第285話、戦力強化期間


 ルーガナ領ボスケ大森林よりさらに奥、未踏破地域。そこにあるカプリコーン浮遊島工廠施設の復旧作業はかなり進んでいる。


 また、そこで魔力生成による修理が進められていた機械文明時代の艦艇も続々と再就役が可能な状態となっていた。


 機械文明時代の旗艦コアというディアマンテは報告した。


「現在、カプリコーンには私を含め14隻が、稼働できる状態となっております」


 テラ・フィデリティアの航空艦艇群。その旗艦とも言うべき巡洋戦艦『ディアマンテ』を筆頭に、巡洋艦5隻、空母3隻、護衛艦4隻、揚陸艦1隻という陣容である。


「ルーガナ領空で撃墜した大帝国の主力クルーザークラスが相手ならば、質の面で我が方が圧倒しています」


 ディアマンテは自信を滲ませる。実に頼もしいことだ。主力武装であるプラズマカノン砲塔は、大帝国の実弾系主砲よりも、命中精度、威力、速射性能、射程いずれも勝っている。


「今、ヴェリラルド王国に敵の空中艦隊が現れても、迎撃が可能です」

「問題は、大帝国がどの程度の戦力を差し向けてくるか、だな」


 西方諸国の中でも、このヴェリラルド王国は取り立てて強国というわけではない。周辺国同様、大帝国から見れば中世レベルの戦力に留まっている雑魚と見られているだろう。事実、俺たちが裏で古代文明遺産で機械兵器を準備していなければ、その見方は正しい。


「でも、俺たちは、ルーガナ領に踏み込んできた大帝国の工作部隊を撃退しているからな。あるいは一筋縄ではいかないと、敵さんの評価を上げているかもしれない」


 大帝国は魔人機を送り込んできたし、クルーザーも1隻投入している。それらがいずれも未帰還であることは、当然奴らも知っているはずだ。


 大帝国が雑魚と見ている国としては、空中艦艇を14隻も持っている時点で、警戒されて当然だろう。その雑魚国では、1隻の空中艦艇も持っていないものだから。対抗できるものがある時点でブラックリスト入りだ。


「まあ、あちらさんも、こっちが何隻の艦艇を持っているか知らないんだけどね」


 そもそも、王国正規軍すら、その存在を知らないのだ。王国に入り込んでいるスパイも、その存在を掴むことができずにいるに違いない。


「スフェラによるシェイプシフターによる諜報活動では、大帝国も戦艦級の大型艦艇を建造して実戦配備しはじめたという」


 大帝国も、連合国を圧倒しているが、さらに性能に勝る艦艇を作り、より強くなっている。


「私も拝見しました。30.4センチ主砲を装備しているとか」

「ディアマンテの主砲は――」

「35.6センチプラズマカノンです。現状は私のほうが優れています」


 実弾系主砲に対してのプラズマカノン主砲だもんな。話にならないよ。


 質では圧倒していても、こちらの14隻は、どうにも寄せ集め感が凄い。

 ディアマンテはともかく、巡洋艦5隻は、機械文明時代でも旧式だったという重巡洋艦『シュテルケ』、大帝国クルーザーを再現、改造した『ヴァンデラー』、テラ・フィデリティア時代の主力軽巡洋艦である『アンバル』『アマティスタ』、試作航空巡洋艦『ディフェンダー』とバラバラだ。


 空母も、テラ・フィデリティア時代の正規品は、高速中型空母の『ドーントレス』のみで、小型軽空母の『アウローラ』『アルコ・イリス』は、ウェントゥス・オリジナル。


 護衛艦4隻なんて、ゴーレムを作る要領で建造した無人艦だもんな。


「いずれも、シップコアが搭載されていますから、乗員がなくとも航行ならびに戦闘は可能です」


 ディアマンテは言った。


「ですが、コア以外の制御として、スフェラから回されたシェイプシフター・クルーたちが、各艦艇で、操艦ならびに兵器運用の訓練中です」

「シェイプシフターたちは、一度熟練になると、そのまま増殖や知識共有でベテラン個体となる」


 俺はウェントゥス軍を構成する変幻自在な兵たちを思い浮かべる。


「最初に覚えるまでの訓練期間は必要だけど、それ以後は、補充兵が新人ではなくベテランが配備できる。これは大きい」

「人員の損失による補充で問題になるのは、質の低下」


 ディアマンテが頷いた。


「人数の少ない組織は、熟練兵を失えば、加速度的に弱体化します」

「新人が物になるまで時間が掛かる。だがシェイプシフターは、次の補充兵もベテランだからね」


 ロールプレイングゲームなどのゲーム的な言い方をすれば、人間はゲームオーバーしたら、どんなに強くなっていても、レベル1からニューゲーム。しかしシェイプシフターの場合は、以前の強い状態を引き継いだまま、セーブ地点から再開できる。この差は大きいよ、ほんと。


「これからバンバン新造艦を作っても、補充人員がベテランばかりなら、戦力化も早いだろう」


 大帝国なんて強国と戦争になったら、いくら質がよくても14隻で戦い抜くなんて不可能だ。消耗するし、敵だってドンドン強い武器を作って投入してくるだろう。


 機械兵器を用いたことで、戦場のスタイルが大きく変わった。工業化、そして国家総動員――今までの、勢いで相手の意志を砕き、大将を打ち取った、大勝利ー、なんて単純なものではなくなる。


「今は、成長の時だ。シェイプシフターたちの練度を上げて、シップコアやコピーコアの経験値を貯めていこう」

「はい、トキトモ様」


 ディアマンテは首肯した。


 きっちり兵たちが育つまでは、大帝国さんには、大人しくしていてもらいたいねぇ。



  ・  ・  ・



 カプリコーン工廠近くの演習場。


 俺は魔人機ウェルゼンの操縦席に乗り込んだ。ウェントゥスオリジナルの魔人機であるウェルゼンは、大帝国の魔人機ドゥエルと互角以上に戦える性能を持っている。


 俺が鋼鉄の巨人を歩かせていると、すでに先に演習場に出た魔人機が模擬戦をやっていた。


『ほうら、どうしたどうした新人ども! もうへばったのかー?』


 外部スピーカーを通してベルさんの声がした。彼が乗っているウェルゼンはブラック塗装の改造機である。


 対峙しているのは2機のウェルゼンは標準型であるが、乗っているのはアーリィーとマルカスである。


『マルカス君、もう一度行くよ! 右へお願い!』

『了解です、アーリィー様!』


 ふたりともよくやるよ。


 マルカスは、俺たちウェントゥス軍で、大帝国と戦う決意を固めた。午後の訓練では、冒険者としての実技だけでなく、ウェントゥスでの魔人機や航空機などの操縦訓練も受けている。


 アーリィーは、王都地下の白い魔人機に触れたことに触発されたようで、より熱心に取り組んでいる。もともと戦闘機やヘリの操縦に関心を示して覚えていた。彼女もまた、将来に備えているんだろうね。


 俺、やる気のあるのって好きよ。

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