第426話、新兵器のお披露目


 ワイバーン対策を俺から聞いたジャルジーは言った。


「ジンならできるのだろうが。……まずはその新兵器とやらを見せてもらえるか?」

「もちろん」


 それを見れば、彼は拠点の件を認めることにはなるだろう。


「それと公爵殿、これからウィリディスへ案内したいんだが、この城のどこかにポータルを置かせてもらっていいかな?」


 それを聞いたジャルジーの表情は晴れた。


「それは願ってもないことだ。ぜひ、どこにでもポータルを置いてくれ。オレもジンの屋敷には行きたいと思っていた!」


 クロディスまでの行きは戦闘機、帰りはポータルだった。


 そのまま、ジャルジー公爵とその部下フレックを連れて、ウィリディス屋敷内を進む。


「お帰りなさいませ」


 クロハらメイドたちの出迎えを受け、晩餐の準備を頼む。新兵器のお披露目を前に、冷たいブドウジュースを提供。よく冷えたブドウのジュースをゴクゴクと飲み干すジャルジー。フレック騎士長は、冷やされたジュースの味に驚き、じっくりと堪能した。


「美味でございますな。しかしよく冷えている……」

「冷蔵庫と言って、モノを冷やす魔法具がある。これでエールを冷やすと格別だよ」


 俺が言えば、フレックはゴクリと喉を鳴らした。ジャルジーは口もとに笑みを浮かべた。


「今は飲めないのか?」

「晩餐の時にどう?」

「ぜひ!」


 それから、俺たちは屋敷の玄関を通って外へと出る。


 視界に広がる泉と、上の台地から流れる水の壁。屋敷との間に、小さな道があり、そこには魔法車シープが待機していた。SS兵が見張りに立っていたが、俺が近づくと下がっていった。


 シープの運転席に俺は乗り込み、ジャルジーは助手席。フレックと同行するアーリィーが後ろの特設席に座った。エンジンはすでにかかっていて、俺はハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。


「これから向かうのは演習場だ。そこで新兵器を見せるよ」

「いったいどんな武器なんだ?」


 当然の質問だったので、俺は先に概要だけ伝えることにした。


「誘導弾かな。狙った標的に遠くから攻撃する武器だよ。その標的が動かなければ、百発百中」

「百発百中!?」


 ジャルジーは目を剥いたが、すぐに驚きを引っ込めた。


「いや、弓やクロスボウでも、的当てなら百中の腕前を持つ者もいる。しかし、ワイバーンに有効な武器なんだよな?」


 シープはウィリディスの地を走る。遠景に緑豊かな森林。初秋の日差しが柔らかく降り注いでいる。ほぅ、と後ろでフレックが感嘆の吐息を漏らした。美しいところですね、と無骨な騎士長は感想を言った。


 やがて、演習場に到着する。


 そこにはすでにSS兵らがいて準備を整えていた。フレックは、ウィリディスの守備兵をしげしげと観察し、ジャルジーもまた首を捻った。


「先ほども一人見かけたが、ずいぶんとここの兵たちは変わった格好をしているのだな」

「動きやすさを優先しているんだよ」


 やや現代兵士の趣向の入った軽鎧姿のSS兵たち。その素顔は黒い兜に覆われているために年齢も推し量れない。一応、肩口に階級章というか識別用の横線が引いてあったりする。


「ガーズィ、用意は?」

『いつでも』

「やってくれ」


 シェイプシフター兵指揮官のガーズィは、部下のSS兵に合図した。俺たちから三十メートルほど離れた場所に立っていた兵が肩に筒状の物体を担ぐと、その視界前方にある的――百五十メートルほど離れたそれに、筒の先端を向けた。


 次の瞬間、筒の反対側が火を噴いた。


 突然のことに、ジャルジーは身構え、フレックは咄嗟に公爵を庇うように前に出た。……大丈夫、ここまで噴射の炎は届かないよ。


 筒状の物体――ランチャーから飛び出した飛翔体は炎と煙を引きながら飛んで行き、小さく方向を調整したかと思うと、的に激突、そして爆発した。


 轟音と共に的の後ろに積み重なっていた岩ブロックが砕け、派手に吹き飛んだ。


「おおっ……!」


 ジャルジーは絶句した。俺自身、何度か見た光景なので今更驚かない。


「対飛竜用誘導ロケット弾。あれが直撃したら、並みのワイバーンはどうなるかな?」

「……」

「おそらく、墜落か、爆死するかと」


 声も出ない主に代わり、フレック騎士長が何かを押し殺したような声を出した。


「あれは魔法なのですか? ジン様」

「魔法ではない」


 俺は、別のSS兵にランチャーと、弾頭であるロケット弾を持ってこさせる。


「これは魔法が使えない兵士でも使えるれっきとした武器だよ」

「当たった瞬間、爆裂魔法が発動したようにも見えましたが……」

「ああ、弾頭に火薬を仕込んでいてね。衝撃を受けると爆発する仕掛けになっている」


 さらにテラ・フィデリティア――機械文明時代の誘導装置が仕込まれていて、それがロックした標的に誘導するようになっている。ディアマンテ様々。


 まあ、すでに戦闘ヘリや航空機にも誘導兵器は積んでいるんだけどね。


「それで、この威力か……凄いな」


 ジャルジーが声を上げた。


「誰でも使えて、ワイバーンを殺せるという条件で作ってるからな。もう少し威力を落としたものは安く作れるだろうけど……」


 SS兵が持ってきた弾を受け取り、俺はジャルジーらの前でそれを見せる。ジャルジーはじろじろと異形の武器を見つめた。


「先端は槍のようであり、後ろは矢のようでもある。形としては不恰好ではあるが、なるほど矢ではなく槍を飛ばすのであれば、確かに威力もあるというもの。それに爆裂魔法に等しい爆発を仕込む……」

「これまでに比べて、ワイバーンへの勝率は上がると思う」

「劇的にな! ジン、これは凄い武器だぞ!」


 若き公爵殿は声を張り上げた。


「元来、魔法は遠距離の攻撃は苦手だと聞いている。届くまでに魔力が減退してしまい、効果が落ちてしまうためだ」


 よくご存知で。ジャルジーも多少魔法の心得があるのだろう。


「だが、この距離であの威力。Aランク魔法使いでもこの威力は出せまい。それも魔術師でなくても使えると言う。……ジンよ、オレでも使えるのか?」

「もちろん、そこにいるフレック騎士長でも、アーリィーでも使える」


 俺はランチャーを持った。


「こいつの威力はわかってくれたと思う。あとは監視網と、迅速に駆けつけるための拠点を作りたいんだが……許可してもらえるだろうか?」

「ああ、この火力なら……。いいだろう、許可しよう」


 よしよし、これでひとつ前進だ。


 その後は屋敷に戻り、拠点の場所を含めて会談。時間となったので晩餐となった。


 ここ最近毎日通っているフィレイユ姫殿下に加え、今日は姉であるサーレ様も一緒にウィリディス屋敷へとやってきた。


「ジャルジー様、いらっしゃったのですか?」

「ご無沙汰しております、フィレイユ姫。それにサーレ様。本日は一段とお美しい……」

「あら、ジャルジー様。褒めていただいても何もでませんよ」


 サーレ姫は穏やかに応じた。当然の如く、我が家の晩餐で王族や公爵をもてなし、しばし歓談。本日のデザートはひんやりバニラアイスクリームにございますよっと。……牛乳にバニラエッセンス、卵、生クリームがあればできる案外お手軽なデザートだ。お菓子作りが趣味だったおふくろに感謝。


 冷たい口溶けアイスに、一同は感動したようだった。


 なお、ジャルジーには冷蔵庫をプレゼントしてやり、ポータルを通じての食材の流通販売の契約を結んだ。タダではやらないよ。

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