんですが、報酬と代価に、結界水晶の製法をお教えいただけないでしょうか?」
・ ・ ・
一方、俺が女王と面談しているあいだ、ウィリディス勢で空中都市の瓦礫の撤去、遺体の回収、不明者の捜索が行われた。
といっても、主にゴーレムとシェイプシフターがメインだが。その中でも行方不明者探しは、シェイプシフターが活躍した。
犬並みの嗅覚、生き物の熱を感知する目など、さまざまな生き物の能力を変化で用いながら生存者を発見、救助していった。そのあまりの迅速ぶりに、同じく作業をしていたエルフたちを驚かせたと言う。
会談を終えて、現場へと向かった俺は、ユナからそれらSS兵の働きを聞いた。
シェイプシフターたちは力もあるし、災害救助にもってこいかもしれない。ただこの発見能力を追跡などに用いられたら、振り切るのは難しいかもしれないとも思う。
「そういえば結局、俺、クリスタルイーターを見ずに終わったな」
「死骸ならありますよ、お師匠」
城下町で結界水晶を守護するエルフたちと、イーターを迎え撃ったユナである。
「見に行きますか?」
そういうことなら、と俺は了承した。興味もあったしな。
現物は体長5メートルほど。外皮は白いが、普通に馬鹿でかいワームだった。が、討伐したやつだからか、やたらボロボロで血と思われる体液が流れ出た跡だらけだったが。
「派手にやったな……」
「ワームにしては外皮が硬かったんですよ」
ユナは淡々とした調子で言った。
「生半可な攻撃は弾かれてしまいます」
「そうか。……ちなみに、こいつは何か素材になるか?」
「耐熱効果の高い丈夫な外皮、岩をも砕く歯。……それと体内に魔石や宝石が出てくることがあります」
「未消化なだけじゃないかそれ」
うへぇ。欲しければ、ワームの胃を漁れってことか。
「ちなみに、エルフたちは? これの取り分について何か言っていたか?」
冒険者の考え方からすると、倒した者がその魔獣素材の権利を有するという常識がある。だがここはエルフの領地である。倒したのもエルフさんなら、向こうが権利を主張することもあるだろう。
「聞いた限りでは好きにしていいそうです。……どうも、エルフとしては、ワームの腹を捌いてまで宝石や魔石が欲しくはないみたいです」
「素手でやれって言われたら、俺だって嫌だよ」
溶けてしまうかもしれないからね。
「ま、あちらさんが好きにしていいってんなら、こちらで回収しておこう。どの道、死骸は処分しないといけないわけだし」
放置しておくと病原菌の温床になるからな。同様にエルフの死体は埋葬。ダークエルフもまた同様に処理しなくてはならない。
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