第425話、トロヴァオンが行く
TF-3トロヴァオンは、基本単座だが複座にすることもできる。
コクピットで俺は操縦を担当し、後ろの席には今アーリィーが乗っている。
複座状態のトロヴァオンは、火器管制もしくは索敵用機材の操作パネルやシステムを載せることができるようになっている。
トロヴァオンの搭載能力を活かし、より正確な武器の運用や、偵察任務もこなせるようになっているのだ。
これは軽量戦闘機のファルケやドラケンでは、対応しづらい部分である。
今回、北方クロディス城への飛行遠征で、複座型の運用テストも行う。そういうことなので、アーリィーに同行をお願いした。もともと俺の行くところには行きたい彼女は喜んでついてきた。
なお、現在トロヴァオンは主翼に増槽――追加の魔力タンクを搭載している。これで目的地まで燃料の心配なく、飛んでいこうという魂胆である。
後ろの席だと前が見えないね、と言っていたアーリィーだが、搭載されているコピーコアが機体の外の映像をパネルに表示するおかげで、彼女は首を動かすことなく外の景色を眺めることができた。
「もし余裕があれば、景色やモノを撮影してもいいぞ」
写真趣味であるアーリィーを指名した理由その2。アーリィーの撮影スキルを、ナビにも学習させる意味合いがある。
「いいの?」
アーリィーは嬉々として、空からの撮影を行った。ふだん見ることのない高所からの視点である。地上や低空での見え方の違いを確かめながら、珍しい地形などを撮影していく。
だがしばらく飛んでいたら、アーリィーは気持ち悪くなってきたと、撮影を中断した。手元を見過ぎて酔ったのかもしれない。いや、出発前に食べたローストビーフのせいかも。バクバク食べてたもんなぁ……。
「吐きそうか?」
「ううん、大丈夫……」
アーリィーは答えた。
「少しだけ。集中しすぎたせいだと思う」
「エチケット袋はあるから、吐きそうならそちらに出して」
「エチケット袋?」
「ゲロ袋なんて、センスがないだろう?」
そうだね、と後ろの席から、小さく笑い声が聞こえた。
やがて、俺たちを乗せたトロヴァオンは、ケーニゲン領へと侵入した。ここまでナビに登録した地図データと、俺自身が地図を見るクロスチェックでルートを間違えることなく、進んでこれた。
空中には道路がないから、計器と針路のチェックを怠ると、案外違う方向に進んでいたなんてこともある。
さて、ここまでは戦闘機で来たが、さすがに人口密集地にこのまま接近するのは危ない。飛竜が来るとピリピリしているところに、初めて見るだろう飛行物体が現れれば、最悪攻撃される。
なのでかなり手前で、一度地上に降りる。そこで機体を大ストレージに収納。変わりに四輪型鉄馬を出して、それに乗ってクロディスへと地上を走る。俺が運転して後ろにアーリィーが乗る。
この世界で車と言えば俺たちくらいなものだが、クロディスにいるジャルジー公爵は俺が送った鉄馬を持っているので、そのまま乗りつけても大きな騒ぎにはならないだろう。
かくて初秋の空の下、俺とアーリィーは、クロディス城へと到着した。
・ ・ ・
「おお、兄――ケフン、ジン、よく来てくれた!」
ジャルジー公爵は、俺とアーリィーを歓迎した。伝令から俺の到着を聞いた公爵は、その伝令と共に城門まで来たのだ。
「わざわざ公爵自ら出迎えとは痛み入る」
他の兵やアーリィーがいる前では、さすがに俺を兄貴とは呼ばなかった。
本城の応接間に通される俺たち。腹心ともいえるフレック騎士長を残し、それ以外の者が退出した後で、俺たちはジャルジーと机を挟んで話し合いとなった。
「まず、よく来てくれたジン。それにアーリィー。ここ数日、ワイバーンどもの目撃例が増えている。すでに二つほど集落が襲われた。おそらく、今後とも増えるだろう」
「まだ本格的な攻撃ではない?」
「ああ、今のところは狩場を離れ、迷い込んだ奴だろう。だが時期を見るに、ワイバーンの活性期に入ってきているからな。今後、もっと増えるはずだ」
ますます被害が拡大するということである。早急な対策が必要だ。
「防衛態勢は?」
「芳しくない。正直、ただのワイバーンですら対抗するのは難しい。領内の町や集落に兵を分散配置させても、各個撃破される可能性が高い。かといって、兵力を集中しても成果があるかは微妙なところで、当然守りが手薄な場所はやられ放題になる」
ジャルジーは額に手を当てた。
「正直、頭の痛い問題だ。冒険者にも声をかけているが、相手が空を飛んでくるバケモノではな。……何か手はないか、ジン?」
ほとほとお困りのようだ。仕方ない。ワイバーンの襲来なんて、異星人の空飛ぶ円盤の襲撃にも等しい。
「迎撃プランは考えてある」
「おおっ!」
「空にいる飛竜が、降りてくる前に叩く新兵器を用意した」
「おおっ……! 新兵器! 機関銃に勝る武器か!?」
ん? 機関銃? あれを対飛竜戦に使おうとしたのか?
対空用に調整するべきだが、確かに対空砲としてはありだ。少なくとも、投石やバリスタよりも強力な攻撃を連続して放てる。
ただ、目視での人力照準では、相手が近づかないと当たらないだろうが。
「値が張るからあまり大量に作れないが、集落に二、三発置いておけば、単独のワイバーンなら追い払えるだろう」
「それは朗報だ。いったい、どんな武器なんだ?」
「ここでは何だし、後で見せる。が、迎撃網を形成するために、いくつか公爵殿の許可をいただきたい」
「ワイバーンどもを撃退できるなら、協力は惜しまないぞ」
ジャルジーは、話を聞く前からすでに了承するような勢いだった。控えているフレック騎士長は、何も言わないままやりとりを注視している。
「まず、北方より侵入する飛竜を早期に叩くために、拠点を作る許可が欲しい」
「拠点? 砦か?」
「そんなようなものだ。ワイバーンの侵入を確認したら、その拠点より速やかに迎撃隊を出動させる」
「出撃拠点か……。いくつ必要なんだ?」
「いくつ? ひとつあればいい」
何で複数もいるんだ? 俺が思っていたら、ジャルジーは驚いた。
「たったひとつ! それで空を飛ぶ飛竜に追いつけるのか?」
ああ、そういうことか。
「こっちには乗り物があるからな」
「……ああ、そうだったな。魔法車に鉄馬――ジンは、我らより速い乗り物を持っている。しかし拠点ひとつで間に合うのか?」
「間に合わせる。そのために警戒網を作る。具体的には使い魔だな。それらを上空に飛ばして、侵入した飛竜の存在を早期に通報する」
使い魔、というか、観測ポッドをこちらにも配備している。ただ、俺たちが勝手にやっているだけだから、ジャルジーや現地の人たちには無許可でやっているんだよな。
「警戒網を形成して、敵の位置を通報。それを急行した俺たちが新兵器で叩く」
戦闘機、という単語を出さずに方策を説明してやったぞ。口に出したら説明しなくてはいけないが、まあ、今のところ嘘はついていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます