第274話、野生の……


 町に入るための橋を渡る。石ではあるが、非常にきれいに整っていて、なにやら特殊な加工がしてあるように見える。


 何もない橋を渡って、都市に入ろうとしたところ、いきなり歓迎を受けた。


「気をつけろ! 魔法生物だ!」


 欄干らんかんの上の飾りに思えた魔獣を模した石像――それが動き、牙を剥むいたのだ。


 ガーゴイル――悪魔の顔に獅子の身体、コウモリの翼を持つ姿は、見ようによっては小型の竜のようでもある。石のような身体を持つそれが飛び掛り、前を行く前衛組が慌てて飛び退く。


「マルカス! 後ろだ!」


 正面のガーゴイルに気をとられていた彼の背後に、もう一体のガーゴイルが飛び掛る。


 魔力障壁――俺のかざした左手が魔力の壁を作り、マルカスの背中を狙ったガーゴイルにぶつかり、弾き飛ばした。


「すまない!」


 マルカスが盾を構え、二体目に備える。


 一方、一体目は、アーリィーの正面に迫る。彼女はマギアバレットを構え、ガーゴイルの顔面に撃ち込んだ。


 飛び掛ろうとしたガーゴイルは、顔面を撃たれ、一瞬体勢が崩れた。だがすぐに再度跳躍の姿勢をとった。


 お前、アーリィーを狙うんじゃねえよっ!


 俺は、一体目のガーゴイルの前に割り込むと古代樹の杖を振りかぶる。『硬化』に加え、魔力を杖先に集中。殴打、その瞬間、集中した魔力を解放。


「インパクト!」


 ガーゴイルの首から先が吹っ飛んだ。頭は橋の向こうへ飛んで行き、そのうち堀の水に落ちるだろうが、そんなことはどうでもいい。


「ジン、ありがとう」

「どういたしまして! 無事だな?」

「うん!」


 もう一体のガーゴイルはマルカスが盾でいなしつつ、メイスを顔面に叩き込む。そこへ横合いからサキリスがフレイムスピアを突き入れる。


 ガン、と穂先がガーゴイルに刺さるが、それもわずか。石のような身体を貫くには威力が足りない。


 が、突き入れた時点で、サキリスは魔法文字の円を押し込む。炎が爆発的に噴射し、ガーゴイルの身体の中を熱し、溶かして吹き飛ばした。


「ほっ、さすがの威力ですわね、この槍は!」


 よろよろとよろめくガーゴイルに、マルカスがトドメの一撃を叩き込むと、魔力で動く石像がバラバラに崩れた。


「やれやれ……」


 ベルさんが暗黒騎士形態になると、崩れたガーゴイルの身体を漁り、魔石を引っこ抜いた。


「なるほどねぇ。こんな忘れられたような古代都市でも、魔法生物や防衛人形は生きてるってこったな」

「ガーゴイル、ゴーレム。その手の類はまだ向かってくるか」


 俺は町を見上げる。ベルさんは手に入れた魔石を俺に放ってきた。受け取った俺はそれをストレージにしまう。


「というわけで、皆、用心しろ。橋だけとは思えないからな」


 皆が頷くのを確認し、俺は視線を都市の中央にある、城らしき建物を睨む。


「出発だ」



  ・  ・  ・



 地下水道に隣接する地下空洞にある都市――古代竜がいたのを地下都市と呼称したので、ここは仮の名称として『古代都市』とつける。


『ディーシー、アイボールを展開』

『了解した』


 念話での短いやりとり。DCロッドから単眼球体アイ・ボールを12体、召喚生成。移動する俺たちの前方左右に先行させた。


 索敵自体は、DCロッドがやってくれるが、アイボールを使うことで、俺たちの目視範囲外の視覚を手に入れる。誰かが住んでいるとも思えないが、いたらいたで騒動は確定だからね。


 しかし、今のところこの都市で、人の姿を見ることはなかった。


 地下水道でも見かけた緑や青のスライムのほか、大ネズミを見かけた。これらの対処は学生たちも慣れたもので、かなり安定して敵を処理していた。


 ちょっと数が多くて、学生たちではキャパがオーバーしそうな時は、ユナが得意の炎魔法で一気に焼き払っていた。


 魔力糸を繋げての誘導ファイアボールも、八体まで同時に仕留められるようになっていた。……何気に成長早くないですかね、この人。


 さて、先に進む俺たちであったが、俺にとっては嬉しくない事態が発生する。


 偵察のアイ・ボールが、黒いスライムに攻撃されているらしく、次々に消息を断った。……浮遊する単眼球体も攻撃できるのか。面倒をかけさせてくれる。


 さらに追い討ちをかけるように予想外の事が起こる。


「いま、人がいたような……」


 それに気づいたのはサキリスだった。この大昔に打ち捨てられたような廃墟も同然の都市だが、人がいたか……?


 マルカスが口を開く。


「見間違いじゃないのか?」

「いえ……確かに人だったような」


 遠くでしたから、とサキリスは眉をひそめる。魔水晶の輝きがあるとはいえ、言ってみれば星空またたく夜の街を歩いているようなものなので、正直、視界は良好とは言い難い。


 ユナが俺のもとへ来た。


「お師匠、どうしましょう? 確認しますか?」

「……」


 ディーシー、どう? 念話で呼びかければ。


『確かにいるが、スライム……いや、こやつらは、おそらくシェイプシフターだぞ』

『シェイプシフターだって?』


 姿を代える化け物。変幻自在の妖怪などと言われるモンスターであるが、俺たちには姿形の杖――シェイプシフター・ロッドがあって、シェイプシフターを使役している。


『ここにも、シェイプシフターのお仲間がいるってか?』

『反応が、どうにも我らのシェイプシフターとほぼ同じだ』


 こんなところにシェイプシフターが住んでいるとか、予想外過ぎて驚いている。


『相手がシェイプシフターなら、交信できるか?』

『スフェラに頼んだらどうだ? シェイプシフターを制御する杖なのだから』


 ディーシーがもっともらしい意見を出した。彼女は、ルーガナ領ウェントゥス地下基地にいるんだが。


「お師匠……?」


 ユナが小首を傾げている。俺が押し黙っていたせいだな。


 さて、どうしたものか。一度、ウェントゥス地下基地へ呼びにいくか……?

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