第452話、グリフォン VS トルネード航空団
第二遊撃隊が飛来した高速の槍に貫かれ爆散した――空中都市より一時離脱した第一遊撃隊のグリフォンライダーたちはそう思った。
そんな彼らの前に現れたのは、これまで見たことのない飛行物体。翼を持った鉄、いや金属の塊が空を飛んでいる!
「なんだあれは!?」
グリフォンは危険度Cに当たる空の魔獣だ。その飛行速度からは地上のあらゆる生き物が逃れられない。
だが、突如現れたそれは、あっという間にグリフォンに接近すると強力な電撃弾を放ってきた。
「は、速いっ……!?」
すれ違った時には翼をもぎ取られ、胴に穴を開けられたグリフォンが石つぶてのように落下する。
見たこともない金属の鳥に、ライダーのみならずグリフォンも動揺した。悲鳴を上げる個体をなだめるライダーがいる。
「散開! 散開しろっ!」
兵を降ろした第一遊撃隊はともかく、いまだ兵を乗せたままの第二遊撃隊のグリフォンは、派手な回避機動もできず、またたく間に餌食となっていく。ワイバーンだって撃ってはこないというのに!
空の魔物。
ダークエルフたちは新たな脅威に慄く。
一方、空中都市にいたクルータンは、第二集団が入ってこないことを訝しんでいた。
「なんで、連中がやってこないんだ!?」
すでにエルフの守備隊と戦っているのだ。城下町に守備隊の多くを持っていかれてエルフの守りは手薄である。第二遊撃隊の歩兵が加われば、ここを圧倒できる。
苛立ちを隠せないクルータンのもとに、グリフォンライダーが報告に来る。
「申し上げますっ! 敵襲にて第二遊撃隊、壊滅!」
「なにっ!?」
第二遊撃隊がやられた? こちとらグリフォンなんだぞ。敵襲とは、いったい何にやられたというのか。
怒鳴りたい衝動にかられたその時、兵の一人が叫んだ。
「何か飛び込んできたぞ!?」
枝葉のドーム、その南側の空洞よりそれが飛び込んできた。
奇妙な物体だった。ドームを旋回するように飛ぶその姿は三角形で構成されている。当然ながら、これまで見たことがない不思議な、いや異質な飛行物体だった。
それらはゆっくり速度を落としながらぐるりとドーム内を旋回すると、地上の兵を掩護すべく滞空しているグリフォンに電撃弾を浴びせ始めた。
「畜生! あいつはいったい何なんだ!?」
クルータンの叫びは届かない。謎の飛行物体はヴィルヤ上空のグリフォンライダーを追い回し、掃討を開始した。
・ ・ ・
世界樹外のグリフォンはウェントゥス軍航空隊こと、トルネード航空団の戦闘機隊に圧倒されていた。
逃げまとうグリフォン。それを操るダークエルフは魔法の心得があるのか、火の玉を放ってきたが、後ろについた俺のトロヴァオンには、かすりもしない。
「そもそも、前を向いた格好から振り返ってもだな――」
俺は固定兵装であるプラズマ砲の照準、その十字線に、グリフォンの姿を捉える。
「当たるわけがない!」
操縦桿のボタンを押し込む。トロヴァオンのプラズマ砲が目標を貫いた。
昔の爆撃機や攻撃機には、後ろについた敵機を追い払うために旋回機銃が搭載されていた。だが、それらの命中率は酷いものだったという。
パイロットが回避すべく動き回れば、銃座を担当する機銃手もそれに振り回されて狙いをつけ難い。かといって真っ直ぐ飛んで狙いやすくすると、その前に敵の銃弾が飛んできてやられてしまう率が高いからだ。
それで当たらないのに、グリフォンを操りながら後ろの敵を狙うなんて、死角が多すぎて狙いをつけるどころではないだろう。
しかし――
『グリフォンが遅すぎて、追い抜いちゃった!』
通信機からアーリィーの声を拾った。追尾していた敵機を追い越す――いわゆるオーバーシュートというやつだ。
「アーリィー、そのまま加速して離脱! グリフォンに無理に格闘戦を挑まなくていい」
こちらの戦闘機に比べて、グリフォンの速度は遅い。だがその分、小回りが利く。
下手にその速度に付き合えば、重量があるこちらが空中での運動力を失い、失速からの墜落もありうる。
「マルカス、アーリィーのカバー!」
『トロヴァオン3、了解! ……と、2が追い越した敵を排除!』
さすがだ。俺が言うまでもなく、すでに二番機の掩護位置についていたらしい。
「ナイスワークだ、3」
『トロヴァオン・リーダー、こちら4』
リアナの声。トロヴァオン四番機だ。
『敵グリフォンが古代樹の間へ逃げつつあり。……追いますか?』
うーん、敵さんも中々やるな――俺はその感想を舌の上で転がした。
こっちは図体もでかいし重い。いくら古代樹が大きくて、木と木の間の幅が広いとはいえ、グリフォンほど機敏には追えない。
「いや、森の上から、AAMで対処する。森に入って自滅するのも馬鹿らしい」
俺は愛機を上昇させる。
「トロヴァオン・リーダーよりファルケ・リーダー。状況を知らせろ」
『こちら、ファルケ・リーダー。ヴィルヤ上空のグリフォンは排除しつつあり』
無人機であるファルケ隊は、空中戦の難しい枝葉のドーム内に飛び込んで中の敵への攻撃を命じてあった。
『現在、都市にてエルフ守備隊が敵性エルフと交戦中。……ですが劣勢の模様』
「了解した。俺もそちらへ行く」
空はほぼ制圧。残るは地上に降りた敵か。地上と言えば――
「ユナ、聞こえるか? 城下町はどうなっている?」
『お師匠、こちらは青色エルフの部隊と交戦中です』
通信機から聞こえるユナの声は、いつものとおりだった。動揺は感じられないから、どうやら今すぐ助けがいるようではなさそうである。
『城下町のクリスタル・イーターはほぼ掃討しましたが、エルフの守備隊はほぼ壊滅です。こちらは城下町の端に立て篭もっていますが、攻撃は散発的です。どうやら敵の主力は上層へ向かったようです』
主力は空中都市へ向かったか。なら、主戦場は上層になるか。
「移動はできるか?」
『エルフの負傷者を抱えているので、彼らを放置するなら可能ですが……』
「いや、さすがに怪我人を見捨てるのはよろしくないな。……掩護は必要か?」
『回復薬が底をつきました。それ以外は特に』
「了解した。支援が必要なら呼んでくれ。トロヴァオン、アウト」
俺は一端、世界樹のてっぺんを飛び越える。開いた南側の大穴めがけて右旋回して機体を正面に向けると、速度を緩めて枝葉のドームに突っ込んだ。
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