第329話、異形の騎士、その2
「フィンよ、わしからの質問だ」
マントゥルは玉座に腰掛けたまま問うた。
「お前たちは、何ゆえ、我が城にやってきた? 狙いは古代遺産か? それとも我が研究か? 何が目的なのだ?」
「……私はネクロマンサーだ」
仮面の死霊術師は淡々と答えた。
「古くから、死霊術に対する偏見に関して、私は憤りをおぼえている。……だがその原因は、死を扱う者というネガティブなイメージもさることながら、生の研究と称して対極にある死を研究し、それを悪用する者の存在があるからだ」
フィンは仮面の奥で目を細めた。
「死霊術を行使する者として、術の悪用を見過ごせない性分でね。さらに言えば、貴様はアンデッドの他に悪魔や人体実験にも手を染めているようだな……。放置するわけにはいかない」
「はっはっ、正義の味方とも言うのか! これは傑作だ」
マントゥルは室内に響く笑い声を上げた。だがすぐにそれも引っ込む。
「研究のどこが悪いというのか! 魔術師ならば研究と実践は正しい行いだと思うのだがね」
「あぁ、周囲に害を与えない限りにおいてはな」
フィンは実に冷ややかだった。
「貴様のばら撒いたアンデッドによって、国一つが危機に陥り、そこに棲む生物に多大な変化を与えた」
「変化ッ! むしろ、それが我が望み!」
マントゥルが闇鉱石の肘掛を叩いた。
「アンデッドによる世界の統一。醜い、争いに明け暮れる人間どもや、わずらわしい種族間のいざこざを一掃し、世界に秩序をもたらす……その偉大なる計画の第一歩だ」
「世界統一……本気でそんなことを考えているのか?」
呆れの混じった調子でフィンは返した。
「せいぜい不老不死に至る研究にでも励んでいたのかと思っていたが……弟子が先ほど口にした時はもしやと思ったが、過ぎたる野心は、己の身を滅ぼすと知れ」
リアナ、とフィンが発した時、彼女はDMRライフルを躊躇いなく発砲した。銃弾はマントゥルの脳天に迫り――
貫かなかった。魔術師の前に現れた黄金の魔法障壁が弾いたのだ!
「弟子のように不用心な真似はせんよ」
くっく、とマントゥルは卑屈な笑みを浮かべた。
「わしは障壁に守られている。……さて、どう破る?」
・ ・ ・
槍使いの騎士が放つ炎の大蛇の突進。素手や生半可な武器で抑えに行ったら焼かれて死ぬんだろうな、と俺は思った。
だが、所詮、魔力によって形作られた魔法。光の障壁を張ることで俺は攻撃を防ぐ。
「見た目は派手だが、それでは破れ――」
障壁の向こうから、槍使いが突っ込んでくる。魔法を弾く槍――それが光の障壁に迫る。
ゾクリ、と背筋に冷たい緊張が走った。殺気を感じ、俺はとっさに下がった。
魔力オーラをまとう槍が、光の障壁を貫いた!
「危ねぇ!」
意外に伸びてきた槍が脇腹をかすめた。さらに下がる俺だが、槍使いは追撃を緩めない。逃げる方向間違えると、壁際に追い詰められてしまう!
こいつの槍は魔法を弾くのではなく、無効化してやがるな。だから防御の魔法も突破してくる。
腰に下げている火竜の牙を抜き、迫る槍の先を弾く。魔法が駄目なら物理で、ってな!
槍使いの頭上に、ぼうっ、と火の玉が複数浮かび上がる。ファイアボールの魔法――しかし、いま俺の張る障壁は、槍使いの槍によってズタズタ。同時には魔法を防げない状態だ。きちんとエグい連係だ。
カウンターマジック――ファイアボールに直接、魔力解除を叩き込んで、その場で消火。槍による突きを火竜の牙で逸らし、そのがら空きの頭に魔力の塊をぶつける!
ところが、槍使いは頭部への魔力の強打をまったく受けなかった。なんでっ!? ――ちっ、その鎧や兜にも魔法無効耐性があるってことですね、こん畜生!
どうやら俺は、魔術師にとってかなり相性の悪い相手を選んでしまったようだ。さすが天才魔術師の手駒、手強いぜ……。
そうなれば――
「閃光!」
目潰しの閃光の魔法を放射。その隙に、ストレージから武器を取り出す。吟味している余裕はないので、適当に打撃武器を取り出す。……えーと、これは、インパクトハンマーだな。
コバルト金属製で作った戦槌だ。片手で扱える大きさと重量。マルカスみたいに片手が盾で塞がっている騎士や戦士用の武器である。
「ブースト!」
筋力、素早さほか身体能力を魔法で強化。敵さんは魔法が効かないが、こっちは別だかんね! 繰り出される槍をかわし、懐に飛び込む。そしてその顔面に今度こそ物理打撃を叩き込む!
「インパクトっ!」
面貌で覆われた顔面に渾身の一撃! 兜ごと頭が飛んで行きかねない打撃を受け、槍使いはひっくり返った。ドスリと床に落ち、手にした槍が転がる。
はいはい、トドメトドメ……。俺は倒れている槍使いの頭に、もう一撃、ハンマーを叩き込む。床や壁で逃げ場なしで叩き込まれる打撃は通常のそれよりも威力が増し、相手が致命傷を負う確率が高まる。ヘタすると中の臓器も潰れる。……もちろん、お互い殺す気で戦場にいるわけだから、情けはかけないけどね。
念のため、左手に持った火竜の牙で槍使いの喉元を裂いていく。死んだふりされても困る。
さて、他のメンツはどうなった?
氷柱が目に入った。おいおい、何だありゃ……って、ベルさんか! 冷気を帯びた騎士に氷漬けにされてしまったのか。手助けが必要か――
と、氷騎士が寒々しい吐息を吐きながら、俺のほうを見た。……ベルさんを倒したつもりになって油断してないかね、こいつは。
氷騎士が、こちらへと突っ込んでくる。
氷には炎を、というのは短絡的。ファイアウォールの魔法を張っても、冷気で守られている敵なら炎の壁くらいなら突き抜けてしまうだろう。
この場合は、物理系の壁が正解。俺は光の障壁を展開、氷騎士は見えない壁に派手にぶつかる。
ファイア・エンチャント。
インパクトハンマーに火属性を付加。殴ったはいいが、武器が逆に凍りついたりなんて冗談キツイからな。
氷騎士の顔面に、インパクトォ!!
ガンと金属同士のぶつかる音が響く。強打された氷騎士の頭が右へねじれる。
と、その時、氷騎士の背後の氷柱が砕けた。
「ぬおおぉぉぉぉっ!!」
ベルさんの咆哮。暗黒騎士が、きらきらと輝く氷片を飛ばしながら現れる。
「出るのに手間取っちまったぜ……! おい、ジン。そいつは、オレ様の獲物だ……」
「ほいほい、じゃ、あんたに任せるよ」
それじゃ俺は、別の奴を相手するかね……。
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