第432話、超巨大飛竜、墜つ


 ウェントゥス軍の戦闘機搭載のミサイルは、ワイバーンを撃破するに充分な威力を発揮した。


 だが、超巨大飛竜、フォルミードーは、トータル40発以上のミサイルを食らっても、墜落することなく飛び続けていた。


 航空機搭載レベルのミサイルじゃ、威力不足ってことだ。


 やれやれ。今のでドラケン戦闘機は、ミサイル切れ。トロヴァオン5機が積んでいる分しか残っていない。……まあ、現状、持っていても通用しないんだけど。


 こりゃ、極大魔法をぶつけるしかないか?


 さすがのフォルミードーでも、バニシング・レイの直撃には耐えられないだろう。

 だが問題は、あいつが飛行して移動していること。いくら的がでかいとはいえ、動いている標的が相手だと、確実性に欠ける。


 狙って撃てばいいんだが、外した、あるいは照射時間不充分で倒せなかった時は痛い。


 そこで、ナビが警告音を発した。


 新たなワイバーンの反応が30ほど。第四群のお出ましか。この忙しい時に。


『主よ、待たせたな』


 通信機ごしに、ディーシーの声がした。


『ウェントゥス航空艦隊、到着だ』



  ・  ・  ・



 カプリコーン軍港より、飛来したディアマンテ級巡洋戦艦率いる航空艦隊が、ズィーゲンの空に到着した。


 空母『ドーントレス』より、リアナ率いるトロヴァオン、ドラケン、ファルケ戦闘機中隊が発艦。


 さらに旗艦『ディアマンテ』ほか、戦闘艦がその主砲を旋回させた。


「目標、フォルミードー! 全艦、射撃開始!」


 旗艦コア、ディアマンテの号令に合わせて、巡洋戦艦が35.6センチプラズマカノンを発砲。


 重巡『シュテルケ』、航空巡洋艦『ディフェンダー』ほか、各艦艇も主砲を撃ち込む。青い光の束は、超巨大飛翔生物に直撃し、その外皮を焼く。



  ・  ・  ・



 ウェントゥス艦隊のプラズマ弾は、フォルミードーの体に突き刺さった。


 だが外皮を貫いたのは、ディアマンテ級の砲撃のみで、それ以外の艦は表面を焼いて、うっすらと煙を立ち上らせる程度のようだった。


「なんて硬い装甲だよ……」


 一応『ディアマンテ』の一撃は、痛かったようでフォルミードーが悲鳴のような声を上げた。嫌がってコースを変更したようだが、まだ飛んでやがる。


 そこへ、俺たちが散々傷つけてやった右の翼を、『ディアマンテ』のプラズマ弾が直撃した。


 潰れたようにフォルミードーの声は、キャノビーごしにも悲痛の色を帯びていた。そしてそれが翼を支えていた骨を砕いたらしく、ふらっとフォルミードーが傾いた。


 すると揚力を保てず、たちまち、その巨体を急激に落下させる。そしてあっという間に地面に激突した。


 派手に大地が揺れ、土煙が上がる。滑るように地表を削り、その身をめり込ませながら、超巨大飛竜の身体はやがて止まった。……うわぁ、痛そう。


 咆哮が木霊する。まだ生きてやがるなぁ。


 ベルさんの声が通信機に響く。


『どうする、ジン? 奴さん、まだくたばってねえみたいだぜ』

「ああ、巨体に見合う、タフな奴だな」


 まだ愛機のトロヴァオンにはミサイル兵装が半分残っているとはいえ、ディアマンテ級の砲撃でようやく傷つけた相手だ。こいつは、飛来中のワイバーン第四群に使おう。


「トロヴァオン・リーダーより、各機。ドーントレス隊と合流し、敵ワイバーンを迎撃せよ。……フォルミードーの介錯は俺がやる」

『どうするの?』


 アーリィーが不安げに言ったが、俺は首を横に振る。まあ、誰も見ていないんだけどね。


「もうミサイルは、必要ないからな」


 このままディアマンテに頼んで、もう飛べないフォルミードーに艦砲射撃を見舞ってもらってもいいが、一体何発、何十発を撃ち込まないといけないかわからない。いたずらに苦痛を長引かせるのは、趣味じゃないんだ。


 俺は単機で緩やかに機体を降下させる。地面でのたうち、恨みがましい絶叫を響かせるフォルミードーへと近づく。


「地上に落ちてしまえば、戦闘機ではなくてもいいわけだからな」


 と、フォルミードーが近づく俺に気づいた。その口を開き、口の中が燃え上がる。


「ブレスか!」


 俺は操縦桿を倒して旋回。やや遅れてフォルミードーの放った熱線が暴れまわる。


「まだまだ元気だな……!」


 ディアマンテに艦砲射撃を任せたら、この熱線の反撃を食らってしまうかもしないな。後始末を任せなくてよかった。


 俺はトロヴァオンで、フォルミードーの後ろへ回り込む。首を捻っても届かない位置について速度を落とす。


 浮遊魔法での空中静止。キャノピーを開けると、生温かな風が吹き込んだ。俺はシートベルトをはずし、ストレージからルプトゥラの杖を取り出すと、その先端を超巨大飛竜に向けた。


 膨大な光が杖の先に収束する。


「飛べない飛竜など、ただの的だ。恨むなら、お前さんを操った大帝国を恨め」


 光の掃射魔法バニシング・レイ。


 絶対に外しようのない光がフォルミードーに炸裂した。



  ・  ・  ・



 リアナ・フォスター率いるドーントレス航空隊と共同し、ワイバーン第四群は撃滅された。


 さすが異世界軍人のリアナ。彼女の操縦技量は凄まじく、傍目から見ても他のパイロットたちと動きが違う。正面からでも、通り魔よろしくワイバーンを仕留め、側面や後ろにつかれても、あっさりとその背後に回り込み、撃墜。


 手品でも見ているかと思った。


 ともあれ、ヴェリラルド王国北方領域へ侵入を図ろうとしたワイバーン集団と超巨大飛竜フォルミードーは、俺たちウェントゥス軍により、広大なズィーゲン平原の端ですべて撃墜された。

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