第276話、玉座の間で待つモノ


 いちいち解くのも面倒そうなんだよな……。それにここのシェイプシフターに、こちらの手の内を明かすことにもなる。罠部屋を抜ければ抜けるほど、俺たち侵入者について学習するというわけだ。


 変身能力、分断……なりすまし。


 最悪の展開を考えるなら、あのシェイプシフターが、人間に化けてくるパターンだろう。


 俺たちの誰かに化けることができたとして、もし何かの弾みでパーティーが分断された時、合流したそいつが変身したシェイプシフターだったとしたら?


 うちのシェイプシフターたちは声や性格をかなり正確に再現するが、果たしてここのやつらはどうなのか。まあ、化けたからといって、できないことはできないから、とある行動さえとってもらえれば、本物か偽者かすぐわかるけど。


「どうしたの、ジン?」


 考え込んでいる俺を心配したのか、アーリィーが声をかけてきた。俺はDCロッドを握り込んだ。


「ショートカットしよう」


 この城内は俺の持つDCロッドがダンジョンテリトリー化している。そうであるなら向こうの思惑通りに動いてやる必要はない。


 転移魔法陣を王座の間の前の通路に設置。俺たちのそばに入り口の魔法陣を置いて、一気に跳躍することにした。


「早いですね」


 ユナの一言に俺は「だろう?」と答えた。転移魔法陣で、王座の間の前に到達。


 DCロッドのスキャンによると、中に魔物の反応がある上に、扉も赤く表示されていた。


「……ユナ、扉を吹き飛ばせ」

「はい、お師匠」


 俺が投げやりな命令を出せば、ユナは蹂躙者じゅうりんしゃの杖を掲げ、エクスプロージョンの魔法を放った。王座の間の扉――それに擬態していたシェイプシフターを塵に変えた。


 王座の間へ侵入。前衛のベルさんを中心に、右にサキリス、左にマルカスが展開する。


 俺とアーリィーが中央、後衛はユナとスクワイアのブラオ。


「気をつけろ。正面の敵、分離したぞ!」


 黒スライム――シェイプシフターが複数、左右に広がる。俺たちを取り囲むような動きだ。10……いや1ダース以上が左右に展開している。さてさて、どう出る? ここは先制するも手か?


 シェイプシフターたちが、ぶるぶると震えだした。分裂? いや、変身だ。黒スライムの身体が伸び上がり、人間サイズになったかと思うと――


「!?」

「そんな!?」


 マルカス、サキリスが同時に驚きの声をあげた。 


 スライムだったものは、あろうことか俺たちに化けたのだ。自分と同じ顔の人間が左右に二人ずついるという異常事態に動揺が広がる。


 うん、まあ、こういうことは起こるかも、とは思ってたよ。シェイプシフターだもんな。俺やベルさん、アーリィーでさえ驚きは小さかった。


 いやー、俺やベルさんに化けた個体がいるってのは何とも言えないな。こいつらの強さもオリジナルほどあったら、目も当てられないんだけど。……ま、それはない。こいつらには決定的なアレに欠けている。


 とか思ってる間に、俺たちに化けた偽物連中が武器を手に突撃してきた。姿はもちろん、装備の再現も完璧だ。……故に乱戦になったら、もうどれが本物か見分けがつかない。


「ど、どうすればいいんだ、ジン!?」


 マルカスは盾を構え、襲撃に備える。アーリィーもマギアバレットを構えたが、撃たない。自分や仲間たちと同じ顔で迫られているので、とっさに引き金が引けないのかもしれない。


「動くな!」


 俺は皆に聞こえるよう叫んだ。光の障壁、全周囲展開。俺たち全員のまわりを見えない障壁が囲む。突進してきた偽物たちの武器が障壁にぶつかり、音を立てる。


 乱戦になったら見分けがつかない? なら乱戦にならなければいいのさ。


 それに俺やユナの偽者が杖で殴りにかかっているのも想定済み。……そうだよな。お前ら、魔法が使えないんだもんな。何故かは知らんけど。


「ジン?」


 そう心配そうな顔をするな、アーリィー。入り乱れない限りは、障壁の外にいる奴らは全部偽物だってわかってるから。


 さてさて、連中が障壁の外でもたついている間に、掃除しましょうかね。範囲指定――吹き荒れろ、ファイアストームッ!


 光の障壁の外を紅蓮の火柱が吹き上がる。それはたちまち周囲を囲む偽者たちを炎の中に飲み込んだ。


 自分たちと同じ姿をした者が焼かれ、消し炭になる、というのは、考えるとあまり愉快なものとは言えないな。幸い、炎の渦に飲まれたせいで、その姿はすぐに見えなくなったが。


 ファイアストームが消えた時、偽物たちの姿はどこにもなかった。2ダースほどいたそれらは、もともと火に弱いという特徴が残っていたのか塵も残さず消滅したのだ。


「これで、全滅……っと。――!?」


 そこでようやく俺は気づいた。部屋の奥、玉座の後ろに白い甲冑をまとった巨人が膝出ちの姿勢で控えているのに。


「……これは」


 アーリィーが一歩を踏み出す。


「魔人機……?」


 白き巨人、それは鋼鉄の人型。大帝国や、俺たちウェントゥスが独自開発した魔人機のようであった。


 ただ、その頭部のフェイス部分は、大帝国のドゥエルタイプともカリッグなどとも違う。騎士をそのまま大きくしたようなスタイルだ。


「この都市も古い時代のものらしいからなぁ」


 ベルさんも、それに近づく。


「こいつも、そうした魔人機かもしれねえ」

「シェイプシフターとやらが化けているわけではありませんわよね?」


 サキリスが疑いの視線を向ける。いいや、ディーシーの識別じゃ、こいつは生物じゃないよ。


 ウェントゥスで、俺たちが作った魔人機を見ているユナやマルカスも、意外な遭遇に驚いている。


「玉座の後ろということは、この城の主の持ち物だったのかもな」


 王様専用の剣とか鎧とかみたいに、専用の魔人機だったのではないか。……大帝国もこういう遺跡から、魔人機を発見したりして軍備に応用したかもしれない。


 ユナが口を開いた。


「鎧の意匠も高級感があります。王族専用というのも頷けますね」


 白い甲冑じみた装甲には、金の縁取りやら溝がある。


「王族、専用――」


 アーリィーが、ハッとしたような声を出した。


「もしかして、これ……ヴェリラルド王家に伝わる白き巨人!」

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