第427話、ベース・レイド


 魔石式誘導弾発射機……。要するにミサイルランチャーであるが、それはあくまで地上の歩兵が使う武器だ。戦闘機に搭載するミサイルは、サイズも飛翔距離も異なる。


 ジャルジーから、彼の領地内に拠点を作っていいと了承を得た。協議の結果、拠点はズィーゲン平原の一角に建てる運びとなった。大帝国の差し金で蟻亜人20万が押し寄せたあの広大な平原である。


 何故その場所かといえば、ケーニゲン領で一番北にあること。人がいない上に、とくに何もないところだからだ。


 何せこっちは戦闘機を使うのでね。いずれ目撃者は避けられないだろうが、できるだけ気づかれにくくする配慮は必要である。


 さて、拠点作りだが、第一は戦闘機部隊の駐機場である。


 いちいちウィリディスからケーニゲン領まで移動するのは、時間が掛かりすぎるし、航続距離が長くないファルケやドラケンではその後の空中戦をこなすのは無理がある。そもそも迎撃に間に合わない。


 そんなわけで、俺はズィーゲン平原を飛んでみて、適当な場所を定めると地上に降りて拠点建築を開始した。


 さあ、ディーシーさん、出番ですよ!


「まずは整地だな」


 ダンジョンではないせいか、ちょっと億劫そうなディーシーである。


 さっそく作業開始。ほぼ平らな場所ではある。素材生成でコンクリートを設定。一辺の長さが300メートルほど、正方形になるように敷き詰める。この敷地内が拠点としての建物を置いたり、航空機用の駐機場となる。


 飛行基地としては狭すぎるが滑走路は必要ない。人員に関しても、俺たち数人を除けばシェイプシフター兵だから、生活空間もさほど広くとることもないのだ。ポータルでウィリディスと繋げば、補給線も繋がって移動もすぐだし。


 さて敷地を確保したら、今度は四方を壁で取り囲む。高さは6メートルほど。拠点の外から戦闘機が見えないようにする高さであり、万が一、地上で戦闘になった場合、射撃武器で狙い撃てる高さとなっている。


 もっとも、壁の外側には擬装魔法によるカモフラージュが行われるため、遠くからではそこに壁があることがわからないようにする。


 おっ、ちょっとディーシーが楽しそうな顔になってきた。ダンジョンコアの性か、物作りは楽しいのだ。


 四方に壁。角となる四箇所は出入り口として開けてある。門はないが機関銃の銃座とSS兵の待機所を設置して外敵の侵入を防ぐ。でもやっぱり簡素でもゲートはいるかなー。ちょっと考え中。


 拠点中央には見張り塔と、簡易な作戦指揮や打ち合わせができる司令室。休憩所や簡単な炊事室を作る。人間は最少とはいえ、生活できるようにしておく必要はある。いくらポータルがあるとはいえ、トイレのたびに行き来するのも面倒だしな。


 ポータル経由でコンロや冷蔵庫、食器や折りたたみの家具などを持ち込む。SS兵たちは黙々とお引越しのような移動作業を行い、生活用品に加え、武器や戦闘機用装備、工具、資材を運び込んだ。


 大型ポータルをウィリディスの地下格納庫につなぎ、戦闘機を拠点へと移動させる。浮遊魔法で浮いた戦闘機がポータルから出現する様は、なかなか壮観だ。


 かくてズィーゲン平原の一角に、半日足らずで航空拠点が出来上がった。


 拠点名は『奇襲』。ベース・レイドと命名した。



  ・  ・  ・



 ベース・レイドとウィリディス屋敷、ポータルを通じて、通信機用のケーブルを引く。


 こういうの、ファンタジーじゃないよな。この世界の大昔には、元の世界以上の科学文明があったんだ。


 さて通信ケーブルだが、実際に双方にケーブルを引こうとしたら、とてもじゃないが距離があり過ぎて大変な作業となっていただろう。ポータル様々。なお、ポータルを解除した場合、ケーブルも断線する模様。


 ジャルジーのクロディス城にも、ポータルと通信機を設置した。ケーブルは引かない。いわゆる無線式――というか魔力念話がそもそも無線みたいなものなのだが。そういう念話ができない人のための機械である。


 クロディスからベース・レイドまでは通信機の念話は届くが、クロディスからウィリディスには届かない。いわゆる交信距離というやつだ。


 だが、ベース・レイドを中継基地とすれば、クロディス城とウィリディス屋敷で交信が可能となる。もちろん、ポータルを経由しての話だ。距離的にはむしろ遠くなっているから。


 連絡網の形成。何か連絡事項や非常事態があれば、すぐに報せられるシステムを構築した後は、対飛竜警戒網の形成である。


 ベース・レイドを拠点に航空隊を置いたが、ヴェリラルド王国北方に侵入する飛竜を迅速に迎撃するためには、早期発見、即応態勢を整えておく必要があるのだ。


 ベース・レイド司令部建物、プレハブ小屋じみた簡素な建物の前に、俺はいた。そばには黒猫姿のベルさんと、ユナ、シェイプシフターのスフェラ、拠点を管理するコピーコア『レイド』がいる。


「索敵は、観測ポッドに加えて、シェイプシフターも使う」


 俺はスフェラに頷いて見せた。


「複数の監視システムを置くことで、より万全になる」


 シェイプシフターには、それとわかりにくいように小動物や飛行できる鷹などの姿をとる。


「鷹?」


 ベルさんが首をブンブンと振った。


「オイラには鷹とは別の生き物に見えるぜ。なあ、ユナ公?」

「そうですね」


 魔女帽子を被った巨乳魔術師は、不思議なものを見る目で、鷹と言われたSSを眺める。


 その額には魔石が埋め込まれていた。また首まわりにも、小さな魔石付きリングをつけている。


「額のは魔力波動を放射して、索敵するための魔石だよ」


 一部の魔獣が備えている力であり、魔術師も索敵の魔法として習得する。ベルさんも使えるが、いわゆるレーダーみたいなものだ。


 シェイプシフターたちは魔法関係が不得意だから、簡易な魔法具で補う。


「目視に加え、魔力波動で飛竜の侵入を監視してもらう」


 索敵範囲が広がれば、より敵を発見しやすくなるのだ。


「で、首のリングは――」

「携帯用魔力通信機です。私がお師匠の指示で作りました」


 ユナが言ったので、俺は頷いた。


「そういうことだ。せっかく見つけても、通報できなければ意味がないからね」


 索敵と通信手段を持つシェイプシフター。スカウト・ホーク――偵察鷹だ。


「これを北方に展開させ、観測ポッドと連動して飛竜の侵入を発見次第、このベース・レイドから戦闘機を出して迎撃する。これが基本だな」


 今のところ、ベース・レイドには、TF-1ファルケが4機、TF-2ドラケンが3機、TF-3トロヴァオンが3機の計10機が配備されている。


 ウェントゥスの地下工場では順次、戦闘機の生産が行われているが、とりあえず、こちらに配備したのはそれだけだ。必要とあれば増強する。


 秋に向けて飛竜が活発化するとあって、こちらの戦闘機がまったく損害なく切り抜けられる保障はないし、大帝国への備えもあるしな。


 ちなみに、戦闘機の他に緊急輸送の事案が発生した際に備えて、TH-1ワスプ戦闘ヘリコプターも3機配備されている。


 スカウト・ホークがベース・レイドを飛び立つ。一見すれば鷹にしか見えないそれらが、ケーニゲン領や北方を見張り、脅威に備えるための目となる。


「あとは、空トカゲどもがやってくるのを待つだけか?」


 ベルさんが小さくなっていくスカウト・ホークを見送る。俺は「いや」と口を開く。


「やることはあるぞ」

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