第389話、激闘、名もなき悪魔 その2
ヴォードに迫った魔法は、サキリスのSS装備――シェイプシフターマントが防いだ。炎でなければ強固な防御性能を発揮するシェイプシフター装備は、暗黒球体の直撃にも耐えたのだ。
俺は聖剣ヒルドを手に、名もなき悪魔へ斬りかかる。肉を切り裂く手ごたえ。だが悪魔も俺へと暗黒球体を連続して飛ばしてくる。
しぶとい。そしてタフだ。聖剣は確かに効いているのだが、悪魔はいまだ弱る気配を見せない。埒が明かないな。
これはいよいよ極大魔法のような大技を叩き込まないと悪魔は倒せないかもしれない。
が、問題は、それを狙える隙があるかどうか。
悪魔が周囲に電撃をばら撒いた。近づこうとしたヴォード、そしてサキリスが電撃を避けきれず吹き飛ぶ。俺も盾を出してかろうじて防ぐ。少しずつ敵の攻撃が正確性を増してきているんだよな……!
俺は魔力念話を、悪魔を挟んで向こう側にいるベルさんへ飛ばす。
『ここらで専門家の意見を聞きたいところだ。何かいい手はあるかい?』
『オレ様の攻撃や、お前さんの聖剣を受けながら結構粘ってやがるのは、十中八九、人間の負の感情を力にしているからだろうよ。……なんつったっけ、お前さんと対戦してた小僧』
『ガルフか?』
『奴がまとっていたオーラが、この悪魔との契約の産物だってんなら、その魂を喰いながら、力を使ってるってことだ』
嫌な予感しかしないぞ。
『まさか、ガルフと悪魔を切り離さないとダメってパターンか?』
『ご名答。まあ、やらなくても倒せるだろうけど、その場合すっげぇ苦労することになるだろうな』
『なんてこった……。で、具体的にどうやるんだ?』
『実はもうやってる』
ベルさんが、悪魔の左後方から再三のアプローチをかけ、一撃。振り回された尻尾をデスブリンガーで弾く。
『オレ様も面倒なのは嫌いだからな。奴の動きを少しのあいだを抑えられるか? 小僧をサルベージする』
『OK……』
とは言ったものの……。俺は顔をしかめる。すでに半壊状態の決闘場で、暴風さながらに悪魔がやたらめったに攻撃をばら撒いている。
ユナや、魔術師たちが攻撃魔法を繰り出すも、牽制にしかならず、ダメージは与えられない状態。重力操作などの補助系の魔法も、悪魔は無効化してやがる。
聖剣でちまちま攻め立てつつ、注意を引くか。
俺は再び悪魔の正面から接近を試みる。悪魔も、聖剣を警戒して俺へと暗黒球体を集中してくる。最小限の動きで回避、そして盾で弾く、弾く!
と、悪魔が両手を振り上げ、それを地面に叩きつけた。地震――しかしエアブーツで浮遊すれば影響はない……!
突然、地面から無数の岩の柱が生えた。先端の尖った無数のスパイクが俺を串刺しにしようと迫り、とっさに盾で受け止める。
「……おおっ、どこまで伸びるんだよ!?」
石柱が伸びて、俺はそのまま後ろへと押し出される形になる。悪魔との距離がみるみる開いていく。
だがその間に、ベルさんが悪魔の背後へと回りこむ。そのベルさんの動きを、悪魔が振り向き視界に捉えようとする。
まさにその時だった。悪魔の左目を何かが貫いた。
突然のことに、悪魔が苦悶の声をあげ、その目を押さえる。直後に、今度は右目を何かがえぐった。
狙ったようにピンポイントの攻撃――リアナだ。DMR-M2ライフルによる狙撃だ。円形闘技場の最上部に陣取っている彼女が、ここぞというタイミングで悪魔に目潰しを仕掛けたのである。
グッドシューティング!
リアナのファインプレイの隙をついて、悪魔に取り付いたベルさん。俺からはよく見えなかったが、何かを引っ張り出す仕草が見える。
『よし、小僧をサルベージした!』
そういいながら、ベルさんは小脇に人――おそらくガルフだろうを抱え、決闘場から離脱する。
専門家先生の話が本当なら、これでこの悪魔の抵抗力が下がるだろう。それでは反撃開始と行こうか!
決闘場から生えた岩山のようになっている石柱から降りた俺。聖剣ヒルドに魔力を流し込み、チャージ。次で決めてやる……!
両手で顔を覆っている悪魔。目をやられて狂乱しているようにも見えた。だが周囲へやたら滅多に放つ投射魔法のせいで近づくのが難しくなっている。
おっと、ユナが前にいるな。俺は銀髪巨乳の魔術師のところまで小走りに近寄る。彼女も、俺に気づいた。
「お師匠」
魔法障壁で防御を固めていた彼女。見れば、わき腹から出血していた。
「やられたのか!?」
「かすり傷です」
しかし、無表情なユナにしては、痛むのか表情が強張っている。
「ご主人様!」
サキリスが背中にコウモリを思わす羽根を羽ばたかせて、やってきた。SSマントが飛行用の羽根に変化したのだろうが……お前みていると、メイド服きたサキュバスか女悪魔みたいに見えるぞ?
「サキリス、ユナに治癒魔法をかけてやれ」
「は、はい!」
俺の指示を受け、サキリスはユナのそばに膝をつくと、治癒の魔法を試みる。ユナは口を開いた。
「お師匠、あの悪魔、いい加減に仕留めないとよろしくないのでは……?」
「ああ、大変よろしくないな」
「王国の騎士たちも近づけず、負傷者が激増しています」
「見ればわかる」
悪魔の球体魔法が、盾を構えた騎士たちをはね飛ばす。敵の一弾が飛来したが、ユナの防御魔法がかろうじて防ぐ。
その時、俺たちとは別方向から閃光が走って、悪魔の肩を穿った。何事かと見れば、王都騎士団の聖騎士、ルインだった。聖剣アルヴィトから放つ光弾だ。さすが聖剣持ち。ありがたい掩護だ。
やるなら、今だろう。
「サキリス、ユナ、悪いが手伝ってくれ」
「何なりと、ご主人様」
「何か手があるんですね?」
メイド服の元お嬢様と、巨乳魔術師が期待のこもった目で俺を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます