第410話、夢の大豪邸を作ろう
「それで、家の間取りなんだが――」
ヴェリラルド王国の王都、アクティス魔法騎士学校にある王族専用寮である青獅子寮。机を囲み、俺、ベルさん、アーリィーがいた。
ただいま会議中。俺たちの家の話だから、住む人間の要望を取り入れたい。
まずどういう部屋が必要か、からの話し合いから。
個人の部屋、トイレ、キッチンや食堂、風呂、居間、玄関――と何だか連想ゲームみたいに各自適当なことを言っていき、俺が紙に書き留める。
物置、収納が必要だね、とアーリィーが言えば、俺は個人的な工房や、車用の車庫、格納庫も欲しいと提言しておいた。
すると、ベルさんが口を開いた。
「そういえば、クロハやサキリスも、こっちに住むんだよな?」
従者として抱えている彼女たちの部屋も必要か。卒業したら、マルカスも俺に仕えたいってことだから、彼の部屋もいるかな。
「それを言ったら、ユナ公もじゃね?」
「あー……」
高等魔術教官にして、来期学校と契約しないことがすでに決まっている巨乳先生ことユナである。
今でもすでに俺の弟子という扱いなので、そうなると彼女もほぼ確定なのか。空き部屋をいくつか作ったほうがいいのかねぇ。
ウェントゥス地下基地に兵員用の居住区画はあるけど、ずっと基地生活というものね……。
ああだこうだ討議しつつ、時にクロハやサキリスを交えて、彼女らの意見も聞いてみる。
「地下牢が必要ですわ」
サキリスがそんなことを言ったとき、ベルさんは間髪入れずに言った。
「そこ、お前の部屋な」
「何故ですの!? わたくしは、不審者や侵入者があったときに、捕らえておく部屋が必要と言っただけですのに!?」
「普段の行いのせいだろ」
しれっと、ベルさん。正論だな。俺も汚物を見るような目を向ければ、彼女は顔を赤らめてうつむいた。……はい、想像しない。
それで間取りについて、案が出ては消えを繰り返して、ようやくたどり着いたのが次のような形だ。
例の泉に面した空洞、その南壁面をくり貫き、外装としつつ窓を作る。太陽の光を取り入れるためだ。玄関ホールは当然、そこに置く。
入ると正面中央、左と右の三方に分かれる。正面中央は大きめのホールとなっていて、パーティーなどを催すときに使う。その奥に将来的には図書室的な資料室にするつもりの大部屋をひとつ。ここより先に細長い通路を介して、俺やユナが使う工房や実験室。
兵器の製造工場はウェントゥス基地やカプリコーン軍港があるから、そっちで充分。あくまで個人的なものだが、これらの研究設備は他より離れた場所にして、家への影響がないようにする。
さて、玄関に戻り、左に行けば大きな窓がある大リビング。スライムソファーなんか置いて、まったりくつろぎの空間としつつ、泉や対岸の森などを眺められたらと思う。リビングを左へ行けば食堂、そしてキッチン。近くには食糧倉庫や冷蔵室を置く。
で、玄関ホールに戻り、正反対の右側は地下へ下りる階段と、武器防具用の倉庫、訓練などに使える多目的ホール、魔法車用の車庫を作る予定である。
ここまでが一階。
次は二階だ。玄関から、ホール、資料室のある中央部は吹き抜けにする予定なのでここに部屋はない。左エリアには一階ほどではないが小規模食堂とキッチン、空き部屋二つ。なおこの左端には通路をおいて風呂場と脱衣所を作る。風呂場の南側の壁をくり貫き、露天に近い形にして、夕日を見ながらの風呂なんてどうだろうか?
一方の右エリアは居住区だ。サキリスやクロハ、ひょっとしたらユナやマルカスらが使うかもしれない個室、さらに空き部屋や倉庫部屋も用意。。
で、三階。
ここは俺とアーリィー、ベルさんの部屋を置く。中央はバルコニー付きのリビング。奥に会議室に使える部屋。
左エリアにはベルさんの部屋。トイレと風呂付だ。あ、ちなみに一階や二階の要所にはトイレの場所も確保済みだ。
右エリアは俺とアーリィーの部屋。小規模なダイニングを置き、他に空き部屋を三つと倉庫部屋を二つだ。
……ここの空き部屋は、子供が生まれたら、とか考えてる。誰と誰の子供かは……言わせるなよ、恥ずかしい。まあ、まだ今のところその予定はないのだが。
なお、一階より下に地下室があり、ここはダンジョンコアを置いた制御室や魔石生成庫、倉庫に地下牢、秘密の部屋などとなる。……秘密の部屋は間取り図から除外した。秘密だからね。
「……しかし、これは」
間取りを見ながら、俺が呟けば、アーリィーが頷いた。
「まるでお城みたいだね」
「大豪邸、って言って欲しいね」
大きな家に住むのは庶民の夢、なんてな。
個人的にはこじんまりした家もいいかなと思っていたのだが、人数が増え、必要な設備を考えたら、こうなった。これでは家だかアジトだかわからなくなったから、部屋を増やしてバランスを考えた結果と言える。
土地については考えなくていい。しかしこの規模で穴を掘ったり部屋を作ったりしたら、いったい総工費いくらかかるのか想像もつかない。
お城みたいとアーリィーは言ったが、下手したらそれくらいの時間と金が掛かるかもな。
まあ、ダンジョン工法に必要なのは、ダンジョンコアと魔力だけだから、人件費に関してはあってないようなものだ。
素材の調達も自前でできるから、その手間も省かれお金で考えるならかなり節約になるだろう。……必要なのは魔力なので、金額などまるで考えないし計算もしないが。
地下建築で言ったら、ウェントゥス基地や青獅子寮の下でやっているし。
「とりあえず、こんな形で進めていって、足りなくなったらその都度拡張していくという方向でいいかな?」
「賛成」
「いいんじゃね」
アーリィーとベルさんは同意した。
そうと決まれば、さっそく作業開始といこう。と言っても、俺とディーシーがメインで、ダンジョンコア『サフィロ』がサポートにつく。……アーリィーには、ちょっと魔力を出してもらう方向で。
ポータルで現地に移動した俺は、ダンジョンコアを使ってダンジョン、もとい家を作る。
まずは地肌むき出しの壁面に穴を掘る。まあ、ダンジョンコアのテリトリー内では、表示されるホログラフ状マップにタッチして、該当範囲を指定して『削除』するだけで事足りるんだがね。
まず部屋の枠を作り、加工済み石材や木材を指定した建材を床や壁、天井にパズルのようにはめ込んでいく。
パーツの結合や補強は、ディーシーとサフィロで勝手にやってくれる。……というかやってくれないと、建築素人のダンジョンマスターが作ったダンジョンなど、あっという間に崩壊してしまう。ダンジョンを管理するコアは、伊達ではないのだ。
俺は、まるでPCをいじってゲームやってる感覚で家建築を指揮する。肉体労働? なにそれ美味しいの?
とはいえ、魔力がガンガン使うから、想定した大きさだとさすがに一日や二日で終わるものでもない。
幸い、とりあえず在籍している魔法騎士学校は今、夏休み期間中だ。朝から来れるから、それで作業の時間に当てられる。
ただ、ウィリディスの地は魔力が豊かで、カプリコーン地下のプチ世界樹から、たっぷり魔力を引き入れられるから、ほとんど負担はなかった。
待ってろ、夢のマイホーム生活!――と思うことで、戦争の気配については、少しの間でも逃避しておく。忘れたわけじゃないんだけどね、むしろ忘れたいという本音。
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