第319話、廃城探索


 ディーシーはダンジョンコアだ。だからマントゥル側からも探知され、目立つので今回は、ストレージで待機してもらう。


 シェイプシフター兵をポータル経由で召喚。万が一、俺たちが中に侵入している間にマントゥルに逃げられると面倒なので、外を固めてもらう。


 よし、突入だ。


 廃城、一階フロア。


 明かり一つないので、照明の魔法を使って部屋全体を見回す。……どうせここはダンジョン。こちらが何しようが、すでに敵は俺たちの侵入に気づいている。だったら堂々と明かりをつけてやる。何せ隠密性に優れるヨウ君の影すら見つけられてしまうくらいだからな。


 とても広々とした空間だった。黒い床と壁がどこまでも無機的で冷たさを感じる。壁に刻まれた白い模様のようなものは、古の魔法文字だろうか。文字とも、何かの紋様にも見える。ひんやりした空気が床から這い上がり、どこか物が腐った臭いが鼻腔をくすぐった。


「いかにも、悪魔の神殿じみてますね」


 橿原かしはらが率直な感想を漏らした。相変わらずの制服姿なのだが、よく見れば彼女の腕に緑色に輝く手甲がついていた。心持ち、眼鏡の奥の目もとも鋭くなっている。


「化け物とか出てきそうな雰囲気」

「出てきそう、というか、もう出た」


 ベルさんが、デスブリンガーを構えた。


「フロアにアンデッド集団だ!」

「団体さんのおつきか!」


 リーレが腰に下げていたショートソードを抜いた。漆黒の刀身に、特に飾りのないシンプルな剣である。


 ヨウ君は、いつの間にか黒のニンジャ服姿に変えている。


 フロアにある奥の部屋と通じている扉、四つから、スケルトンやゾンビが姿を現した。さらに壁から霊体――ゴーストも複数出現する。


 わらわらと、その数はあっという間に十を超え、さらに増えていく。


「まずは肩慣らしというところだろうな。各自、全力を出さない程度に迎撃!」


 それぞれから「了解」の返事。


「よっしゃ、行くぜっ!」


 リーレが死霊の群れに怯むことなく突進する。ベルさん、ヨウ君も前衛として飛び出し、やや遅れて橿原がつく。


 フィンさんは特に慌てるでもなく、悠々と歩き出し、リアナはというと。


「ブラオ」


 傍らにスクワイア・ゴーレムを呼ぶ。見れば青ブラオのコンテナには、機関銃があった。……デゼルトから外したと思ったらこんなところに。


 リアナは自身の銃をブラオに預けると、機関銃をとった。何気にスクワイア・ゴーレムの扱いに慣れてませんかねぇ。


 機関銃を設置、床に腹ばいになり、伏せ撃ちの態勢。味方を迂回しようとするアンデッド集団めがけて先制の射撃を開始した。


 さて、俺は物理で殴るグループが苦手だろうゴーストを叩くとするか。


 ゴーストは、薄い青や紫といった霊体。ときどき、ボロ雑巾のようなローブを被っていたりするが、基本的には浮遊して迫ってくる。その身体を構成するのは、負の魔力。その力を使って魔法を使ったり、あるいは接触することで相手の心身に悪影響をもたらす。


 怒りや悲しみ、怨嗟のこもった魔力――まあ、要するによくない感情でできたゴーストであるが、負だろうが魔力には違いないので、これまでどおり魔力には魔法で対応する。


「……燃えろ」


 魔力の壁を放つ。接触と同時に燃焼する魔法であるそれは、飛来するゴーストの負の魔力が触れた瞬間、炎となり、その魔力を一瞬で喰いつくした。空中で、無数のゴーストたちが瞬きの間に燃え、消滅していく。まさに一掃である。


 前衛組もアンデッドを問題なく屠っていく。ベルさんは相変わらずの一刀両断で、同時に複数体を切り裂けば、リーレもまた負けじと敵の間近に踏み込んでゾンビの首をはね飛ばし、頭を失ったそれを蹴倒していく。


 その傍らでは、橿原が手甲付きの右腕に力を溜める。


「陣風・砕拳さいけん……!」


 冷気をまとった風の渦が放たれる。真正面にいたスケルトンが凍りつきながら同時に骨を砕かれ、後続のスケルトンやゾンビが複数まとめて切り裂かれながら吹き飛んだ。


 ヨウ君は、素早くゾンビどもの間を駆け抜ける。ゾンビの噛みつき、殴打を避けながら、すれ違いざまに相手の身体に軽くタッチ。


「影爆」


 呟くような声と共に、ゾンビたちがヨウ君に触れられた箇所から火を噴いて爆発した。腐りかけのハラワタぶちまけたり、ちぎれ飛んだ手足――何ともグロい……。


「……あまり、穢れた血や肉片をばら撒くのは薦められないのだが」


 フィンさんは、仲間たちがゾンビをバラバラにして倒していくのをよそに、散歩でもするかのような足取りで進んでいく。


「ダークランス」


 短詠唱による魔法『闇の槍』がゴーストを消滅させる。剣を持ったスケルトンが、カタカタと音を立てながら死霊術師に迫る。だがフィンさんが人差し指を軽く向けたら、そのスケルトンは糸が切られた操り人形のように、骨ごとにバラバラになって床に崩れた。


「……私は専門家だ。スケルトンを解体するなど造作もない」


 リアナの機関銃、スクワイアたちの射撃が、敵の数をすり減らす。前衛たちも個々の能力で敵を圧倒していて、一階正面フロアのアンデッドはやがて掃討された。結果的に敵は一〇〇以上はいたと思うが、こちらに怪我人はなかった。


「これで全部か?」


 リーレが自分の肩を叩くように剣をポンポンと当てた。フィンさんが口を開く。


「ああ、気配は感じられないな。まぁ、ゴーストどもなら、どこからともなく湧くだろうがね」

「ベルさん、どうだ?」


 俺は暗黒騎士を見る。


「……おう、使いが戻ってきた」


 索敵に出したハエたちが、一階フロアの捜索を終えたのだ。書くものを寄越せ、とベルさん。


「グリューン」


 俺はスクワイアの一体を呼び、その背中のコンテナを形成する一パネルを外す。浮遊効果のある板の上に、ストレージから紙と羽根筆とインクを置いていく。


 ベルさんが筆をとり、紙に即席の地図を書いていく。……あまり画を描かないせいか、線がかなり適当な感じだが、それは黙っておく。俺たちがいる大フロアの奥に四つの部屋があって、さらにいくつか分岐。


「ハエどもの情報に寄れば、敵は地下へ降りる階段のあたりに重点的にいて、上への階段がある部屋はがら空きだ。あまりにも無防備だから上は捜索させたが、敵はいなかった」

「つまり、マントゥルらは地下か」


 俺は頷いた。


「ベルさん、下にも偵察を先行させてくれ。俺たちも降りるぞ」

「おう」


 ベルさんは再び使い魔であるハエを放つ。残るメンバーも廃城地下攻略のために準備する。いよいよマントゥルが潜む廃城の地下へ。

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