第328話、異形の騎士たち


 六人の異形たちは、俺たちに襲い掛かってきた。


 それぞれの姿は、てんでバラバラ。体格も異なれば、武器も異なる。なにより、大なり小なり不気味だった。


 一人は長身で全身鎧に包まれた騎士。えらく細身でノッポな印象だ。手にした剣は冷気を帯び、また背中から伸びる冷気の靄がマントのようにも見える。兜のバイザーを下ろしているため素顔は見えないが、その隙間から冷気が出ており、どこか怪物の顔のように見える。


 一人は、こちらも細身で長身。鋼色の鎧をまとうがスタイルからすると女性のように見える。というか背が高い。二メートル半はあるのではないか。こちらも素顔は隠れているが、怪物じみた面貌なのは変わらず。両手に持つ曲刀は炎をまとっていた。


 一人は青みかかったマントをまとい、肋骨を模した鎧をまとう騎士。手にするのは細身だがかなり長い槍だ。槍は目で見えるほど濃厚な魔力をまとっている。


 一人は、黒いローブをまとう魔術師風。その顔面には鉄の仮面。やけに精巧な形でつくられた仮面は、当然ながらピクリとも動くことなく、言い知れぬ気味の悪さを放っている。手には杖――いや焼き鏝のようなものを持っている。


 一人は全身丸みをおびた重甲冑を身に付けた戦士。他に比べてがっちりした体格で、やや低身長に見える。頭部をすっぽり覆うその兜は、目の部分が二つ開いている以外は開口部がなく、はたしてその中の顔がどうなっているかはわからない。見ようによっては機械や人形のように見えなくもない。

 武器はなし……いや、ボクサーグローブのような形の手甲を両腕にはめている。あれではモノをつかめない。


 最後の一人は、竜顔の亜人騎士。ただしその背中からほっそりした骸骨の腕がいくつも生えていた。何故か胸の中央にぽっかり穴が開いていて、中に臓器が存在しないように見える。手には包丁のような形の大剣と、いやに分厚い円形の盾を持っていた。


 ……こいつら、中身は人間じゃないんだろうな。


 俺は思う。改造人間か、はたまた悪魔の改造種か。不気味すぎて引くわ。


 リアナが立て続けに発砲した。狙ったのは鉄仮面の魔術師。額に当たった一弾は、カンッ、と金属音を響かせて弾いた。なんつう硬い仮面だ。直後に胴体に二発撃ち込まれ、向かってくる勢いを止めたが、痛みを感じていないのかまた歩き出した。


 ベルさんが氷剣の騎士、橿原かしはらがボクサースタイルのバケツ頭の戦士に対応する。


 炎の曲刀使いがリーレに挑み、ドラゴン頭の騎士が青藍せいらんと剣を交える。


 残るは槍使いと鉄仮面か。俺は、ちらとヨウ君を見た。


「どっちがいい?」

「どちらでも」

「じゃ鉄仮面を任せるわ。あいつ気持ち悪い」

「引き受けました」


 俺は槍使いへ、ヨウ君は鉄仮面へと走った。フィンさんとリアナは後方で戦況を見守りつつ、掩護。特に指示はしないが、二人なら臨機応変に動くだろう。


 俺は槍使いに挨拶代わりにライトニングの乱れ撃ち。すると槍使いは、その魔力をまとう槍の穂先を正面に突き出し、小さく動かした。ライトニングが連続して弾かれ、消滅する。


「おいおい、魔法を弾くのかい……」


 さらに槍使いの槍が劫火をまとい、穂先の動きに合わせて、炎の大蛇が生み出された。


「おう、マジかよ……」 



  ・  ・  ・



「図体がでけぇ癖に速いはえぇな、おい!」


 リーレが舌を巻く。相手にしているのは二メートル半の長身の曲刀使いの女騎士。その細すぎる足で、あっという間に距離をつめ、これまた細い腕がブンブンと器用に二つの曲刀を振るう。リーチ差があり過ぎて、リーレは近づけない。


「しかもあたしに炎の剣を向けるなんて、当てつけかよ……!」



  ・  ・  ・



 橿原トモミは目を見開いていた。


 相対するバケツ頭の戦士。頭を覆う鉄兜、その顔面に一撃を叩き込んだのだが、まるで効いた様子がない。


 鉄さえ破砕する拳を受けても、亀裂ひとつ入らないその兜は何か特殊な素材なのかもしれない。兜に目のようについている穴が二つ、無機的にトモミを見つめる。そんなものか、と言わんばかりに。


 バケツ頭が拳を突き出してきた。回避したが間に合わず、トモミの身体が吹き飛ばされる。そのまま壁に激突。大波に見舞われた小船のようにシェイクされて、一瞬意識が飛びそうになった。


 トモミは戦慄した。今まで戦ってきたどの相手とも違う息遣い。殺意を放ちながらも、それ以外に生命を感じない異様な敵。……こんな奴がいるなんて。



  ・  ・  ・



 一見すると、初手はやや劣勢だった。


 フィンは、仲間たちが不気味な騎士たちの挙動に戸惑っているように感じた。リーレは相手の攻撃を凌いでいるが、押され気味なのは珍しい。


 トモミは敵の一撃を受けて吹き飛ばされた。どうやら無事なようだが、普通の人間だったら死んでいたのではないか。


 ベルは、冷気を放つ騎士と戦っているが、相手の剣が触れたとき、そこから氷が迸り、黒騎士の身体を覆っていく。――あのベルを凍らせるだと!?


 ドラゴン頭の戦士は、青藍と大立ち回りを演じている。多腕対六腕で激しい応酬を繰り広げている。


 ヨウは鉄仮面と交戦。あの素早いニンジャが押されている。虚空から真っ赤に焼かれた焼き鏝が飛び出し、その軌道が読めないようだった。


 さて、どう手助けすべきか。


 ざっと見たところ、ベル、トモミ、ヨウが劣勢に見える。その中で緊急度が高いのは――


「フィン」


 リアナの注意を促す声。銃という武器の向いている先に、フィンは視線を向ける。


 先ほどまで空席だったはずの玉座のような席にひとり、腰掛けている者がいた。


 金で縁取られた白いローブをまとうその姿。魔術師のようだ。この者のまとう魔力は――!


 フィンはこの白ローブこそ、探していたフォリー・マントゥルではないかと思う。灰色の髭を蓄えた魔術師の視線が、じっとフィンを見つめる。


「そこの死霊使い……お前が、リーダーか?」

「さて、どうかな」


 フィンは正面から、玉座の魔術師を見つめ返した。……リアナが銃を構えたまま呟いた。


「撃つ」

「待て」


 フィンは小声で制した。そして問いかける。


「貴様がフォリー・マントゥルか?」

「いかにも。かくいうお前は、何者だ?」

「フィンと名乗っている。見てのとおりネクロマンサーだ」

「……フィン。ネクロマンサー……人間ではないようだが、種族は何だ?」

「こう見えても、人間だよ。……元はね」

「元は、か……面白い」


 マントゥルは笑った。フィンも仮面の裏で皮肉げな笑みを返した。


「そういう貴様も、思ったよりも若いな。それはオリジナルなのかな?」

「ああ、この身体のことか。外装は変わっているが、オリジナルではある」


 外装、か――フィンは心の中で呟いた。どうやら若作りをしているらしい。


 だがその中身について、いささか関心がある。死霊術を研究している者にありがちなことではあるが、その体、本当に人間なのかどうか……?

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