第332話、大魔術師の逆襲
マントゥルの大魔法が炸裂。大波の後の雷は、彼を除く全体に満遍なく行き渡ったのだが、うちの頑丈すぎる前衛組は平然としていた。
「ベルさん、リーレ、そっちは大丈夫か!?」
確認すれば、ベルさんは「当然!」と返し、リーレは肩を回す。
「少し休んだおかげで、傷も治ったよ。まあ、本音を言うともう少し休んでいたかったけどな!」
などと、魔獣剣士はのたまった。これだから人間に見えて人間じゃないやつは……。この人、傷の再生が異様に早いんだよな。
ともあれ、リアナと
マントゥルが高潮した声を出した。
「ワシの魔法を受けて平然としているとは、魔法具や防具のおかげか? まあよい。どこまでワシと張り合えるか、見てやろう! マジックブレイク!」
ふっと、魔力が俺、ベルさん、リーレに触れた。俺が張った対雷防御に光の障壁、その他ブースト効果が一気に解消されてしまう。
続いてマントゥルは右手を掲げれば、角の生えた頭蓋骨に蛇が絡まっている杖が現れ、そこから三つの青い炎の塊を放った。炎は空中で東洋の竜の形をとり、俺たちへと襲い掛かる。
俺は再度、光の障壁を展開。ベルさんとリーレは青炎の竜を剣で両断――
ぼぅ、と青い炎が散った。それはたちまち前衛二人の身体に燃え広がる!?
「んだとっ!? ちぃ、あちっ――」
「この炎は――」
「それは呪いの炎よ」
マントゥルが、すっと杖の先を、青い炎に巻かれる二人を差す。
「この杖は、多くの呪いを封じ込めた杖だ。その青き炎に巻かれれば、死ぬまでその者を焼き尽くす」
あまりの熱さにリーレが床に倒れのたうつ。いくら再生する身体を持つとはいえ、死ぬまで消えないというのは、ひょっとして永遠に苦痛が続くとかそういう類ではないか?
俺はとっさに水魔法アクアブラストを迫る青炎の竜にぶつける。こいつを消したらリーレとベルさんを助けて――だが水魔法を以ってしても炎は消えない。だが光の障壁に阻まれ、その魔力を浸食する形で消滅した。
「水では消えんよ、魔法使いのガキよ……」
マントゥルは、杖の先を向ける。――ガキって俺のことか、お爺さんよ?
「仲間は呪いの炎で死ぬ。あとはお前を仕留めれば」
青い火の玉が一気に十個ほど具現化し、こちらに飛来する。くそったれ――!
ファイアボール連続展開、迎撃。火に水で向かって失敗したから、今度は魔法に魔法をぶつける相殺効果を狙った連続射出。マントゥルの青い炎と、俺の放った火の玉がぶつかり合い、空中で四散する。
マントゥルの周囲、紫色の陣から禍々しいオーラと共にアンデッド・スケルトンが次々に現れる。怨念をまとった骸骨が次々に数を増やし、マントゥルの前を覆い尽くさんとしている。
ちっ、多勢に無勢ってか?
「……それは無駄だよ、マントゥル」
フィンさんの声がした。見れば、壁にもたれる形で仮面のネクロマンサーが魔術師を指差していた。
「我がカース・フィールドある限り、アンデッドをいくら召喚しようが無意味だ」
「そうだったな、貴様がいたか。ネクロマンサー」
マントゥルが呼び出したスケルトンたちが、行き場をなくしたように立ち尽くす。そこにいると邪魔なんだけどな!
俺は、まず頭上からライトニング、マントゥルの足元を狙ってアーススパイクの魔法を無詠唱で放つ。
アンデッドたちを飛び越えたライトニングはマントゥルの防御魔法に弾かれ、さらに床を砕いてのアーススパイクもまた防がれる。……防御魔法は健在ってわけか!
「では、まず――」
マントゥルが杖をかざした。
「貴様から葬ってやろう、ネクロマンサー」
ライトニング――それが一直線に、フィンさんの胸を穿った。被弾した胸から焼けた白い蒸気が上がる。
必殺の一撃にほくそ笑むマントゥルだったが、すぐにその顔が曇った。仮面のネクロマンサーは平然としていたからだ。
「今のは痛かった。……死なない体とはいえ、痛みを感じないわけではない」
自らを『不死者』と名乗ったフィンさんである。……なるほど、聞いた時は半信半疑だったけど、心臓に一撃喰らって生きていたのでどうやら本当だったらしい。肝を冷やしたけどな。
「……ほんとそれ、な……フィンさんよ」
リーレの弱々しい声。見れば、彼女を包んでいた青い炎は消えていた。
「不死身って言っても、痛覚はあるんだからよぉ……」
「リーレ!」
「馬鹿なっ!」
マントゥルが咆えた。
「呪いの炎を受けて、生きているだと……!」
「まあ、オレ様が喰ったんだけどな」
ゆらりと、暗黒騎士――ベルさんが立ち上がった。彼もまた自らを蝕んでいた青い炎を払いのけ……いや、喰った。
「これでも悪魔の世界では暴食王と言われているんでな。呪いだって何だってオレ様に喰えないものはねえんだよ……」
「まさか……っ!」
マントゥルが驚愕に眼を見開く。
「あなたは、七大魔王のひとり――」
「……知らんな」
右肩にデスブリンガーを担ぎ、ベルさんがマントゥルをねめつけた。
「とりあえず、てめえは死んどけ」
非情な死刑宣告である。……というか、うちのパーティー凄いなぁ。不死者が複数いるって。ベルさんもその中に入るんだろうか、と俺は思ったが口には出さなかった。
動揺しているマントゥルをよそに、俺は青槍を構える。
「奴は、また例の魔法障壁を張ってる。一度破っているとはいえ、同じ手を奴が易々とは許すとは思えない」
まずは防御を崩さないことには、マントゥル本体を倒せない。
「リーレ、お前は動けるか?」
「はっ、動けるか、だと?」
リーレは剣を床につきながらも座り込んでいた。
「ベルさんに呪い払ってもらうかわりに、身体をところどころ喰われたからな。……動けるようになるには、ちと時間がかかるわ」
「フィンさん?」
「あいにく、私もまだしばらく動けそうにない」
仮面のネクロマンサーは答えた。
「不死者とはいえ、そう便利なものでもないのだよ」
「ということは、俺とベルさんで仕掛けるしかないな。どっちが障壁を破る?」
ちら、と俺がベルさんを見る。だが口を開いたのはリーレが先立った。
「まあ、待てよジン。動けないが、あたしが何もしないとは言ってねえぞ……?」
「というと?」
「障壁は、あたしが引き受けてやるよ。その代わり、お前らも範囲内だと魔法使えないから、物理で殴れや」
「何だって?」
俺は首を捻る。何言ってるんだ、リーレ?
自称、魔獣剣士であるリーレは、右目を覆っていた眼帯に手をかけた。
「あたしのいた世界じゃ、呪われた力と言って恐れられたもんよ……。この黄金眼はよォ!」
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