第282話、ゴブリン・スイープ
アーリィーが先制として放ったエアブラストは、前衛ゴブリンたちを慌てさせた。
ゴブリン・アーチャーが反撃に出たが、放たれた矢はエアロシールドによって逸らされる。
もともと小柄な体格で力はさほどではないゴブリンだ。アーリィーの張った風のシールドを貫くには、もっと距離を詰めなければ無理だろう。
アーリィーの風弾、そしてサキリスがライトニングを放つ。ゴブリンがたちまち数をすり減らし、前衛のマルカスの前に来た時には、すでに四体ほどしか残っていなかった。
マルカスはサンダーシールドをかざし、新兵装のフロストハンマーをゴブリンに叩き込む。四体程度では、マルカスの相手にすらならない。
ここまでは順調だ――高みの見物を決め込む俺は表情を引き締める。
『次からが、本番だぞ……!』
ゴブリン集落から増援、いや主力が出てくる。ぞろぞろと向かうゴブリンは三十以上。さらに後続も戦闘準備中。盾持ちが中央。軽装備のやつが両翼か。
配置を見ながら、俺は、ゴブリン集団の戦法を推測する。正面から迎え撃つと囲まれる。そして混戦となったら、奴らは平然と背後から叩きにくる。
「ブラオ」
アーリィーがスクワイア・ゴーレムを呼んだ。マギアバレットを預け、自身は右手に剣、左手に片手魔法拳銃――サンダーバレットを握る。
「サキリス!」
前衛の金髪戦乙女が後退する。一方でマルカスはアーリィーの手前まで下がる。アーリィーがサキリスとポジションを入れ替えたように見える配置だ。
三十ものゴブリンが広く展開しながら壁のように迫る。小柄な小鬼の集団といえど、たった三人で防ぎぎれるようには、傍目には見えない。
「それでは、始めますわ! ……魔力の蔦、かの者どもの足を止めよ、アレストヴァイン!」
補助系の拘束魔法。本来は、相手に魔力の蔦が絡みつき、その動きを止める。が、魔力の蔦を自在に操れるということは――
駆けるゴブリン、その足を魔法の蔦が引っかかった。木と木の間にぴんと張られた魔力の蔦がゴブリンたちの足をひっかけ、バタバタとその場で転倒させる。
本来一体ずつに使う拘束魔法も、工夫次第では拘束はできずとも足を絡めて複数を転倒させることができる。特にこんな木や草、茂みなどが多い森の中。しかも敵を前に突撃している者たちには効果
隊列が乱れたところに、マルカスとアーリィーが突撃した。
マルカスはフロストハンマーで、起き上がりのゴブリンの頭を兜ごと吹き飛ばす。
アーリィーは軽武装のゴブリンたちへとエアブーツの加速で接近。剣で手早くゴブリンを刺し、斬りながら、左手の魔石拳銃を近くの敵に叩き込む。利き腕ではない左手の射撃だが、近接戦の距離なら狙いをつけるでもなく当てられる。わずかな時間で数体を相手にし、仕留めていった。
ゴブリンも態勢を立て直そうとする。起き上がり、鉄の大盾を構えるゴブリン。だがそこに迫るはマルカスのハンマー。
「鉄の盾だろうが――」
ガン、とフロストハンマーが直撃。その瞬間、マルカスが手元のボタンを押し込むと霜竜の魔石が青白い冷気を発散、たちまち盾が凍りつき、次の瞬間、大盾を砕いた。
さらに回り込もうとしたゴブリンに、マルカスはサンダーシールドをぶつける。表面に電撃が走るそれに、たちまち感電するゴブリン。動きが止まったところでフロストハンマーが振り下ろされ、陥没した死体が築かれていく。
「敵の後ろ! 指揮官らしき奴!」
マルカスが叫ぶ。
半壊したゴブリンの集団の中に、一人だけ身なりがまともなゴブリンがいた。
ミスリル製のメイスに、金属製の甲冑をまとうは、おそらくゴブリン・ロード。ここの隊長か、あるいは集団全体のボスかもしれない。
さらに後続のゴブリンどもが合流するかと思われたその時、左翼のヴォード氏、ユナのペアが戦場に参戦した。ユナのファイアボール乱舞で、増援十体が火に包まれ、ドラゴンブレイカーを振り回すヴォード氏が、ゴブリンの重装兵を一撃で両断していく。
……うーん、参戦するのがちょっと早くありませんかねぇ、ギルド長。まだ高みの見物中の俺とベルさんである。
『まあ、ピンチになるまで待つことはないしな』
ベルさんは、のん気な調子で言った。
『嬢ちゃんたちも、ノルマは果たしている』
『そうだな』
アーリィーたちは順調に戦闘を進めていた。ゴブリン・ロードと合流した増援に対し、どう戦いを見せるか興味深くはあるが、そろそろ手を貸す頃合だったかもしれない。
その間にも、アーリィーがゴブリン・ロードへ向かって距離を詰める。周りのゴブリンたちが、ロードを守ろうとするも、突然、その足に絡まる魔法の蔦。
「わたくしを忘れないでもらいたいものですわね!」
サキリスがアーリィーの後ろを追いながら、邪魔なゴブリンどもの足を取る。エアブーツでの跳躍で飛び上がると、フレイムスピアでゴブリンを貫き、炎噴射で無理やり槍を引き抜くと、次の標的に襲い掛かる。
アーリィーはゴブリン・ロードに挑み、剣で打ち込む。ゴブリン・ロードはメイスを振り、アーリィーの一撃を防いだが、直後、彼女の左手の魔法拳銃を至近距離から喰らうことになった。一騎討ちに見えたそれも、まさに秒殺で決着がついた。
俺とベルさんが戦場に踏み込んだ時には、すでに残敵掃討のレベルだった。集落に残っていたゴブリンを含め、冒険者たちの猛攻で壊滅するのだった。
近隣の村々を襲ったゴブリン集団の最期だった。
・ ・ ・
終わってみれば、何ともあっけないものだった。俺は、もう少しアーリィーたちが苦労するかと思ったのだが、案外そうでもなかった。
勘定してみれば、集団の半数以上をアーリィーたちで倒していて、途中で上位冒険者が加わったものの、それ以前の戦いぶりを見れば、充分な働きだったと言える。
ヴォード氏も「昇格に問題ない。むしろ充分すぎる」と太鼓判を押していた。
何より、疲れただとか、ちょっと身体の一部が痛いとか、痺れたとか言っているが、全員が怪我ひとつなかった。
ゴブリン集落で戦利品回収と、その遺体の処理を行う。今回のゴブリン、割と装備品がよかった。
ゴブリン・ロードはミスリル製のメイスを持っていたが、これはおそらく人間の冒険者を倒して手に入れたか、盗んだ、または拾ったといったところだろう。
狼などの動物の頭蓋骨を利用した兜、骨を使った鎧に、レザーアーマーと思しきツギハギだらけの服、鉄や木の盾。鉄製の剣に斧、槍、弓矢などなど……。
さらに集落からは、人間の集落や旅人から奪ったと思われる日用品や小道具、金品を回収した。ゴブリンがお金を使うことはないのだが、宝石などを含めて、キラキラしたものを集めておく習性でもあるのだろう。
正直、持ち主などわかるわけもなく、返却のしようもないのだが、ヴォード氏は
「お前たちで好きにすればいい」と冒険者の基本権利――戦利品の所有権を委ねた。
作業を終えて、集落が再利用されないように処理。アーリィーやサキリスも魔法を使って後始末までこなしたのは、ヴォード氏から見ても好印象を与えたようだった。
そして俺たちは装甲車デゼルトに乗って、王都へ戻るのだった。
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