第369話、三回戦 VS マッドハンター


 二回戦が終わった。


 橿原かしはらにリーレ、マルカスも二回戦を勝ち上がり、俺は三回戦に挑む。そういえば、そろそろおやつ時。試合数からも、三回戦が本日最後、それ以降は明日となる。


 俺の相手は、マッドハンターなる傭兵。全身鎧をまとった騎士というには先進的なメカニカルな意匠の装備を身に付ける男である。


 変身ヒーローのバトルスーツと人型メカを合わせたような感じだ。……こいつ、絶対この世界の人間じゃないだろう。


 それが俺の正直な感想だ。そもそも装備が、あまりに未来チック過ぎる。


 二丁のハンドガン――これは俺が作った魔法拳銃サンダーバレットと、構造が近い武器だろう。魔法杖を拳銃型にしたもので、これについてはまあ百歩譲ってやる。


 だが背中、つまり人型ロボットでいうところのバックパック装備、これについてはさすがに突っ込まずにはいられない。


 左側には箱型、右側に二本の筒状の物体。


 これまでの二試合で使わなかったので詳細はわからないが、箱型はどこか多連装ミサイルポッドのような印象だ。


 右側の筒二本は、見物人たち曰く、歪な形をした騎兵槍ランスではないかという推測。一本については確かに槍かもしれない。だがもう一本は、俺には戦車砲というかレーザーキャノン的な飛び道具に見えるのだが……。


 いくらファンタジーっぽい騎士デザインにしてあるけど、色々隠しきれていない気がする。……あれいいの? 巨人みたいな奴も出ているくらいだから、セーフなんだろう。橿原がぶっ倒した奴と比べたら小柄だ。


 まあ、飛び道具については魔法がある世界という時点で、その延長線にあるものだろう。見た目がアレなだけでな。


 マッドハンターなる男の傍らに、エルフ女とドワーフがついていて、鎧と装備のメンテをしているのを観ると、特にそう思える。


 マッドハンターの鎧は見た目重そうだが、俺のエアブーツ同様、足回りはホバーじみた浮遊と高速移動で機動力をカバーしている。


 ここから導き出される戦術は、相手の近接戦を避けるべく、決闘場の端に下がり、手にした二丁のハンドガンによる連続射撃。必要なら浮遊加速移動で決闘場のまわりをぐるぐると旋回しながら、相手を近づかせず、徹底した射撃で仕留める。……まあ、実際に初戦と二回戦はそれで勝ってきたわけだが。


 おそらく相手の射撃武器や魔法に対しても、加速移動で凌ぎつつ、応戦してくるスタイルだろう。


 さて、こうなると俺は奴にどう対処したものか。


 近接は武器、遠距離は魔法を使うつもりなのだが、あっちは見た目に反して射撃戦特化。盾を構えて突進するにしても、相手が同速以上で動けるなら、追い込み方を考えないといつまでも逃げられる。


 光の障壁などの防御魔法を展開してペンダントの消耗を抑える手もあるが、積極的に手を出さないと審判の心証を悪くして判定負けになる可能性もある。……いやまあ、使うだろうけどさ、防御魔法は。ただこっちも敵さんを追い詰める手を考えないとな。


 徹底的に魔法で応戦がベター……なんだけど、俺はいま魔法騎士生で、派手な魔法を使うのもあんまりしたくないんだよなぁ。


 それもいまさらか。もうすでに二回戦で優勝候補殿を破っている。ある程度、注目度は上がっているから開き直るべきか。地味に、姑息に、勝ちを拾っていきたいね。


 決闘場の向こう、セコンドのエルフとドワーフに補助されながら装備に身を包むマッドハンターが見える。


 俺のそばにいたサキリスが「ご主人様……」と不安げな表情を浮かべた。マルカスも眉をひそめた。


「まるで魔人機とかルーガナ領のゴーレムを小さくみたいだ」

「ああやって着るところを皆が見ている時点で、不正はないんだよな……」


 ごつ過ぎる鎧ってことで決着。


「あんなのが相手とは、同情するよ、ジン」

「お前には言われたくないな、マルカス」


 わかってるか? お前の次の相手は、リーレだぞ。俺より勝ち目ないじゃないか。


 俺はホワイトオリハルコンの剣を盾の裏に収納し、代わりにマルチメイスを右手に保持した。ついでに換装式アタッチメントで杖モードに変える。あと魔石拳銃サンダーバレットを一丁、盾の裏に隠してある。どちらも射程を調整、射撃している時に客席まで届かないようにしておく。流れ弾で死傷者はまずい。


 補助員から守りのペンダントを受け取り、準備万端。俺とマッドハンターが決闘場で対峙する。ああ、やっぱひと回りでかく見える……。


 今大会のダークホース同士の戦いに、観客たちの声が高まる。審判が腕を振り上げた。


「始め!」


 マッドハンターが二丁のハンドガンを抜いた。俺は盾を構えたまま、右手のマルチメイスを向ける。――電撃弾……!


 だが俺は目を剥いた。下がって距離をとると思われたマッドハンターが加速して突進してきたのだ。


 やべっ!?


 ホワイトオリハルコンの盾ごしに重量のあるマッドハンターの体当たりを受けて、俺の身体が飛んだ。トラックにぶつけられるってこんな感覚なのか……、なんて一瞬考えちまった。


 背中から強かに決闘場の床に叩きつけられる。マッドハンターはなおも距離を詰め、二丁のハンドガンを連射した。


 光の障壁、展開! ……後続の電撃弾を弾いたが、最初の一発が俺の膝に直撃し、守りのペンダントが黄緑に変化した。


『防御魔法か……!』


 マッドハンターのかすかに驚いた声が聞こえた。


 やばい、一気に持ってかれるところだった。剣をしまって杖を持ったのが失敗だったかもしれない。あれで奴は距離をとらずに逆に詰めてきたのだ。いい判断してやがるな、さすが傭兵だ。


 光の障壁で時間を稼ぎ、起き上がりながら盾を構え直した俺は、連射モードで電撃弾を放つ。マッドハンターは滑るように下がり、旋回軌道を描きながら回避する。


 だが、そっちへ逃げると場外に出ちまうぞ? 俺を決闘場の端の近くへ飛ばしたのが裏目に出たな!


 マッドハンターの背中、左の箱型がせり上がった。箱の蓋が開くと、赤い球形が六つ……マジでミサイルポッドじゃねーだろうな? 俺の不安をよそに、その球形――魔石触媒から、ファイアボールが放たれた。


 六連ファイアボール砲というべきか。真っ直ぐ直進せず、緩やかなカーブを描きながら、しかし不規則に放たれる火の玉に、俺は攻撃を中断し盾で防御しながら移動する。


 あまり防御魔法に頼ると判定シビアになるらしいからな。魔法防御は厳しいが盾防御は判定にあまり影響しないという妙な基準。


 一方的に叩かれるというのは趣味じゃないんだよな。俺はエアブーツの加速を一段階上げる。ハイスピード、こういうのも実は滅多に見せないんだがね!


 マッドハンターがハンドガンを連射するが、俺はその電撃弾の先を駆ける。大回りで旋回。擬装魔法で、杖をホワイトオリハルコンの剣に擬装。さあ、やるぞ近接戦、というフリ。


 俺はマッドハンターへ向かうコースをとる。さらに小刻みな方向転換を繰り返してのジグザグ機動。これで全部を躱せるほど甘くはないが、盾を構え、それが弾いている以上、無駄ではない。


 マッドハンターが加速移動で、俺から距離をとろうとする。俺が剣を持っているから、接近させないつもりなのだろう。……ならばこれはどうかね!


 スモーク!


 そういえば古代竜戦以来だな、この魔法。俺は黒い煙を垂れ流す。高速移動中なので、黒煙が俺の後ろへと流れていくが、決闘場内がどんどん煙に覆われていく。

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