第430話、エンゲージ
ワイバーンの群れ。以前、シュトルヒ戦闘機に乗ってワイバーン・ネストを叩いたことがあるから、懐かしく感じた。
もっとも、そんなのんびり感傷に浸ってもいられないのだが。
全長10メートルを軽く越え、幅に関しても二十メートルはあるだろう空トカゲどもは、三つのグループに分かれて南下しつつある。
目標第一群16頭、第二群は14頭、最後尾の第三群は20頭。
まず先頭の第一群を狙う。俺たちとあちらさんは、正面から突き進んでいるので、いずれは衝突する。
本来、戦闘機同士では正面から撃ち合うな、という鉄則があるが、相手は戦闘機ではないのでさほど気にしない。ワイバーンは正面に撃つ飛び道具を持っていないからな!
各機、
ナビがワイバーンのロックオンを報せる。戦術リンクで繋がったナビが味方機のロックオンが完了したことを伝える。以前は、こんな便利な武器はなかったからな。
「全機、ミサイル発射!」
俺は操縦桿についているミサイル発射ボタンを親指で押した。トロヴァオンの右ウイングに搭載している誘導弾が一発切り離され、次の瞬間、噴射炎と煙を引きながら飛翔した。
16機の戦闘機から発射された16発のミサイルは、ワイバーン第一群へと迫る。緊張の一瞬。正面から飛来するミサイルに反応して飛竜が急回避を試みるか……?
そのワイバーンどもが頭をずらした。続いて身体の方向を変える。猛スピードで突進してくる飛翔体に気づいたのだ。このままでは衝突することを察し、回避機動を取るが、もう遅い!
横を向いたことで、頭ではなく胴体に命中したミサイルが、その体内で爆発する。直撃を受けた飛竜が哀れにも空中で四散し、または翼を吹き飛ばされて錐揉みしながら落ちていく。
8、9……10――16! ミサイルは全弾が飛竜の身体に直撃か、その至近で爆発した。約半分の個体が粉々になり、残りは身体や翼の一部を失い墜落する。
即死しなかった奴がいるな……。落下してそのまま激突死するのもいるだろうが、生き残る奴がいるかもしれないな。
が、いまは飛んでる奴だ。一挙に16頭が血祭りに上げられたことで、他の飛竜たちの動きが慌しくなった。
「トロヴァオン・リーダーより、各隊へ。攻撃目標、敵第二群。まずはそいつらを叩いて、その後に第三群をやる!」
『了解、トロヴァオン・リーダー』
16機の戦闘機は続く、第二群に狙いを定める。飛竜たちもこちらに正対して対決の姿勢を見せる。さすが獰猛なる空の魔物。あの程度ではビビらないか。
「各機、ミサイル第二弾用意。ナビ、ターゲットへのロック!」
『了解』
ナビが再びロックオンの行程に入る。戦術リンクも行い、味方機と標的が被らないようにする。
残弾を考えれば、ファルケには撃たせないほうがいいか? ファルケ戦闘機は小型機ゆえ、ミサイルを3発までしか積めない。一方で、トロヴァオンは翼に計6発、胴体内ウェポンベイに4発の合計十発を搭載している。
グングン距離が近づく。お互いに向かい合っているので、接近するのも早い。あまり近づき過ぎると、ミサイルが命中コースに乗る前にすれ違ってしまう可能性も出てくる。モタモタできない。まだ第三群もいるしな。
ロックオン。ミサイル、発射!
俺に続き、アーリィー、マルカス機もミサイルを放った。直進するワイバーンは正面からミサイルを喰らい、頭を貫かれて爆散する。
3、4頭と俺たちのもとに到達することなく煙を引き、血しぶきを巻いて落下していく。集団の後ろのほうにいたワイバーンが逃げようとしたが、避けきれず撃破される。
が、2頭がからくもミサイルの直撃をかわすことに成功したようだ。
すでに双方、目と鼻の距離にまで近づいていた。ミサイルは近すぎてロックしても当たらない率が高い。
「このまま真っ直ぐ突っ切る! 続け!」
俺は通信機で呼びかける。トロヴァオン、ドラケン、ファルケは全速力でワイバーンのあいだを突き進む。至近を飛竜の翼がかすめたように見えたが、実際はそこまでギリギリではない。
マルカスからの魔力通信が俺の耳朶に響く。
『後ろに回りこまれるぞ! 旋回しないのか!?』
「わざわざ格闘戦に応じてやる必要はないぞ! 振り切れ!」
俺は咆える。『しかし……!』というマルカスに、俺は続けた。
「俺たちは騎兵だと思え。一撃離脱だ!」
トロヴァオンは、空中格闘戦もこなせる戦闘機だが、小回りは生物であるワイバーンのほうが上手だ。
一方で、スピードはワイバーンを軽く凌駕している。旋回しての格闘戦を挑むより、一撃離脱に徹したほうが、はるかに楽だ。
だが杞憂だった。シェイプシフターパイロットの乗るファルケがプラズマ弾を浴びせて、残るワイバーンを撃墜したのだ。
「グッジョブ、ファルケ3、ファルケ4」
さてさて、追って来るワイバーンは……。
第三群が突っ込んでくる。ミサイルロック――しかしファルケのミサイルは残り少ないので温存。12機でミサイル先制。残り8!
「突撃!」
距離が近づいたので、近接戦闘に突入する。
俺は目の前のワイバーンにプラズマ弾を矢継ぎ早に撃ち込む。シュトルヒの時のサンダーカノンとは比べ物にならない威力。ブスブスと貫いて、ワイバーンを撃墜!
ファルケ、そしてドラケンもその身軽さで敵を翻弄。次々に叩き落としていく。
一撃離脱をしていた俺たちトロヴァオン小隊は反転、戦場へ引き返す。追尾を諦めたらしい2頭のワイバーンが右往左往している。
「トロヴァオン2、3。あいつらを仕留める。俺がカバーする」
やってみせろとばかりに僚機に割り振る。アーリィー、そしてマルカスのトロヴァオンがワイバーンの側面から後方へととりつくと、搭載されたプラズマ砲が火を噴いた。
だがワイバーンもまた危険を感じて振り切ろうとスピードを上げた。初弾はかすめただけで外れた。追い越してしまう前に連続攻撃を――俺が見守る中、二人はそれぞれのワイバーンに再度の攻撃をかけ……。
アーリィー機が、ワイバーンの翼の付け根を撃ち抜いた。バランスを崩して落下していく飛竜。片翼を失っては復帰は不可能、そのまま地面に叩きつけられ絶命した。
「ナイスショット、アーリィー!」
さて、マルカスは……こちらもワイバーンを撃ち落とした。だが速度が落ちている。あいつ、追い越さないようにスピードを落としやがったな。
「グッド・キルだ、マルカス。だがあまり減速をかけるな。他に敵がいたら狙われるぞ」
『ああ、すまない。しかし、追い越してしまうところだったんだ。仕留め損なってしまう』
「そういう時のためにカバーがついてるんだよ。空中で速度を失うことは自滅するものだと思え」
近くに他の飛竜がいなくてよかったな、ほんと。
敵第三群は全滅した。ベルさんもしっかりキルしていた。さすがだ。
だが安堵する間もなく、通信機が音を立てた。
『トロヴァオン・リーダー。こちらホーク7。南下する巨大飛行体を発見。大きさから推定、フォルミードーの可能性大』
いよいよ来たな、本命が。
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