第450話、ヴィルヤ交戦中
ポータルを経由してウェントゥス地下基地に俺たちは到着した。
格納庫に駆け込み、魔法装甲車デゼルトを降りる。施設を管理するコアに命じて、戦闘準備を発令させる。
ダークエルフの動きが早過ぎた。
「出動ですか?」
パイロットスーツ姿のリアナ、そしてサヴァル・ディファルガが待機していた。こちらからの通報で、準備していたのだろう。
「目的地はエルフの里だ。相手はグリフォンだぞ」
「了解」
リアナは無表情に頷くと、元殺し屋サヴァルはヘルメットを手に苦笑した。
「グリフォンが敵か。やれやれ……」
俺は格納庫脇の更衣室で手早く操縦服に着替え、ヘルメットを取ると格納庫へと戻る。すでに臨戦態勢にあった各戦闘機、戦闘ヘリ部隊は装備の積み込みを終えていた。
俺が愛機のコクピットに飛び乗った時、すでにエンジンはアイドリング状態。ナビは機体の最終チェックを済ませていた。ランプはオールグリーン、異常なし。
二番機のアーリィー、三番機のマルカスも準備よしの返事。
「こちらトロヴァオン・リーダー。サフィロ、行ってくる」
『マスターの帰還をお待ちします』
浮遊装置でトロヴァオンの機体が浮かび上がる。そのまま航空機としては這うような速度で格納庫内を移動。明るい日差しが降り注ぐ外へ出ると、エンジンを噴かして愛機を飛び上がらせる。
後方を確認すれば、アーリィー、マルカスのトロヴァオン、さらにリアナの四番機以降も後続する。
ベルさんも、ブラックカラーの改造トロヴァオンで随伴する。さらにドラケンやファルケ戦闘機も、トロヴァオン編隊に続いた。
「トロヴァオン・リーダーより、ワスプ・リーダー」
『こちらワスプ・リーダー。トロヴァオン・リーダー、どうぞ』
通信機より、ワスプ・リーダー――SSパイロットのヒンメル君の声が返ってきた。
「こちらはポータルを経由して、ヴィルヤに直進する。君たちも続いてくれ」
『了解、トロヴァオン・リーダー。こちらも可能な限りの速度で後続します』
TH-1ワスプ戦闘ヘリ6機からなるワスプ中隊は、速度で戦闘機には叶わない。同時に飛び立てば、どうしても遅れてしまう。
「それまでにグリフォンは掃除しておくよ。……トロヴァオン・リーダーより各戦闘機隊、ポータルへ突入する! 続け!」
古代樹の森の外で作ったポータルは二つ。ひとつはデゼルトでの帰還用。これは消去済み。もうひとつは、戦闘機通過用に空中に展開した大ポータル。その青い魔法リングの上を、トロヴァオンを先頭にした戦闘機17機が旋回。
緩やかに降下しながら、ポータルを正面に捉えると、俺はフルスロットルで愛機を飛び込ませた。
・ ・ ・
殺す! 殺す! 殺す! ダークエルフ、殺す!
ヴィスタはその美麗な顔立ちを歪め、魔法弓ギル・ク改を手に駆けていた。
故郷を滅ぼされ、家族を惨殺された。
失意が胸の奥を焦がし、周囲の言葉も何もかもが遠い世界のように感じた。ひたすらダークエルフへの怒りを滾らせていた。
そして復仇の機会はやってきた。ダークエルフが、ヴィルヤに攻めてきたのだ。
ヴィスタは魔法弓を手に取った。
迷うことはない。ただ愛した家族の仇を討つため、彼女は城下町へ下りた。……幸か不幸か、空中都市にいたことで彼女は、ダークエルフの奇襲攻撃から逃れることができた。
もし彼女が城下町にいたなら、おそらく敵と聞いて城壁に上がり、そこで敵特殊兵の魔法によってなぎ倒されていたかもしれない。
城下町の破壊が進んでいた。クリスタルイーターとエルフ兵の戦闘。そこにダークエルフ軍が乱入する形だ。
イーターは眼中になかった。エルフ兵が各所で殺されていく中、ヴィスタは視界に入るダークエルフを次々に狙撃した。
電撃矢で、敵兵の脳天を穿ち、同胞を囲んで切り刻んでいるダークエルフ兵どもに拡散矢を浴びせて屍にしていく。
本来、魔法弓を扱う者は、後方からの射撃がメインとなるが、ヴィスタはかまわず前線へと突き進んだ。
それは金髪の鬼もかくやの形相。怒りと憎しみに突き動かされた
彼女が通った後には、青エルフ兵どもの死骸しかない。
駆け回り、敵と見れば撃つ。魔法弓は魔力が矢だ。魔力が尽きない限り、矢がなくなることはない。
「囲め!」
ダークエルフ戦士らが、ヴィスタの矢に倒れながらも数で押す。彼女も走ってきているので、あっという間に近接戦の距離になる。
弓と近接武器、どちらが有利かなど明らかだが、そこはジンの作った魔法弓改である。
オーブカートリッジが動き、電撃から炎へ。たちまちギル・ク改は、炎竜さながら炎を噴き、接近したダークエルフたちを燃え上がらせる。
「地獄へ落ちろ、ダークエルフ!」
炎に巻かれてのたうつダークエルフに、至近距離から魔法矢を撃ちこんでトドメを刺す。
星降らす乙女と謳われたエルフ冒険者は、その名が定着する前に一時期言われた青い鬼神、それに違わぬ力で戦場をかき回し続けた。
・ ・ ・
「ユナ教官、さすがにこれはいけませんわ!」
サキリスはSSランスを、迫るダークエルフ兵に向ける。穂先が開き、青い電光が駆け抜けると、たちまち近づいていた三人の敵兵が感電し煙を上げて倒れた。
「おっと……!」
背中の翼を羽ばたかせて急上昇。クロスボウの矢が靴先をかすめた。
だがそこへSS兵が魔法銃ライトニングバレットを構え、トリガーを引いた。光弾が放たれ、ダークエルフの鎧を貫通、射殺する。
この武器は、全長はおよそ730ミリ(73センチ)。ユナやサキリスは知らないが、ジンのいた世界にあった米軍のM4A1カービン銃より若干小さくまとめてあるそれは、市街戦でも比較的取り回しに優れる。
半壊したエルフの民家を盾に、SS兵たちがライトニングバレッドで、迫るダークエルフ兵を狙い撃つ。弾速の速い光弾を連続して撃ち込まれ、迂闊に飛び出した敵兵がたちまち打ち倒され、後続は同じく民家の影に引っ込まざるを得なくなる。
それをユナは見逃さなかった。
「エクスプロージョン!」
遮蔽で身動きできなくなった敵兵たちを、まとめて爆発魔法で吹き飛ばす。
『正面、新手の敵集団!』
SS兵の報告。ユナは振り返ることなく声を発する。
「深紅」
『了解』
紅蓮の装甲を持つバトルゴーレムが、新たな敵集団に四門の高出力魔砲の砲口を向けると光の束を発射。凄まじい熱に盾や甲冑ごと分断されたダークエルフたちは肉片へと姿を変える。
今は押さえている。だがこれ以上はどうか――ユナは内心の不安を押し殺す。
サキリスが先にも言ったが、城下町で抵抗しているエルフ兵はもはやほとんど残っていない。街の端で崩れた建物を盾に臨時の防衛線を引いているが、正直、自分たちの身を守るので手一杯である。
「ほんとう、よろしくないわね」
ユナは呟くのだった。
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