第320話、トラップ


 地下へと降りる階段を守るスケルトンやゴーストを蹴散らして進む。長い階段を下った先にはこれまた三階程度の高さがある大部屋。内装を飾り立て、壁の色などを明るくすれば、立派なダンスホールになりそうだった。……本来はそういう多目的なホールなのだろう。


 だが待っていたのは、ここでもアンデッドども。ダンスの相手としては最低だな。


 部屋の上層には下を見下ろせる窓がいくつもあり、そこからクロスボウで武装した骸骨兵スケルトンが半身を覗かせ、俺たちに狙いをつける。


「リアナ。上の奴らは任せる」

「了解」


 ライフルを保持するリアナが素早く構え、息をする間に立て続けに発砲した。ひょっとして、その銃、セミオートか? あまりにポンポンと撃つので、本当に狙って撃っているのか不安だった。


 だがそれは杞憂だった。リアナは確実に浄化魔法付きの銃弾でスケルトンを撃ち抜いた。上の敵は彼女に任せる。


 俺たちのもとに殺到するアンデッドだが、フィンさんが警告した。


「気をつけろ。さっきまでのアンデッドと格が違うぞ」


 ネクロマンサーは瞬時にそれを見抜いた。


 スケルトンにしろゾンビにしろ、もとは戦士だったのか武装していた。この廃城の番兵どもの成れの果てか。一部のアンデッド兵の剣などに怪しい魔力のオーラが見えた。魔法の剣、か?


「おそらく呪いだろう」


 フィンさんが断定した。


「傷が再生しない類か、身体に異常を与えるものか……ともあれ、あれを喰らわないようにな」

「あいよ」


 リーレはニヤリと笑ってみせる。


「ま、当たらなきゃどうってことはないんだよ。呪いだろうが何だろうが!」


 実際のところ、多少アンデッドのグレードが上がってはいたが、こちらの前衛組はそんなものおかまいなしに潰し、斬り、吹き飛ばしていった。例の死霊騎士とか出てくれば、多少は苦戦するかもしれないが、現状は雑魚の集団を粉砕して済んでいた。


「歯ごたえないな」


 ベルさんが言えば、手甲でスケルトンを砕いた橿原かしはらが「楽でいいじゃないですか」と応じていた。


「まあ、楽なのは、リアナが上の敵を掃除してくれたからだがね」


 それがなければ上からクロスボウの矢が降り注いで、面倒なことになっていた。


「ヨウ君」


 俺は上を指差した。影使いの少女、もとい少年ニンジャは頷く。壁に向かって走る

と、その壁を垂直に駆け上がり、上層へ一気に乗り込んだ。


 さすが身軽なニンジャ。ヘタに浮遊するより早い。ヨウ君は周囲を確認してから下にいる俺たちを見た。


「異常なしです!」

「ありがとう。戻っていい。前進しよう」


 ホールを突破。次の階層へ行く階段を目指して移動。途中、魔法で操られたと思う家具が襲ってきたが――


「残念だが、魔力でバレバレだ」


 お化け屋敷じみた仕掛けだと苦笑する。非武装の一般人ならビビらせられるだろうが、武器を持った相手にそれはマズいでしょって。


 動く家具を叩き潰した後、いくつか部屋を探索した後で地下三階へと下りる。石造りの通路。少し広くなったところで、道が四つに分かれている部屋に出た。


「さて、どれが正解への最短ルートかな?」

「分かれて捜索するかい?」


 リーレが聞いてきたが、わざわざ分散して敵を喜ばせることもないと思う。


「ベルさんのハエで様子を見てもらって決め――」


 俺が言ってる最中、前を行くそのベルさんとリーレの姿が消えた。続いて橿原、ヨウ君の姿が見えなくなったと同時に、俺の視界も暗転した。


 なんだこれ? いきなりかよ!? 


 トラップだとしたら、まんまと引っかかっちまった! 浮遊したような感覚を感じた次の瞬間には、地に足がついて、同時にバランスを崩して尻餅をついた。……うへぇ。 


 不意にパッと明るくなった。魔石灯がついたのだ。冷たい緑色の照明が四つ、室内を照らした。狭い部屋だ。床の広さはタタミ三枚くらい。石壁に囲まれた壁は圧迫感が強く、窓も扉もない。


 ひょっとして牢屋みたいな小部屋に転送させられて閉じ込められた……?


 何てこった。どうやらダンジョン内に設置された転送魔法陣がトラップとして床に仕込まれていて、それに乗ってしまったようだ。


 たぶん、他の面々も、魔法陣トラップで飛ばされたと見るべきだ。ベルさん、リーレ、ヨウ君に橿原。……俺より後ろにいたリアナ、フィンさんとゴーレムたちは踏む前に気づいただろうか。


 おそらく飛んだ連中は、俺みたいに個室にご案内されたと見るべきか。俺は部屋内を探ってみる。しかし、何で魔石照明の色が緑なのか。


 どこかに隠し扉の類がないか。踏んだ奴を飛ばして餓死させる類の部屋なら出口なんてないんだろうなぁ……。じゃあ、俺はどこから来たんだ? 落ちてきたということは上だろうが。 


 しかし特に魔法陣らしきものは見えない。いや待てよ。


「ライト」


 照明の魔法を使って、部屋に緑以外の光を当ててみる。……あった。天井に魔法陣が。緑色の照明のせいでほぼ魔力の刻まれた文字というか線が見え難くなっていた。


 さて、どうしたものか。俺はポータル使って入り口まで戻るって手もあるけど、他のメンツはそうはいかない。仮に戻ったとしても、俺ひとり、一からやり直しってのもな。


 じゃあ、適当に壁とかふっ飛ばしてみるか? 魔法を使って――いや、ここ狭いからな。使う魔法間違えると危ない。


 壁に手をあて、砂に変換する魔法を使用する。


 ……?


 おや、石が砂に変わらない。魔法を使っているのだが、まったく変化がない。……おいおい、ひょっとして対魔法防御効果が張り巡らされていたりするってか?


 そうなるとだ。魔法は効かない。転移の杖も魔法無効では無力。なんともご丁寧に処理してくれたものだ。


「ふむ」


 そうなると、魔法に頼らない方法を使うしかないということになる。が、普通の人間では強固な石壁の部屋に閉じ込められたら、どうしようもないんだよなぁ。


「まあ、普通の人間なら、ね……」


 飛ばされた他の連中は大丈夫だろうかねぇ。

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