第416話、ウィリディスの謎
機械文明技術を流用し、監視コアを量産する。
長さ1メートル50センチから2メートルほどと違いはあるが、基本は柱である。廉価版ダンジョンコアこと、コピーコアをひとつ備えている。
一度できてしまえば、後は魔力生成。数が揃ったら、それを手分けしてウィリディスの地に分散設置する。
俺は魔法装甲車デゼルトを運転し、迷いの森から内側かつ、屋敷から遠いところをまわる。アーリィー、ベルさん、マルカスにスクワイアゴーレムが同行する。
「シェイプシフターたちに任せれば、楽じゃないかな?」
アーリィーが不思議そうに言うから、俺はこう答えた。
「自分の家の近所だぜ。実際に見ておきたいじゃない」
一方、つい先日魔法車を完成させたユナは、それを運転して近場をまわる。同行するのはサキリスのみ。……車自体あまり大きくないから、スペースがないので仕方ない。
なお、アーリィーの指摘にあったが、シェイプシフター兵たちも、それぞれ監視コアを持って設置のお手伝いをしている。
「あ、ジン。そろそろだよ」
助手席で地図を見ていたアーリィーが教えてくれた。小高い丘と木が立ち並ぶ林がある。監視コアの設置ポイントだ。俺はデゼルトを停車させた後、後部のハッチを開く。
「じゃ、マルカス、頼むぞ」
「了解。ブラオ、行くぞ」
小型の従者ゴーレムであるブラオが、監視コアを背負ってマルカスの後に続く。その後ろ姿を見送ったベルさんは振り返った。
「嬢ちゃんよ、あと何箇所まわるんだ?」
「うーん、七箇所だね」
アーリィーが地図を眺めながら言えば、黒猫は俺を見た。
「面倒だなぁ……。つか、この未踏の森を突破して誰が来るってんだ? オレたちが来るまで誰もこなかったんだろう?」
「でも俺たちは現にここにいる」
俺は皮肉った。
「今後も誰もこないなんて、何故言えるんだ?」
それにな――俺はアーリィーに地図をくれ、と合図する。
「このウィリディス全体を探索したわけじゃないからね。魔力が豊かな土地ってのは裏を返すと、ダンジョンが形成されやすい場所でもある。何かあるのか、あるいは何もないのか確かめる必要がある」
「それって、ダンジョンがボクたちの家の近くにあるかもしれないってこと?」
アーリィーがベルさんの専用席をこえて、俺のそばから同じく地図を見る。……ちなみに人前で「わたし」なんて一人称を変える努力をしていたが、中々直らず、最近では「ボク」に戻っていた。ボクっ娘もいいと思うよ俺は。
期せずして顔が近いが、愛する嫁さんならむしろもっと近くてもいいよ。と、そこへベルさんが俺の肩によじのぼってきた。地図を見ようというのだろう。
「お隣さんがダンジョンなんてゴメンだね」
「それな。見張るのは外側だけじゃないってことさ」
ウィリディスのほぼ中央に位置する俺たちの屋敷。北側はさほど高くない山がいくつか連なっているし、南と西はどこまでも森が広がっている。
東側も森があって、その先に丘が壁のようにそびえ、周りの森との間の視界を遮っている。結構な広さがあり、たとえば洞窟などがいくつあるのか、いまだ俺たちは把握しきれていなかった。比較的近いカプリコーン軍港も表面しかスキャンしていないんだよな。
でも、とアーリィーが口を開いた。
「ウィリディスには危険な魔獣はいないんだよね? せいぜい狼とか蛇くらい?」
「だから気になるのさ。これだけ魔力が豊かな土地ってのは生き物も多彩なはずだから、もっと物騒な魔獣が徘徊していてもおかしくない」
より手前のボスケ大森林なんて、化け物みたいな魔獣だらけだ。だいたい秘境なんて呼ばれるような場所ってのは、身体のデカい魔獣やふだん見かけないようなやつがいるものだ。人がいない土地ならなおのことだ。
「人が入れるなら、そういうのを狩ってしまったとか、わかるんだけどな……」
家作りが進んできたからこそ、気にはなっているのだ。不安の種は潰しておくに限る。監視網の形成は、それも関係している。
その時、後部で靴音がした。マルカスとブラオが、監視コアの設置を終えて戻ってきたのだ。
「ごくろうさん」
「あと、いくつあるんだ?」
「七箇所」
俺が答えると、マルカスは頷きながら、後部の座席に座った。地図をアーリィーに返すと、俺はハンドルを握った。
「じゃ、次に行くぞ。アーリィー、ナビ頼む」
アクセルを踏み込み、デゼルトは動き出す。ちょっとしたドライブ気分で進めば、装甲車搭載のコピーコアがサフィロの声で報告してきた。
『マスター、監視コアを設置中のシェイプシフター兵が、未識別のゴーレムと遭遇、交戦状態に入りました』
「未識別のゴーレム?」
なんだそりゃ。ゴーレムって言ったら魔獣というより人工生成物。まったく予想外だった。
「どういうことだ?」
『監視コアからの映像がありますが、転送しますか?』
「頼む」
次の瞬間、コピーコアからホログラム状の映像が浮かび上がった。
目は一つ、丸い肩を持ち、胴体中央にはゴーレムコア。上半身と下半身の間、つまり腰部がなくて、その上半身は浮いている。魔力で腰や手足が繋がっているようだ。
機械文明時代の兵器とは明らかに違うな。なるほど、見たことない型だ。だがそいつが何故突然現れた? 映像の中のゴーレムが右から左へと移動していく。
「シェイプシフター兵はどうなった?」
交戦中と聞いていたが、映像にはその姿は映っていない。
『現在、交戦中』
「呼び戻せ」
一旦引き上げさせる。そう思った俺だったが、コピーコアの返事はそっけなかった。
『了解』
「現場までナビしろ、これから向かう」
『了解』
コピーコアのホログラフ表示が、画像から地形をあらわすマップに変化する。監視コアは設置されているので場所はわかる。
俺は右手でハンドルを握ったまま、左手で通信機に触れる。ウェントゥス基地にいるディーシーを呼び出す。
『どうした、主よ。何かあったか?』
リラックスモードのディーシーの声が返ってきた
「探査中のウィリディスで、敵性ゴーレムとシェイプシフター兵が交戦中らしい。念のため、そっちでもナビを頼む」
『了解。カプリコーン軍港のディアマンテにも通報しておく。……何なのだ、ゴーレムなんて』
「それを今から調べに行くんだよ。ユナたちにもこのことを伝えて、現場で落ち合うよう指示も頼む」
『了解だ』
通信終了。俺は、専用席に戻ったベルさんと助手席のアーリィーを一瞥した。
「どうやら、厄介事の種が見つかったようだぞ」
そんな種はないほうがいいのだが、見つからないまま大騒動になるよりは、早いうちに見つかったほうがいいだろう。
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