第409話、ちょっとした疑問
未踏地域の森の奥、自然溢れる秘境。名前のないこの地に、俺は『ウィリディス』と名づけた。
いつまでも未踏地域とか言うのもどうかと思ってのだ。もう未踏地域でもないし。もちろん、アーリィーと相談の上で決めた。
ちなみに意味はラテン語で『緑』、だったと思う。自然とかの緑ではなく、カラーのほうの『緑』色である。
さて、このウィリディスの地の一角に、俺は家を建てることにした。
そう、家だ。基地とか拠点ではなく、プライベートな家である。
場所は、アーリィーや仲間たちと遊んだ泉、そこに面した壁面。そこから泉の方向を見ると、屋根のように突き出した上の岩から水が流れ落ちていて、一種の滝を形作っていた。南側に面したそこは、流れ落ちる水のカーテンの裏から太陽と泉、その向こうの森が見えると言う絶景ポイントでもあった。
家を建てる、と言ったが、建築については、いつものダンジョンコアを利用。ダンジョンマスターとして、ダンジョンも作らず家作り。……何だろうね、拠点というと間違ってなさそうなのに、家というと違和感なのは。
ダンジョン生成要領でやることのメリットは、必要なのは魔力だけということ。建築にお金がかからないこと。
魔力を消費することで、コアのテリトリー内の地形を削り、掘り、壁や部屋を形成する。
これまでも簡易なダンジョンは作った経験はあるが、普通に家ともなると少々勝手が違うが、ここは経験豊富なディーシーさんがいる。
王都、魔法騎士学校の地下に勝手に作った秘密通路のような建造物を作るなら、全面石造りでも問題はない。だが個人の部屋がそれでは実に味気ない。……いや、それなら家具や飾りなどで誤魔化せるかもしれないが。
ダンジョンと言っても、千差万別である。オーソドックスな石造りの迷宮もあれば、天然の地下洞窟、宮殿や遺跡風、これまでで見たものだとすべて氷で出来ている迷宮や植物の中がダンジョンになっているものもあった。
これらに加え、古代文明の遺跡やら人間の作った建築物やら、さまざまなものを俺と共に見てきたディーシーである。彼女の作れるダンジョンも、バリエーションに富んでいる。
「想像力だよ、要するに」
ディーシーは言うのだ。ちなみに、俺は聞いてみた。
「魔力で変換できるもののリストってどんなもん?」
「長いぞ」
ディーシーが、淡いホログラム状のリストを表示させた。……うん、長いなこれ。スクロールさせても追いつかない。膨大なリストだった。
もっとも、よくよく見れば、建材に使えそうな素材以外にも多数のもの――例えばガーディアンモンスターや動物、植物なども含まれていた。どうやら『変換できるもの』という言い方が悪かったようだ。
さて、リストから建材に使えるものを中心にリストアップし、ベルさんとそれを眺める。
「ダンジョン石に、ダンジョン木?」
「ずいぶんと大雑把だな」
黒猫姿のベルさんは鼻を鳴らした。ディーシーは皮肉に笑う。
「専門用語に通じているなら、もっと細かく表示してやってもいいぞ。……ほれ、わかるか?」
「悪かった、悪かったってば」
専門用語並べられても、わかる人にしかわからないからな。今くらいの大雑把でちょうどいいかも。
「未加工、加工済み、サイズも好きに選べるぞ」
「加工職人いらねえなこれ」
「ダンジョン生成用素材だからな」
ディーシーは淡々と言った。俺はリストをなぞる。
「金属類。鉄や銅、金、銀……コバルトやミスリルはわけるけど、オリハルコン、アダマンタイトまである」
「……マジか」
「ああ。学習の成果と言ってほしいね」
どや顔をするディーシーである。でもよくよく考えると、ダンジョンには貴重な鉱石や鋼材、金属などが埋まっていたりする。実はそれほど驚くことではないかもしれない。
「宝石の類もあるぞ。サファイアやルビー、ダイヤモンド。魔力と引き換えだ」
「どうせ、お高いんでしょう?」
ルーガナ領の復興事業の際、鉄と金で実演したもんな。
「それなりにな。効率を求めるなら、他の安い魔力消費のものにするんだな」
マスターのいるダンジョンで、希少な魔法金属だけで作られたものがないのもそれが理由だろう。
作ろうと思えば、ミスリルのみの部屋を作ることができるが、それひとつ作るくらいの魔力で、同型の石造りや木造部屋なら、大屋敷くらいの規模で量産が可能ということだ。
「そういや、金って使う素材の割にできる量が少なかったっけな。金ぴか屋敷とかできるかと思ったんだけどよ」
「悪趣味だなぁ、ベルさん」
「オレの趣味じゃねーよ」
ぷい、とベルさんがそっぽを向いた。まあ、魔力消費に目を瞑れば、黄金宮殿なんてのも不可能ではない。……やらないけどね。
とにかく、魔力を支払うことで、素材はある程度自由に手に入る。外は洞窟っぽくても、普通に家っぽい内装に仕上げることもできる。
俺はリストをスクロールさせながら、その長い長い項目を流し見ていく。
「どうした、ジン?」
「……ちょっとな」
魔力と引き換えに色々できるダンジョンコア。ディーシーは天然ものな一方、サフィロという人工的に作られたダンジョンコアもある。
機械文明時代の旗艦コアという、ディアマンテがいうには、サフィロのような人工コアはその時代に作られたものらしい。
……じゃあ、天然コアって何だ?
「前にディアマンテが言っていたんだが、人工のダンジョンコアってものは、彼女のように船を制御するものもあれば、都市の管理をしたり、非常時のシェルターにも使われていたんだそうだ」
「ほーん……。で?」
ベルさんが先を促した。俺はリストにある食材を拡大する。
「魔力と引き換えに色々作れる。素材だけでなく、ガーディアンや動物や植物――そこから派生して食糧もな。天然資源が枯渇しても、魔力で人工的にそれらを作って生きていける環境にしたって話だったんだけど、そうなると」
俺は、チラリとディーシーを見た。
「――作られたコアではない、天然コアって何だろうってなるわけだ」
人工コアは、コアをコピーすることができる。じゃあ、天然のコアは、人工コアのコピーが発祥だったりするのだろうか?
「そんなもの、我が知るわけないだろう」
馬鹿らしいとばかりに、ディーシーは手を振った。
「最初の人間はどこから生まれたか、みたいなものだ。主は知っているか?」
「いや、知らないね」
そもそも、異世界人だぞ、俺は。
「我は我だ。主が、どこかのダンジョンで我を拾った。そういうことなのだろうよ」
「あの頃は、今のような自我もなかったろうしな」
ベルさんが首をすくめた。
「ま、いいんじゃね。知らなきゃ死ぬわけじゃあるまいし」
「そうだな」
ま、この世界の過去に思いを馳せても仕方がない。いまは、ダンジョンコアのお力で『お家』作りをしよう。
さて、間取りはどうしようかね……。ワクワクしてきたぞ。
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