第277話、白騎士
「白き巨人? 何だい、それは?」
俺はアーリィーを見やる。
古代都市の城の天守閣。王の間の奥にあるのは白き魔人機。アーリィーは魔人機に近づいた。
コクピットハッチが開いていて、魔人機の手が昇降用ステップの位置で止まっていた。片膝立ちだったのは、操縦者が降りた時の姿勢だったのだろう。
「白き巨人はね、ヴェリラルド王国建国の礎となったとされる伝説に出てくるんだ!」
アーリィーは魔人機の手を踏み台に、コクピットへ滑り込んだ。
「たぶん、これがそうだよ! 凄い、実在していたなんて……!」
彼女は興奮を露わにした。古代文明とか、伝説とか調べるのが好きだというアーリィーだ。そりゃ、伝説で知っていたものが目の前のあったら、こうなるよな。
「巨人って、魔人機だったんだ……! 鎧という記述もあったけど、操縦する人が乗り込むからだとすれば納得!」
オタクみたいになっているけど、大丈夫? 俺は苦笑しつつ、白き巨人、いや白騎士に近づく。
アーリィーが操縦桿を握る。いつの時代のものか知らないけど、案外綺麗そう――
「ジン!」
ベルさんが叫んだ。同時に、俺の足元が激しい光を放った。
何かのトラップ――!? いや、これは魔法陣……!
俺だけじゃない。というより、白騎士の足元が中心のようで、その周囲がすべて魔法陣の範囲内だった。
光に視界が遮られたのもわずかの間。眩い光が消えた時、俺たちは野外にいた。
転移魔法だ。俺たちは地下から外へ飛ばされたらしい。周りには高い石の壁――城壁があって、わらわらと兵士たちが集まってきた。
「お前たち、何者だ!?」
「白い巨人だと!? どこから!?」
ヤバい予感。兵士たちも混乱しているようだが、とりあえずいきなり現れた俺たちを不審者として取り押さえようと集まってきているみたいだ。
その兵士たちの格好、ヴェリラルド王国の王都守備隊で見たぞ!
「ここは王城か!?」
「どうするよ、ジン?」
ベルさんが剣に手を掛けようとしている。ここで剣を抜いたら、間違いなく敵だと判断されるぞ。
マルカスやサキリスも状況に追いつけずパニック寸前になっている。転移で逃がすか――
『全員! そこでストップーっ!!』
周囲にスピーカーを通してアーリィーの大声が響いた。兵たちは一瞬ビクリとなり、動きが止まる。
『騒がせてごめん! 敵じゃないから落ち着いて。ボクはアーリィー・ヴェリラルド。王子だ!』
アーリィー様?――殺気だっていた兵たちが武器を下ろしつつ、近くの同僚と顔を見合わせる。
『胴体のとこ! ハッチが開いているから見えるよね? ちょっとした実験でここに飛んできちゃっただけだから、皆、仕事に戻るように! あ、指揮官だけは残ってくれるかな? 事情を説明するから』
アーリィーの声が周囲に響き渡る。兵たちは、我らが王子様の言葉に大いに混乱している。
「アーリィー殿下!」
野太い声が響いた。アーリィーはその声の主を探し――それに気づいた。
『ボルドウェル将軍!』
「殿下、これはいったい……?」
『うん、事情を説明するから、とりあえず兵たちを下げてほしい。ボクも、この機体から降りたいから』
「は、はあ……わかりました」
要領を得ないまま、将軍さんは兵たちを下がらせた。
アーリィーのとっさの機転のおかげで、城内侵入の不審者として逮捕されるのは避けられた。とんだ事故だよ、まったく。
・ ・ ・
結果的に事情聴取はされた。ただ場にアーリィーがいたことで、だいぶ事務的なもので済んだが。
俺やベルさん、ユナが上級冒険者だったことも影響しているかな。下級冒険者だと高圧的に当たられることもあるが、上級冒険者だと王国側も多少腰が低くなる。
いや、やっぱりアーリィーがいたことが大きかったかな。ただ彼女は、国王様の前で説明をさせられる羽目になったけど。
ただ、アーリィーが言っていたヴェリラルド王国建国の礎になったとかいう白騎士を発見したことで、エマン王からそうそう悪いことを言われなかったようだ。
王都の地下にある古代都市の話もすることになったが、エマン王の関心はそちらと白騎士型魔人機に向いていたことで、俺たちは早々に解放され、青獅子寮に帰ることができた。
マルカスとサキリスは、色々あり過ぎてお疲れだったので、さっさと自分たちの寮に帰した。お疲れさんでしたー。
「あの白騎士は、没収されちまったけどな!」
ベルさんが皮肉っぽく言った。俺は苦笑する。
「しょうがないさ。何たって、あの魔人機はこの国の宝みたいなものだろう」
「冒険者ルールで、第一発見者のものになるんじゃなかったっけ?」
「その第一発見者にアーリィーも含まれているからな。王子様だぞ、しょうがないって」
まあ、気持ちはわかるよ。ヴェリラルド王国建国にも関係した魔人機がどういう性能を持っていたとか興味はあるし。大帝国のドゥエルタイプより性能がよければ、こちらでもその技術とか応用できたかもしれないし。
「王国預かりじゃ、ちょっと手は出ないけどな」
「そうでもないぞ」
学生たちがいないので、黒髪魔術師の姿をとっているディーシーが言った。
「発見して、王子様が乗り込む前にスキャンした」
「おっ、さすがディーシー!」
解析魔は機会を見逃さなかったか! でかした!
「が、どうもそれがいけなかったかもしれない。あの転移魔法陣は、我の魔力と干渉して誤作動をおかしたやもしれん」
「……じゃ、何か? お前さんのせいでオレらは王城の中庭に転移しちまったってか?」
呆れ顔になるベルさん。転移魔法陣が作動しなければ、国王や王都軍にも知られなかったかもしれない。
「可能性の話だ。正確にあれが原因ともいいきれん。……が、もしそうだったなら、すまん」
ディーシーは謝った。俺は肩をすくめる。
「まあ、可能性の話だ。それに、白騎士がヴェリラルド王国の宝なら、どの道、俺たちが保有するのはまずかったかもしれない。さっさと帰ってこれたし、万々歳ってことにしておこう」
無事に帰れたことは何よりだ。王都地下の探索から、思いがけない騒動になっちまったなぁ。
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