第347話、光の雨が降る


 テラ・フィデリティア航空軍、改め、ウェントゥス艦隊旗艦、巡洋戦艦『ディアマンテ』は、ズィーゲン平原上空にあった。


 旗艦のほか、重巡洋艦1、艦載機搭載可能な航空巡洋艦1、軽巡洋艦2、ゴーレムエスコート4、中型正規空母1、軽空母2からなるウェントゥス艦隊は、戦闘態勢に入っていた。


「巡洋艦戦隊、旗艦に続け。空母とエスコート戦隊はここに固定』


 旗艦コアであるディアマンテは、艦隊各艦に指示を出した。


「ディーシー殿」

「うむ、空母から攻撃隊を発艦させる」


 ディーシーは『ディアマンテ』の通信システムを使い、空母群へと命令を飛ばした。


 ウェントゥス艦隊には3隻の空母が存在する。


 機械文明時代――テラ・フィデリティア軍の高速中型空母『ドーントレス』と、完全オリジナルの小型空母『アウローラ』『アルコ・イリス』である。


 これらの艦載機格納庫と、艦体上面の飛行甲板には、ウェントゥスオリジナルの航空機が発進の順番を待っていた。


 小型戦闘機であるTF-1ファルケ、TF-2ドラケンは格納庫に収められているが、今回は待機。代わりに、飛行甲板に駐機されているTF-3トロヴァオン、TA-1メーヴェが出撃する。これらの機体は対地攻撃用の爆弾や誘導弾を比較的多く積めるのだ。


 浮遊装置を使って、ふわりと甲板から発艦するトロヴァオン、そしてメーヴェ。魔力ジェットエンジンの炎を噴いて、戦闘機と攻撃機は夜の空へと飛び出していく。


 空母から発艦していくウェントゥス航空機を、巡洋戦艦『ディアマンテ』の艦橋から見やり、ディーシーは言った。


「前にもこんなことがあったな。そう、王都をスタンピードが襲った時だ」

「あの時も夜陰に乗じての出撃でした」


 シップコア、ディアマンテは頷いた。


「まだ我々は、この国にとっては正規の軍隊ではありません。こうした陰ながら、その力を使うしかない」

「我が主は、目立つのは嫌いなのだそうだ。連合国にいた頃は散々目立っていたからな」


 その結果の裏切りが、そう言わせるのだ。しかし、極大魔法まで使って、充分目立っていると思うディーシーである。事情が事情だ。仕方がないところもある。


「ディアマンテよ。せっかく軍隊を用意したのに、主にバニシング・レイを撃たせてしまった。つまりは、機械兵器もまだそこまでの信用を得ていないということだ」

「ここらでテラ・フィデリティアの力を、披露したく存じます」


 不敵にディアマンテは言った。ディーシーも笑う。


「主の後始末をするとしよう。任せられるか、ディアマンテ?」

「ハッ、お任せください」


 巡洋戦艦『ディアマンテ』と4隻の巡洋艦が、夜の空を移動する。大地に黒い染みの如く広がる蟻亜人集団に対して、空中艦艇群の砲門が開かれた。



  ・  ・  ・



 俺は暗視の魔法で、残る数万の敵のおおよその位置を把握した。まだまだ数は多いが、残りは機械兵器群に任せられるかな。


 その時、俺のしているシグナルリングが鳴る。


『ジン……ジン、聞こえる?』

「アーリィーか、聞こえてるよ」

『ジンの極大魔法を確認したけど、どんな様子なんだい?』


 ズィーゲン平原の端で、アーリィーたちは待機している。夜に走る光の魔法はさぞ、見ごたえがあっただろう。


「初撃でおよそ七割をやった。残りの連中がいまだ進撃中だ。他にも少数の生き残りがいるみたいだが……。間もなく残っている大集団はウェントゥス艦隊で吹き飛ばす」

『了解。……勝てそうかな?』

「ああ、余裕だよ」


 たぶんな。そう言ったら、アーリィーは幾分か安堵したようだった。地上からでは、敵の全容が見えないからな。


『ところでジン。こちらで斥候せっこうと思われる少数の蟻亜人たちを見つけたんだけど、攻撃してもいいかな?』

「こっちの攻撃が届かないところでならな」


 万一があると怖い。了解、とアーリィーが答えたのを確認し、俺はベルさんの背中を軽く叩いた。


「さあて見物だぞ、ベルさん」


 機械文明の軍隊、テラ・フィデリティアの攻撃が間もなく開始される。



  ・  ・  ・



 空から光が降り注いだ。


 ディアマンテ級巡洋戦艦は全長270メートルの大型艦であり、35.6センチ連装プラズマカノンを6基12門を搭載している。


 その大火力が闇夜を切り裂き、流れ星の如く落下。地面の蟻亜人の集団に炸裂、吹き飛ばした。


 後続する重巡洋艦『シュテルケ』は20.3センチ三連装プラズマカノンを5基15門。航空巡洋艦『ディフェンダー』と、軽巡洋艦『アンバル』は15.2センチ連装プラズマカノン4基8門。そしてルーガナ領に落とした大帝国クルーザーの設計をもとに建造された軽巡『ヴァンデラー』の14センチ連装プラズマカノン4基8門が、小刻みに光弾を放った。


 青いプラズマ弾は、次々にズィーゲン平原に落着し、蟻亜人を蒸発ないし、その体をバラバラに引き裂いた。


 巡洋艦の主砲は、『ディアマンテ』のそれに比べれば小粒だが、連射力に勝っていた。雨が大地に降り注ぐように、亜人集団が防ぐこともできずに粉砕されていく。


 しかし、蟻亜人は、近くで吹き飛ばされようとも、仲間が四散しようとも、その歩みを止めなかった。ひたすら最初に指示された命令を厳守するかのように、犠牲も構わず進み続けた。


 ウェントゥス艦隊は、そんな蟻亜人たちに神の雷の如く、プラズマ弾のシャワーを見舞った。亜人たちに、遥か高空を飛ぶ機械艦艇へ反撃する術はない。


 まさに、一方的。為す術なく叩かれて、潰されていった。


 砲撃の雨の中、分断されつつ前進する蟻亜人だが、そんな小集団に、トロヴァオン戦闘攻撃機、メーヴェ攻撃機が空から猛禽の如く襲いかかった。


 プラズマ砲で、半身を蒸発させられ、対地爆弾の炸裂で燃え死ぬ。死肉の上を旋回するハゲタカのように、航空機隊は地上の獲物を冷静に見据え、仕留めていった。


 ヴェリラルド王国北方領へ侵入した亜人集団は、ここに掃討されつつあった。

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