第407話、オフモード


 水着に着替えた俺とマルカスは、女性陣に合流する。


「ジン!」


 アーリィーが手を振ってくる。


 健康的な白い肌。手を振れば、もはや隠すこともなくなった魅力的な胸も揺れる。彼女の水着は、緑、いや翡翠色のビキニで、腰に青と白――違うな空の模様のパレオを巻いていた。


 翡翠色は、アーリィーの誕生石の色でもあるから、気に入っているのだろう。ただ、人前で水着は、まだ少し恥ずかしかったのかな。パレオなら、スカートを穿いているような感じで、やや露出は抑え目になる。……心持ちだけどな。 


「よく似合ってるよ、アーリィー。可愛い」

「そ、そう……?」


 照れたように頬を染めるアーリィー。


 俺の隣でマルカスが、ほぅと感心したような吐息をつく。俺の嫁だぞ。


「あ、お師匠」


 泉に膝まで突っ込んでいたユナが、俺たちに気づいて振り返った。


 ぷるん、と揺れる圧倒的な二つの山。紐を首の後ろで結ぶタイプのホルターネックビキニ。肌の色ではおそらくこの中で一番白い彼女の水着は黒で、コントラストが非常に映える。


 だがやはり突っ込まずにはいられない。圧倒的、肉! ダントツ大きなそのバストのせいか、水着が小さく見える。まさにはちきれんばかりだった。……おぅ。


「男性用は、パンツだけなんですね」


 いつもの淡々とした調子でユナは言った。表情が変わらないせいか、はたしてこの娘に羞恥心はあるのか。……いやまあ、一応あるんだけどな。


 そこへラスィアさんとヴィスタ、ダークエルフとエルフのコンビがやってくる。おおう、ラスィアさん……。


 サキリスが複数用意していたって言っていたが、こんなの用意していたのかよ……。


 褐色肌のダークエルフさんが身に付けているのは、いわゆるスリングショットと言われる露出強めの水着だ。スリングビキニとも呼ばれているらしいそれは、過激なものだとほ大事なところをカバーする程度で結構肌が……。


 これはエロい。ふだん知的な褐色美人が、こんな露出強い水着を選ぶとは……。ギルド制服でもプロポーションのよさがかもし出されていたが、それが露わになっていると鼻血ものだ。


 だが当のラスィアさんは、すました顔で言うのだ。


「この程度、普通ですよ」


 ダークエルフの基準では普通らしい。……確かに、この種族、もとから露出がやや強めだったからな。女の戦士ともなるとビキニアーマーちっくなのがデフォルトみたいな印象だ。


 それに対して、エルフである魔法弓使いのヴィスタは。


「……む、あまりじろじろ見ないでくれるか? 恥ずかしいから」


 薄緑色のワンピースタイプの水着姿である。いかにも森の人と言わんばかりに緑系である。ダークエルフと違って過剰な露出は好まない種族柄か、大人しめに見えるが、ヴィスタはヴィスタでスレンダーな体型をしているので、モデルばりに目を引く。


 ……ただ、気のせいかな。どこかでゲームか何かで、そんな女キャラクターを見たような気がしないでもない。


「泉はどうだい?」

「綺麗だな」


 ヴィスタは答えると、視線を池のように広がっている大きな泉に向ける。


「全体的に浅いから、水が透けて底が見える。魔力を感じるほど清んでいる」

「いい場所ですね」


 ラスィアさんもまた頷いた。


「ここなら、暑い日は泳ぎにきたくなりますね」

「言ってくれれば、いつでもどうぞ」


 俺がデッキチェアのもとまで行くと、「ご主人様!」と後ろからサキリスの声がした。


 エプロンをしている。その下には、え……水着――?


 俺は絶句した。


 金色の髪にメイドさんのヘッドドレス。さらに白いエプロンを身に付けているサキリスが、ドリンクボックスを持ってきた。


 ま、まさか裸エプロンってやつか!? 露出強、じゃなくてこの露出狂め。俺の隣でマルカスが固まっていた。童貞には刺激が強すぎる……!


「どうされました? ご主人様?」


 しなっ、とポーズをとるように姿勢を変えるサキリス。ユナには劣るが充分すぎるナイスな胸が揺れる。外見はパーフェクト美少女である。


 どうされました、じゃねえよ! お前ェー!


「水着はどうした!?」

「え? ちゃんと着てますよ?」


 一瞬真顔のサキリスが、直後に何かに気づいたような顔になり、頬を染めた。


「もしかして、裸だと思いました?」


 荷物を置くと、くるりと後ろを向くとエプロンの紐をほどいて……。


 紐が見えた。ひっぱったら切れそうな細い紐が彼女の柔肌にその白いラインを浮かび上がらせている。つーか、ほとんど見えそうな紐。マイクロビキニというやつだ。


 エプロンが上手いこと紐を隠していたようだ。お前確信犯だろう! いまさら恥ずかしそうに顔を染めても遅いっての。


「いやいや、眼福だねぇ、実に眼福だ」


 いつの間にか、俺の足元に黒猫姿のベルさんがいた。親父モード全開だな、ベルさんも。


 サキリスの後ろから、クロハがやってくる。黒髪メイドさんはこちらも紺色のワンピース型水着にエプロンと、ちょっとマニアックな格好。……これもサキリスが選んだんだろうか? 


 思えば、この世界に最近出回りだした水着、妙に現代チックなんだよな。衣装系統は妖精種族により結構発展しているとはいえ、このバリエーションを見ると、俺以外にも異世界から転移したやつがいて、入れ知恵をしているように思える。……うん、まあ、いいか。俺は損してないし。


「って、マルカスさん!?」


 そのクロハが駆けてきた。見れば、マルカスの奴は、鼻血を出して手で押さえていた。……ここの美女たちは、童貞を殺すつもりらしい。


 デッキチェアにマルカス坊やを座らせ、クロハが甲斐甲斐しくお世話をする。ベルさんは「しょうがない奴だ」とぼやきながら、俺を見た。


「こっちはこっちで遊ぶか」

「そうだな」


 というわけで、俺も砂浜もどきの砂地から泉へと足を入れる。冷たっ。だがとても綺麗な水だ。ヴィスタが言うとおり、水深が浅いので、立っている限りは溺れることもない。


 ボートを用意して漕ぐのもいいかもしれない。が、今回、俺は鉄馬を改良した水上バイクもどきを準備しているのだ。試し乗りにちょうどいい。


 俺はアーリィーと泉の端から端まで歩いてまわってみる。泉の南側に川が流れていて、そこから流れていくので、一定の水量を越えないようになっている。泉で一番深いところでも一メートルくらいか。


「そういえば、アーリィーって泳いだことある?」


 王子様生活で、人前で裸になるという習慣はおそらくなかったと思う。


「うん、ボクはないかな。性別ばれちゃうから脱げなかったから」

「すると、泳げない?」

「うーん……そう、なるかな……」


 アーリィーは上目遣いで俺を見た。


「ジンは泳げるんだよね? 教えて、もらってもいいかな……?」

「もちろん」


 即席の水泳講座が始まる。といってもまずは水に慣れるところからだね。そもそも潜るという経験がないだろうし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る