第330話、異形の騎士、その3
ベルさんが再び氷騎士に挑む。暗黒騎士が振り上げるデスブリンガーが、氷騎士の冷気をまとう剣と激突する!
……さて、他の仲間たちはどうなっているか、俺は確認。
ヨウ君は、鉄仮面を――おお、四方から影の戦士を操って串刺しにしている。……敵はヨウ君と戦っているつもりが、いつの間にか取り囲まれて死角からグサリとやられる。彼の常勝パターンだったりする。女子に見える男の娘ニンジャは、今日も不意打ち上等だった。
残るはリーレと
フィンさんとリアナが、対峙しているのは、いかにもな姿の魔術師。あれがマントゥルか。何だが魔術師の周りに悪魔が湧いていて、それを相手にしているようだ。とりあえず、今ヤバそうなのは橿原と青藍か。
「ヨウ君、手が空いたなら橿原を頼む!」
「了解です!」
ヨウ君は、橿原が戦っているバケツ頭の戦士へ。俺は青藍のもとへ向かう。
戦っていたのは竜顔の亜人騎士。ドラゴニュートというんだっけか? ただ生粋のそれとは明らかに異なる。背中に無数に腕を生やし、さらに胸に穴が開いている竜亜人がいるものか。
包丁のような大剣――すっぱり首なんか簡単に切れそうなそれを喰らったか、ゲルプと合体して六腕状態の青藍が、その腕を三つに減らしていた。コバルト装甲も、いくつかへこみが見える。……これ、装甲が鉄以下だったら、完全に破壊されていたパターンかもしれない。
それだけ竜人騎士の打撃力が凄まじいのだろう。なお、奴の背中から生えている手は、動いているのだが、攻撃するでもなく、ただの飾りのようだった。武器として使うには短すぎて届かないのだろう。
じゃあ、悪いが青藍。そのまま奴の正面をひきつけておけ――俺は走りながら、ストレージから対竜武器である火竜の剣を取った。
槍騎士の鎧が魔法対策があったから、この竜人騎士の装備もその可能性を考える。で、あるならば、このまま背後から迫り、鎧の隙間に剣を突き立てる!
分厚い盾も、包丁のような形の大剣も青藍のほうへ向いている。俺は竜人騎士の背中、その鎧の隙間に、火属性の片手剣を刺す。ぐぐっと重い手応え。肉とも言い難い弾力を感じつつ、俺は魔力を流し込む。
「逝っちまいな!」
刹那、火竜の剣にファイアブレスに相当する劫火が走り、それは鎧の隙間から竜人騎士の肉体を焼き尽くす。胸に空いた穴から炎を噴きながら、全身の肉という肉を焼かれた騎士は崩れ落ちた。
・ ・ ・
まったくよう……。
リーレは皮肉げに唇の端を吊り上げた。
二メートル以上もあるノッポの女騎士――明らかに中身は人間ではないだろうそれは、図体の割りに素早く、またリーチの長さも相まってやりずらい。
何度、剣を突き立てられたか。炎の双剣はリーレの身体を穿ち、その肉を焼いた。
――まったく、あたしが人間だったら、死んでたぞ、この野郎……。
魔獣と呼ばれ恐れられた身体。リーレは唇を舐めた。喉もとに、敵の炎の曲刀が迫る。
――駄目だな、こいつはカットだ。
リーレは手にした片手剣『グローダイトソード』で曲刀を防ぐ。だが曲刀使いは二刀流。もう片方の刃が、わき腹に迫る。
――よし、こいつはもらうぞ。
眼帯の女戦士の右側面を、曲刀使いの刃が突き刺さる。身体の中で容赦なく熱が走り、焼け、痛みを全身に伝える。
「いでぇぇっ!」
気が狂いそうな激痛。だがそれはわずかの間。本来なら傷口が焼けたら身体というのは再生しないものなのだが。
――あたしは、普通じゃないんでね……!
ほとんど肉薄するくらいに曲刀使いの頭が間近にある。兜に覆われた顔、その隙間から素顔は窺い知れないが、おそらく眼があってリーレを見つめているのだろう。
――そうだよ、リーチ差があるんだ。肉を切らせて骨を断つんだよッ!
グローダイトソードが振り下ろされた。断頭台の刃の如く、曲刀使いの首が刎ねられる。どす黒い血が噴き出した、リーレは構わず、そのまま曲刀使いの死体を床に叩きつけた。
思ったより手間取ってしまった。動かなくなった曲刀使いを見やり、その後、床に寝転ぶと天井を見上げる。
「ちぃと疲れたなぁ。……ちょいと休憩だ」
身体の傷の再生しないことには、ろくに動けないだろう。――まったく、火傷から再生するのって時間かかるんだぞ。
眼帯の戦士はのんびり。周囲では仲間たちが戦っている物音がするが、少し待っていてくれや――
・ ・ ・
ヨウ君が掩護に入ることにより、橿原がバケツ頭との殴り合いに優位に立った。
影使いのヨウ君が『影爆』をバケツ頭の鎧の隙間に滑り込ませ、関節にダメージを与えたのが大きい。だが肝心の部位は、その頑強な装甲に阻まれているようだった。
さて、ベルさんも氷騎士相手に奮戦しているので、俺は中央で交戦しているフィンさんたちのもとへ駆けつける。
捻じ曲がった角を持つ禍々しい悪魔、がっちりした体躯に翼を持つそれが、手に斧や棍棒を持って挑みかかる。下級の悪魔だろうが、並みのモンスターよりは強そうだ。
リアナはDMRライフルで容赦なく悪魔を蜂の巣にし、フィンさんは闇魔法で大柄な悪魔を串刺しにしていく。
「
リアナが下がりながら、ライフルの弾倉を交換。悪魔の一体が咆哮と共に、突っ込んでくるがフィンさんが掩護に魔法を放ち、それを牽制。弾倉を交換し終えたリアナは、目の前の悪魔の脳天に銃弾を叩き込んだ。
そこへ俺が到着。火竜の剣とサンダーソードの二刀流で、下級悪魔どもを切り捨てる。
「フィンさん、手伝いに来ましたよ!」
「ありがたい。こっちは少々、手詰まりでね」
仮面のネクロマンサーは皮肉げに返した。
「マントゥルは、物理・魔法双方の防御魔法を展開している。こちらはそれを破れなくてな、難儀している」
「……なるほど。それで奴は玉座にふんぞり返って、悪魔を差し向けていると」
マントゥルの傍らに魔法陣が浮かび、中から下級悪魔が生み出される。……召喚魔法にも見えるが、これダンジョンマスターのガーディアンモンスターの具現化のようにも見えるな。
「そうなると、防御魔法を突破して、さっさとあの魔術師を倒すべきでしょうね」
「解除魔法は試みたが、侵食した早々、新しい障壁が出て中々突破できない」
すでに防御を崩すべく魔法を使っていたようだ。そんなフィンさんは、ちらと俺を見た。
「何か妙案は?」
「力押しで解除魔法を続ければ消耗戦ですね。……ひとつ、面白い武器があります」
俺は視界の端、床に転がる槍使いが使っていた魔法槍をチラ見する。
「障壁をこじ開けるので、その隙に本体を攻撃を」
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