第406話、完全休養
未踏破地区は、DCロッドとディアマンテが管理しているから、基本、魔物が入り込むということはない。
外側には警戒線があって、シェイプシフター兵も含めて見張ってもいる。
そんな中、滝の流れる泉、その奥のくぼみが空洞のようになっている場所をプライベートな拠点とすることにした。
水の流れる音が耳朶を打つ。もともと山だったところが崩れてできたのだろうか。空洞の内側から見れば、上から流れ込んでくる水が泉に落ちて、さらに対岸に森が見渡せた。
「ディーシー、この辺りはどうなっているんだ?」
俺がDCロッドことディーシーに確認すれば、彼女はホログラフィック状の周辺マップを表示させた。
……ふむふむ、このくぼみとなっている壁面の奥に、洞窟のような空間があるな。ここをいじって拠点としよう。
「ここにするのか?」
「ああ。悪くない」
テリトリー化を進めて、まずは仮拠点を作ろう。ディーシーに指示を出して、壁面に穴を開け、通路として奥の空洞に繋げる。
当面の通路として石を成型し敷き詰める。床に壁、天井と、明らかに人工的に仕上げたものを生成する。
ダンジョンコアの面目躍如。魔力さえあれば、ディーシーにとっては造作もない。
ただ家を作るとなると、お洒落な内装も考えておかないとな。どんな家にするのか、そのあたりもアーリィーと相談したいな。
ダンジョンコアの力を使って、地下を開口して部屋と通路をいくつか作る。仮の工房、家具やベッドを置けば個室として使える部屋、倉庫など。
……そのまま生活に必要な風呂やトイレ用の部屋まで作ってしまいそうになり、あくまでまだ仮だと思い出し、自重する。
週末の遊びのための拠点は、ひとまず完成したのだった。
・ ・ ・
かくて、週末が来た。朝からよく晴れていた。
ポータルを使ってもよかったのだが、移動の際に見える景色も堪能できれば、と思い、ルーガナ領フメリアの町から装甲車デゼルトで向かうことにした。
旅行やキャンプとかって、道中の時間も雰囲気を高めてくれると思うんだ。直接着いてしまうと、気分の切り替えがね……。
住民たちもこの手の車などは、すっかり見慣れた様子で、騒がれることもなかった。アーリィー王子、もといお姫様も連れていれば、王都の最新技術ってことで済んでしまう。馬鹿にするわけではないが、田舎と都会の壁というやつだ。
現地にいる冒険者たちには、ボスケ大森林探索だと思われるだろうから構わない。実際、先日のヒュドラ退治がそうだったし、未踏地区までは来れないことになっている。ルンルン気分でドライブしましょ。
俺とベルさん、アーリィーの他に、ユナ、マルカス、サキリス、クロハの、今後俺たちが引っ越した後も一緒に来るだろう面子を連れている。
さらに、たまたまお出かけ前にルーガナ領冒険者ギルド支部を覗いたら、副ギルド長のラスィアさんもいて、エルフのヴィスタもいたので『遊びに行くけど来る?』って誘った。
ラスィアさんは、俺の正体も、ウェントゥス基地のことも知っている人だからね。たまには酒を飲みながらでも、って誘われたから、そのお返し。
はい、デゼルトをみて、ヴィスタが固まっていた。そういえば彼女は初めてかね。
どこまでも広がる青い空。ゆっくりと流れる白い雲。照りつける暑さを帯びた日差しは、夏を感じさせる。
道中これといってトラブルもなく、ボスケ大森林に到達。先日のヒュドラ騒動で無理矢理作ったルートを行き、そこからさらに途中秘密の地下ルートへ切り替えて、誰の目にも留まらず森を通過。
この秘密地下通路に、ヴィスタはもちろん、ラスィアさんも目を丸くしていた。……信じられないのはわかるけど、ラスィアさんはそろそろ慣れてくれてもいいんじゃない?
ボスケ大森林を潜り抜け、未踏地区の森へ。ここもルートは開拓済み。目的の滝のある泉までデゼルトは走る。ある程度の整地を済ませてあり、速度を出しても揺れは少ない。家を建てた後は、本格的な車両用の道を作ろうと考えている。
運転する俺以外は、天井のルーフを開けて、風を受けながらの観光を楽しんでいた。綺麗、とアーリィーが口にすれば、ヴィスタも「いい森だ」と目を閉じ、ラスィアやユナも頷いた。
小さな川に沿って道を進むと、小高い山が見えてきた。自然に開いた短いトンネルを潜った先には、大きな泉があって、山から流れる水が滝となって落ちてくる光景が広がっていた。
行き止まり、ではなく目的地に到着である。泉の外側に沿って、仮拠点を作った壁面の手前へ入る。大きな空洞は天然の屋根となり、さらに奥へ進めば滝の裏側を目の前に見ることができる。
デゼルトを停めて、ハッチを開く。
「へぇ……」
マルカスが頭上を見上げる。
「なるほど、ここなら雨が降っても大丈夫ってことか」
「いいだろ?」
秘密基地ではないけど、秘密基地っぽい。ガキの頃、こういう自然の隠れ家みたいなのってワクワクしたもんだ。……実際にそういう場所に行くことなんてなかったから、妄想も含めて。
「さ、テント張るから設営を手伝ってくれ」
荷物を降ろし、俺を含めた野郎は設営作業。ベルさんは手伝う気なしのようで、椅子の上で寝そべっていた。
「……いいご身分だな、ベルさんよ」
「人手は足りてるだろう?」
確かに。スクワイアゴーレムたちが手伝ってくれるからいいんだけどね。
サキリスとクロハが荷物降ろしを手伝う中、アーリィーとユナがやってきて。
「ジン、手伝おうか?」
「んー、こっちはそれほど手間じゃないからな。君たちは先に泉で遊んできていいよ。終わったら行くからさ」
俺は、マルカスとスクワイアゴーレムらとテントと張る。女性陣は、デゼルト車内で、お着替え。
「み、水着!?」
困惑するヴィスタに、メイド服のサキリスは満面の笑顔を向けた。
「一通り取り揃えたいます、ご安心を――」
何を安心するんだ? 俺は思ったが、聞き耳を立てていたと思われるのもアレなので素知らぬフリを決め込む。……ちゃんと着替えができる脱衣所を作っておけばよかったかな。
作業はさほどかからず終了。彼女たちもお着替えを終えて泉のほうへ向かっている。さてさて……その女の子たちがやや離れたところにいた。
海ではないが、プライベートビーチっぽくあたりを砂地に変えてある。デッキチェアやドリンクボックス――ドライアイスよろしく、氷魔石を詰めたクーラーボックスが置かれていた。
俺たちもボクサータイプの水着に着替える。今日は完全休養だぞ!
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