第315話、異世界助っ人たち


 天才魔術師にして、ヴェリラルド王家を謀った男、フォリー・マントゥルが絡んでいるとされる今回のアンデッド出現事件。その解決のために、異世界人であるヨウ君が呼んだ助っ人は、俺も知る異世界人たちだった。


 その1、リアナ・フォスター。


 地球連邦軍、特殊戦闘グループに所属する強化人間。年齢17歳。長い金色の髪に、深海色の瞳。少女の面影を残す顔立ちは美しいが、残念なことに機械のように表情が硬い。階級は三等軍曹だったと言う。


「久しぶり」


 リアナは、淡々とした調子で言った。俺も応じる。


「おう、久しぶり。最近どうだい?」

「わりと、忙しい」


 聞けば、冒険者として活動しており、Sランクに近いAランクとして評判なのだという。


 フード付きカメレオンコートをまとう彼女は、腰のホルスターにサンダーバレットを下げている。


 彼女は、俺が開発した魔法銃のプロトタイプを使っていた。シェイプシフター兵が使っている魔法銃も、もとを辿ると、リアナ用に製作した装備がオリジナルだったりする。


 異世界から転移したという彼女と出会い、行動を共にする機会があった。地球連邦軍なんて言うから、出身世界に地球があるのだが、連邦軍なんて聞いた事がないので、俺がいたより未来の世界からの転移者かもしれない。


 サンダーバレットは、専用の改造が施されたリアナスペシャル。他に近接用の鋼製の短刀を差しているが、これは俺はノータッチだ。さらに、前回会った時には持っていなかった武器をリアナは持っていた。


 見たところ銃だった。それも長銃身、スコープ付きのライフルである。


「……どうしたんだ、これ?」

「ドワーフに作らせた」


 お、おう。俺より未来の世界の住人だろうし、軍人なんだから銃なんか当たり前なんだろうが……。ドワーフに作らせた、とは。


「最近、わたしにあだ名がついた」

「あだ名? 『サイレント・アサシン』って呼ばれてたよな、お前」


 俺が言えば、リアナは首肯した。


「魔術師殺し、マジシャン・キラー」

「……ああ、何となく理解した」


 そのドワーフに作らせたという狙撃銃で、魔術師の射程外からズドン、だろうな。この世界の魔術師は、基本長射程の魔法は不得意な分野である。


 銃と狙撃と殺しのスペシャリストの助っ人1名加入。


 続いて、助っ人その2。リーレ。――その名前しか知らない。ファミリー・ネームの類は教えてもらっていないから。


「何か、ヤバいのが相手だって?」


 勝気な女の声。浅黒い肌に黒髪をショートカットにした女性だ。外見は二十代だと思われる。好戦的な表情は、どこか狼を思わせる。その右目は眼帯で覆われ、左の瞳は薄い緑色。紺のベレー帽を被り、同色のマントに戦闘服。腰には刀身が短めのショートソードを差している。見たところは軽戦士という格好だ。


 剣に加え、魔法も得意である魔法剣士――いや、彼女曰く、魔獣剣士だという。どの辺りが魔獣なのか、よくわからないが、彼女の戦闘を目の当たりにしたところ、そうなのかもしれない、と思ったりする。


 こちらも冒険者ランクがAになっていた。


「まあ、Sランクの奴だって負ける気しねぇけどな!」


 彼女は豪快に笑った。この自信満々な言動は揺ぎ無く、また実際に自信相応に頼もしい。


「それで? もとの世界に帰る方法は見つかったか?」

「いいや、ぜんぜん!」


 リーレは深刻さの欠片もない調子で返した。


「そう簡単にみつかりゃ、苦労はしないっての」


 彼女は、自分のいた世界への帰り道を探している。


 こちらは、俺や他の異世界人とは別の世界からの転移者のようだ。……何せ聞いたこともない国や地名、名前ばかりだったからな。


 細身なのに常人離れした力を持つ一方、魔法にも長けている。中・近距離型の戦士である。


 最後に助っ人その3。橿原かしはらトモミ。


 日本人。年齢は18歳。長いストレートの黒髪に、眼鏡を着用。清楚な和風美少女。ただその格好は濃緑色の外套、その下には同色の制服ブレザー、チェック柄のミニスカートと、完全に日本の女子高生である。


「ご無沙汰しております、ジンさん」


 ぺこりと、橿原はお辞儀をした。うっすらと微笑んでいるように見える表情。実は日本の女子高生の平均より身長が高めなのだが、リアナやリーレと並ぶとそうは感じなかったりする。


「相変わらず、その格好なんだな……」


 俺は、異世界でも、もとの世界の格好で通している橿原に苦笑する。なお、彼女の眼鏡や服装は、精霊の加護で壊れたり破れたりしないようになっているらしい。


「最近はこの格好でいるほうが魔除けになるので」


 笑顔を崩さない橿原である。はてさて魔除けとな……? 俺が首をかしげると、橿原はポケットから、冒険者プレートを出した。


「見てください、ジンさん。私、Aランクになったんですよ」

「……それはおめでとう」

「ありがとうございます」


 一見すると女子高生が、Aランク冒険者というとバリバリの違和感なのだが、橿原の場合、そんなものだろうと納得している俺である。


 まず、彼女は、普通の女子高生ではない。猪俣いのまた流攻魔格闘士の称号を持つ戦士である。なにやらファンタジー臭のするその武術流派を聞くと、本当に同じ日本人かと思うのだが……。


 とにかく、助っ人に呼ぶだけの実力の持ち主であるのは間違いない。何せパワーだけなら、迫り来る5トントラックさえ返り討ちにするだけの力がある。色々おかしい……。


 この世界では、橿原はマジックナックラー、魔法拳士を名乗っている。武術の心得がある彼女は、逞しくこの世界で生きているのである。


 以上の三名が、ヨウ君とフィンさんが手配した異世界転移の助っ人たちだった。……うん、こいつらだけで、軍隊相手にできるんじゃないかね。それだけ、個人の力が突出した面々であると言える。


「それで――」 


 リーレが代表して、俺たちを見た。


「退屈しのぎにお呼ばれしたんだ。詳しい内容、聞かせてくれねえかな? あたしらに何させるつもりなんだ?」

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