第424話、準備は進めよう
ジャルジー公爵を招いての晩餐。アーリィーやフィレイユ姫、ベルさん同席の晩餐会だが好評のうちに終了した。
「こんな美味い料理は初めてだ!」
興奮するジャルジー。
ちょっとしたホームパーティー用で、さほど凝ったものは作っていない。シーフードパエリアに、野菜と肉を挟んだ小ぶりのハンバーガー、焼き鳥肉に、新鮮野菜のサラダ、カップケーキに、果物の詰め合わせ――もちろん、一人で用意するのは大変なのでクロハとメイドさんたちにも手伝ってもらったが。
「毎日、こんな豪華な食事なのか?」
「パーティー用でね。ふだんはもっと地味だよ」
「この果物も! そして柔らかなパン! 王城での料理より美味いじゃないか!」
そいつは調味料のおかげだと思うね。この時代じゃ、まだ高価だったり使われていない調味料をふんだんに使った味付けをやっている。お褒めいただいた果物やパンについては、合成素材もいいところだから最上位品質というわけではない。
「ここのフルーツはどれもとても美味ですわ……!」
フィレイユ姫が、先ほどから食べているものが偏っている気がするが……、まあいいか。
食事の締めは、もはや恒例となっているカスタードプリン。フィレイユは喜び、ベルさんもまた子供と一緒にデザートを食し、ジャルジーも初めての食感に感動していた。
それを微笑ましく見守る俺とアーリィー。
和やかな晩餐だが、何気にジャルジーはここの料理素材はどう作っているのか、自分のところでも再現可能かと質問を忘れなかった。そりゃ、毎食美味しいものが食べたいと思うよな人間なら。
彼としては、いや彼でなくても、ウィリディス屋敷はお持ち帰りしたいものの宝庫だった。
今日の所は、お土産にスライムソファーを送ってやった。
・ ・ ・
ジャルジーとした世間話の内容は、ベルさんとアーリィーにも伝えた。
隣国での飛竜の大量発生、フォルミードーという超巨大飛竜。それらがヴェリラルド王国へ飛来するかもしれない――。
ベルさんは楽しそうに言った。
「よかったじゃないか、ジン。戦闘機の出番だぞ」
「俺自身は嬉しくないぞ」
「そうだよ、ベルさん。隣の国で大変なことになっているのに、喜んじゃダメだよ」
アーリィーが言ったが、俺の本音はそこではなかったのだが。いや、確かに不幸であるし、何とかできるものならしてあげたいところだけど。
ともあれ、近い将来、航空隊の出番が確定したので、そちらの様子を見ておく。
異世界軍人である、リアナに航空隊やその練度について相談しに言ったら。
「お前、いたの?」
「そりゃご挨拶ってもんですよ、旦那」
暗殺者サヴァルが、リアナの下で航空機の扱いを学んでいた。
魔術師フォリー・マントゥルの捜索で、諜報員じみたことをさせていた彼だが、マントゥルが滅びた今、任務がなくなり戻ってきたのだ。
かの魔術師捜索は、増援だったヨウ君が見つけてくれたから、サヴァルにとっては残念だったんだろうけど。
「しかし、お前が航空機の乗り方を勉強するとはなぁ……」
意外過ぎる。それに対して彼は。
「空を飛べる乗り物って、あれば便利でしょ?」
「……そうだな」
俺も冒険者をやっている身。その言葉が俺の中でもストンと落ちた。そうだよな、中にはこういう乗り物を使って移動したいって考える奴がいても、おかしくないか。
「どうだい、リアナ?」
「彼は筋がいい」
淡々と、少女の皮を被った強化兵士は言った。物覚えはいいらしい。さすが暗殺者。
「まあ、ここで覚えても、航空機が一般に出回るなんてことは、かなり先だぞ。それでも乗るって言うなら、俺たちの戦争に付き合ってもらうことになるがいいか?」
「御用命の際はいつでも」
サヴァルは恭しく一礼した。演技くさいが、保険はかけてあるから、いいか。
・ ・ ・
さて、冒険者ギルドへ行ったら、ギルマスのヴォード氏に言われた。
「近々、王国の北方へ遠征することになるかもしれんぞ」。
ジャルジーが先日言っていた隣国での『飛竜問題』かと聞けば。
「なんだ、知っていたのか」
フォルミードーの話も出て、副ギルド長のラスィアさんが用意したモンスター資料による、超巨大飛竜の記録も見せてもらえた。
と言っても古い記録だから、あまり参考にならなかったけどな。落書きみたいな画はあったけど。
「Sランク冒険者でも難儀する相手だ。お前は魔術師で聖剣持ちだから何とかなるかもしれんが、オレでは無理だ」
ドラゴンスレイヤーであるヴォード氏をもって、ずいぶんと弱気な発言。いや、きちんと自分の戦い方がわかっているからこそ、相性が悪いのがわかるのだ。そうでなければSランクにまで登りつめることなどできない。
「またお前さんの英雄譚が華やかになるだろうな」
「まだ戦ってもないのに期待されても、困るんですけどね」
「英雄ってのはそういうもんだ」
まあ、そうなんだけどさ。英雄歴の長いヴォード氏だが、俺もここ二年はその英雄だったからね。わかるよ。
「そちらのほうは、ジャルジー公よりお達しが来てるんで、こっちは勝手にやらせてもらいます」
「なるほど、先に公爵閣下より話が来ていたか。そういうことなら、その件はお前の好きなように任せるよ。……そういえば話は変わるが、カメラをありがとうな」
「はい?」
一瞬、何のことかわからなかった。
アーリィーが撮影しまくり、それを見たラスィアさんにカメラを所望されたのだ。それで後日カメラとその写真を持っていったのだが、冒険者ギルドではさっそくカメラを採用した。
冒険者の登録書に写真を貼り付けるところから始まり、解体部門での魔獣を解体する前に記録に残したりと活躍しているらしい。
「おかげで、新人の名前と顔が一致するようになってな。事務でのミスも減った」
「役に立ったようで何よりです」
「写真の現像に、特殊な魔法紙が必要なのがネックですが――」
ラスィアさんがやってきて、紅茶を淹れてくれた。
「それを差し引いても、カメラの需要は高まっています。冒険者の中にも、記録用にカメラが欲しいという者が何人かいますよ」
それは、一般への普及も考えてもいいかもな。……エアブーツ以来のヒット商品の予感。
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