第354話、ローグたち


「我々は、大帝国に対抗する反乱軍である」


 俺は、使い切ったルプトゥラの杖をストレージに放り投げた。


 放たれた極大魔法バニシング・レイは大帝国の野戦陣地を襲った。その一撃は、侵入してきた大帝国軍の約半分を塵へと変えた。


 ヴェリラルド王国に土足で足を踏み入れたディグラートル大帝国の西方方面軍に対し、俺たちは宣戦布告なき交戦を開始した。


 なに、連中とは国交などありはしないし、そもそも俺たちはヴェリラルド王国の正規の軍人でもない。……今のところはね。


 言うなれば暇を持て余した無法者である。


 大帝国にしたところで、会戦通告などお構いなしに越境している蛮族である。無法者が蛮族を殴るのにルールはいらない。


 ともあれ、大帝国の連中に同情心を抱く者は、俺の他、異世界召喚組にはいない。


 ヨウ君にしろ、リーレにしろ、橿原かしはらにしろ、大帝国を憎んでおり、同時に被害者であったからだ。


 俺がこの世界にきたキッカケは死後転生だが、その転生召喚をしたのは大帝国であり、俺を魔法武器の素材にしようとしやがった。ベルさんとはその時の知り合いだが、彼もまた大帝国をぶち壊すことに一切の躊躇いはない。


 リーレも、リアナも、橿原も、ヨウ君も、フィンさんも、状況に差異はあれど、大帝国がらみでこの世界に来たと言う。可哀想なことに、橿原はその時に同じく転移した友だち二人を帝国に殺されたらしい。


 かくて、俺たち復讐者は、大帝国西方方面軍への夜襲を敢行した。


 軽騎兵による哨戒部隊を、フィンさん、リーレ、橿原があっさり全滅させ、日が沈む前に、大帝国の野戦陣地が見える位置までたどり着く。


 そして美少女、もとい少年ニンジャのヨウ君が先行して、野戦陣地に接近。影を利用した移動は、見張りの目をすり抜け、陣地南側の防壁に爆発呪式――影爆のバリエーション――を設置した。


 ヨウ君が仕掛けを終えて、急速離脱。俺は地平線彼方に見える大帝国の野戦陣地を見やり、バニシング・レイを撃ち込んだのだった。


 陣地の壁に仕掛けた爆発呪式が一斉に起爆、石壁を粉砕して無防備になったところに、先の光の掃射魔法が野戦陣地ごと、そこにいた帝国兵を消滅させた。


 恨むなら、俺たちをこの世界に召喚した、お仲間を恨むんだな! よくも俺たち異世界人を勝手に呼び出して、実験材料にしたり殺したりしてくれたな!


 なお、この場はリアナがいない。ここに来る前、ウェントゥス軍と合流して、食事込みで補給をしていた時、異世界軍隊の美少女兵士は言ったのだ。


『近代軍隊があるなら、もっと早く合流すればよかった』


 彼女はその場で、ウェントゥス軍へ入隊を志願し、さっそくその兵器に触れた。機械兵器が当たり前の世界からきただけにフィットするのが早く、あっという間に戦闘機も乗りこなしていた。


 と、回想終了。俺の極大魔法で掃除しきれなかった分を、待機していたウェントゥス艦隊で始末にかかった。


『全艦、砲撃開始!』


 ディアマンテ率いる空中艦隊からの地上への艦砲射撃。さらに飛び入り参加のリアナが乗るトロヴァオン戦闘攻撃機とメーヴェ攻撃機隊が、夜闇の空に飛来して爆撃を開始した。


 それを尻目に、地上の俺たちは魔法装甲車デゼルトに乗り、野戦陣地跡地へ進出。帝国兵の残党を狩り出した。


 といっても、陣地跡地は跡形もなく吹き飛んでおり、雨霰と降り注ぐプラズマ弾や、航空機からの掃射や爆撃が大帝国兵をドンドン倒していった。


 ……やっぱ、制空権を取ると一方的だよな。


 数では圧倒的に劣るウェントゥス軍だが、極大魔法で数をある程度削れば、後は機械兵器で蹂躙する。機械で猛攻ってのは大帝国さんもやっていることだけど。


 ディグラートル大帝国、西方方面軍は、ヴェリラルド侵攻を開始した直後に一挙に軍団を喪失、壊滅した。


 結果、同軍は西方に進出した戦力の再編成を余儀なくされることとなる。



  ・  ・  ・



 二日後、俺たちはケーニゲン領を離れて、王都スピラーレへと帰ってきた。


 北方での騒動など知らない王都は平穏そのものだった。アクティス魔法騎士学校へ……行く前に、王城へ寄ることとなっていた。


 エマン王と会談したピレニオ先王こと、ベルさんが言ったのだ。


『嬢ちゃんと話がしたいんだそうだ』


 誘拐された件かと思ったが、そうではなく、王子辞めた後はどうするのか、という話らしい。アーリィーがさらわれた件について、エマン王はジャルジーがやったことだろうとお察しだったらしい。


 ともあれ、アーリィーが王子からお姫様に変わるのである。王位継承権を手放すことで、その後の人生というものも大きく変わってくるのは間違いない。アーリィーは王様になりたくないって言っていて、それは果たされる目処はついたが、じゃあその後はどうするのっていうのが、エマン王の疑問なのだろう。


「ボクは、ジンと一緒にいたいな」


 迷惑、かな……? と彼女から小動物のような目を向けられると、胸の奥がかきむしられるような感覚に囚われる。抱きしめてもよかですか? いいですね? もちろん、いいんですよね?


「でも、ジンはさ、ボクが王族のままでいたほうがいいと思ってたりするのかな?」


 アーリィーが不安そうな顔で聞くのである。おいおい、俺が身分で君に近づいたとでもいうのかい? 心外だなー。ここでメンドクサイ人間だと怒ったりするんだろうかね。不安な気持ちはわかるから俺は怒らないけどな。


「王位継承権を手放すのは平気だけれど、王族でなくなったら、ボク、君の役に立てないかもしれない」


 いろいろ挑戦したいけれど、ジンにとってお荷物じゃないかな、と男装のお姫様は言うのである。


 そりゃアーリィーが王族であって、もらえるものあるなら今後の人生楽になるかもしれないけど、同時に、王族の義務やら行事やらに引っ張り出されたり、色々面倒ごとも増えるんだろうな……。


 のんびり暮らしたい派の俺としては、王族としての彼女はどっちかといえばノーサンキューだったかもしれない。普通の人間としてのアーリィーのほうが俺はいいな。


 稼ぐ方法なら俺の場合いくつもあるし、その気で働けばアーリィーの一〇人や二〇人余裕で養っていけると思うよ。……あ、俺、アーリィーと一緒に生きていく気満々だ。


 今更ながら、俺はそれに気づいた。一昔前の俺だったら、王族ってだけで遠慮したいと思っていたのに、今ではすっかりアーリィーと一緒にいて、今後も一緒にいることに何ら違和感をおぼえていない。


 彼女が王子で、でも本当は女の子で、愛人関係みたいと建前はそうだけど、実質恋人同士で、これはもう、アーリィーと正式に結婚しても何ならおかしくない的な感情を抱いている。……周りが許してくれるのなら。


 これは告白を考えておくべきかもしれない。


 エマン王が、公式にアーリィーを王女とした後、彼女をどうするかによるところが大きいとはいえ、正式にプロポーズすることも考えねば。


 そうだよな、俺、アーリィーが抱える性別問題を解決することばかりで、その先のことあまり考えてなかった。


 王子のまま性別が発覚したら、アーリィーの命が危ないかもしれない――王族がどうなろうと知ったことではないが、彼女は助けたい。そう思ってここまでやってきたが、ここらで欲が出てきたというわけだ。


 アーリィーが欲しい。彼女と添い遂げたい、と。


 いや、俺はずっと、そう思っていたのではないか? 思えば、初めて会ったあの日から。アーリィーは俺の好みに合致し、抱きたいと思った。まったくもう……。これには苦笑だわ。


 運命の出会いだったのかもしれない。だけど運命のって、もっとこう、綺麗なものだと思ってたけど、現実は中々そういうものではないんだなぁ。

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