第415話、SS部隊


 SS。


 何の略は色々あるが、人によって何が浮かぶかはそれぞれだろう。そのあたり趣味趣向や仕事柄が出たりするものである。


 さて、ここで言うところのSSは、シェイプシフター(Shape Shifter)だ。


 現在、俺が持つ姿形の杖であるスフェラを筆頭に、シェイプシフターたちが複数活動している。


 主な戦闘部隊として、シェイプシフターで構成された兵たちがいる。これは必要な時に動員される形だったが、ここ最近はウェントゥス基地やカプリコーン軍港の警備。航空艦艇や戦闘機、戦闘兵器のパイロットやクルーとして活動している。


 さらに名前を与えられたSSメイド――ヴィオレッタ、ヴェルデ、アマレロ、マホンは、クロハとサキリスの下、俺たちの家の管理をダンジョンコアと協同で行っている。


 ここでシェイプシフターについて、少し説明しよう。


 もともと、姿を変えるモンスター、怪物、幽霊、妖怪などと呼ばれているのがシェイプシフターだ。マイナーな存在だが、ゲームの世界に目を向けると、ミミックなどの亜種が割とポピュラーだったりする。


 姿を変える幽霊や妖怪たちは、世界で多く見られているが、詳細についてはよくわかっていない。


 というのが、俺のいた世界でのシェイプシフターだ。映画のネタになったり、ゲームでも登場していたりした。


 では、この世界のシェイプシフターはと言うと、基本は黒いスライムのような姿をしている。


 変身するという特性上、サイズや重さなどを自在に変えるために不定形の身体なのだろう。骨格なども自由に作ったり組み替えることができるので、人や動物はもちろん、宝箱に擬態しているミミックみたいにモノに化けることができるのだ。


 こいつらは、敵性生物を喰らう。かなり燃費のいい連中で、そこそこの大きさの獣を一頭喰らったら、数年単位で生きていることができるという。


 また喰らった相手の姿形をコピーすることで、それに変身することができる。取り込むことで、身体の容量が増えていき、大きくなり過ぎる前に分裂することで数を増やすことも可能だ。


 さらに自身の身体の一部を他の個体に取り込ませることで、知識を共有する。そのため、彼らの思考伝達能力は非常に早く、接触から数秒で情報の回収が終わる。事情説明や報告の時間が恐ろしく短いため、行動が早いのだ。


 さっき分裂すると言ったが、その際も知識を持ったまま分裂するので、教育期間ほぼゼロで経験豊富な個体となる。それがウェントゥス軍の主力であるシェイプシフター兵たちの強みでもある。


 人間並みに頭の働くシェイプシフターがいたら、こっそり人類社会を征服することも不可能ではないと俺は思っている。気づいたら、人間は滅んでいて全部人間に化けているシェイプシフターだった……なんてホラーもあるかもな。


 さて、姿形の杖は、そのシェイプシフターたちを支配する。その持ち主の命令には絶対服従。ゆえに俺が、人間社会に対する反旗を翻すなんて事態にならない限りは、シェイプシフターたちの反乱も起こりようがない。……俺が指示しない限りは。


 考えようによっては、核兵器より性質の悪い杖を俺は所有していることになる。連合国にいた頃、とあるダンジョンで姿形の杖を手に入れたのだが、その杖を作った文明って、もしかしたら、このシェイプシフターの杖を使った奴の仕業だったりしてな……! はは……は――


 いかんいかん、妄想がたくましくなってるな俺。


 閑話休題。


 広大なる森に囲まれた、これまた広い未開地であるウィリディスである。カプリコーン軍港に近いとはいえ、結構放置していたから、より警戒の目を増やしていく。この地の警備は、主にシェイプシフター兵とコピーコア搭載ゴーレムによって行う。


 俺たちの家――通称『ウィリディス屋敷』の三階にある会議室に、スフェラを呼び、警戒線の構築案を検討する。


 用意するシェイプシフターは―― 


1、従来通りの人型。

2、生き物型。狼や犬型のほか、ネズミ、猫、カラスや鷹など。

3、オブジェクト型。


「1は、そのままシェイプシフター兵でよろしいですね、主様?」


 姿形の杖の人型形態である漆黒の魔女は問うた。


「いつになるかわからんが、ここには王族が来るかもしれない」


 家が完成したら、エマン王が訪れるとかも、とアーリィーが言っていた。そうなれば、王だけでなく、俺を兄貴と呼ぶようになったジャルジー公爵や、フィレイユ姫殿下もおそらく来るだろう。


「その時に、一応人手は足りてますよってアピールが必要だ。……余計な人数を送られないようにするためにもね」


 たとえば、アーリィーの身辺警護と称して近衛を派遣してきたりな。まあ、オリビア隊長の近衛隊なら、ウェントゥス基地をはじめ秘密は明かしても問題ないだろうけど。


 とにかく、強引に理由をつけて送りつけてくる可能性は高い。そうなると、密かに準備している軍隊のことがね……。


 でもまあ、時間の問題だけどね。いずれ明かさなければならなくなるだろう。


 あと万が一、ウィリディスの地に外部から人が来た場合、コミュニケーションが取れる者を置いておくべきだと思うのだ。ボスケ大森林も近いから、冒険者あたり迷い込んできてもおかしくないし。


 だから、少なくとも人の姿をしたものをね。鹿や狼が話しかけてくるというのはファンタジーであるが、普通はびびる。


 一方、動物型は偵察、斥候型だ。自然の中を徘徊してもおかしくないものを選び、積極的な警戒を行う。


 対してオブジェクト型は、密かに見張るタイプだ。例えば岩や木に擬態して、侵入者などがあった場合は、密かに通報ないし追跡を行う。


 かしこまりました、とスフィラは首肯したが、真顔で問うた。


「シェイプシフターはどれほどの数が必要でしょうか? 未開エリアの多いウィリディスに散らすなら、相当の数が必要になると思われますが」

「……人型はある程度必要だ」


 俺は考えた後、言った。


「だがオブジェクト型は最低限でいいかもしれない。そっちはサフィロにやらせよう」


 ダンジョンコアは、この一帯をテリトリー化しており、監視も行っている。その索敵範囲を多少広げれば、その役割を果たせる。


「むしろコピーコアの方がいいかもしれないな」


 ゴーレムなどのコアとして使っている廉価版、いや機能限定型の量産型コア。だが本来は、広くなったダンジョン内の監視や代理管理・運用を行う。


 その応用で、監視型コアを要所に配置すれば、早期発見、即通報が可能である。


「よし、それでいこう」


 監視網を形成する方法に目処が付いた。あとは、どこに配置するかである。

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